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〝みんなの〟遼ちゃん
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補習授業始業前の教室は、普段の授業とは違って、1年生の教室がある東校舎ではなくて2年生の教室がある中央校舎です。なんと偶然にも遼ちゃんの担任してるクラス。
初めて入る2年生の教室。それだけでドキドキが止まらないのに、遼ちゃんの気配を感じる場所はあたしには勉強どころじゃなくなってしまいます。
補習授業を受けなくてもいいのにあたしに会いにきてくれた茉奈ちゃんが授業始まる前にしてくれたお話しが、そんなあたしのドキドキを何倍も膨らませてしまいました。
クリスマスイブのあの日、遼ちゃんをご指名してくれた野球部員の男の子は若林君で、そのお仲間さんの中にはカップルもいて、茉奈ちゃんもその中の1人だった。それは、後から遼ちゃんからメールで教えてもらってたから知っていたんだけど。
あの日はみんな、カラオケに行って、楽しくてずいぶんと遅くまで騒いでしまったそう。
それで、カラオケ出たところで大学生の男の人のグループに絡まれちゃったみたい。大学生の一人に茉菜ちゃんが腕を掴まれちゃって、
「若林君が私を助けてくれようとして突き飛ばされて、手首を捻挫しちゃったの」
え……、そうだったの? それは遼ちゃんから聞いてなかったよ。あたし、声も出なくなっちゃった。
怖かったでしょ?
「ひよりが泣く事ないよ?」
茉奈ちゃんが困った顔であたしに優しく言ってくれた。でもだって、茉菜ちゃんのその時の気持ち考えたら泣きそうになっちゃって。
キュッと目を閉じて両手で頬を軽く叩く。茉奈ちゃんがそんなあたしを見て笑った。
「ありがと、ひより。心配してくれたんだよね」
あたしは、涙出そうだった目元を拭って、うんって頷いた。
茉奈ちゃんのお話では、野球部のコは皆、ケンカがどれだけ大変な事を招くか知ってるから、絶対に手は出さなくて、大変なことになりそうだった時、たまたま通りかかった巡回中のお巡りさんが助けてくれたそう。
それで、その大学生も一緒に警察署に連れていかれて――遼ちゃん参上、に至るんですね。
遼ちゃんから教えてもらった時、真っ先に茉奈ちゃんの事が気になってたから、茉菜ちゃんが何ともなくて良かったけれど。
「それでね、私達、親に連絡しても来てもらえない子ばっかりで。じゃあ、担任は? っていう話しも出たんだけど、男の子達全員野球部だったから、平田センセがいい! ってみんなで速攻決めちゃったの」
ドッキーン!
遼ちゃんの名前が出ると分かっていつも動揺しちゃう。
そ、素知らぬフリ。
それにしても、遼ちゃんが呼ばれた経緯にそんなことが、と思いながらあたしは相槌。
「そ、そうだったんだ」
「それでね、」
幸い、茉奈ちゃんあたしの挙動不審は気づかずに話し続ける。遼ちゃんが話題になると、ドキドキします。
「平田センセがまたすごかったの」
……すごかった?
そんなシチュエーション、なにが? どんな? どんな意味のすごい? 遼ちゃん、なにしたの?
あたしはの頭の中は ??? で一杯に。
「あのね……、大学生の人たち、全然反省してないように見えたのが、腹立っちゃったみたいで、それで――」
その時だった。コンコンと外から窓を叩かれた。見ると、野球部のユニフォーム姿でネックウォーマーに手袋して白い息を吐く若林君達。
ここ1階だったね。寒いのに、これから練習なんだね。
茉菜ちゃんが窓を開けながら話しかける。
「若林君、今ね、ひよりにこの前の事話してたの」
ヒヤッとする空気が中に流れ込んであたしは首を竦めた。
「ああ……平田っちの話?」
うんうんと頷く茉奈ちゃんに若林君苦笑い。
怪我は大丈夫? と聞くあたしに軽い捻挫だから、と笑いながら答えてくれた。若林君のお友達が、隣から話してくれる。
「平田っちが血の気が多いってこと、忘れてたんだよな、俺達」
野球部の仲良し3人は、揃って苦笑い。
みんなのお話しによると。
遼ちゃん、反省していない大学生さん達に飛びかからんばかりの勢いで怒鳴って。大学生さん達は、すっかり大人しくなって。
「もうしません、とか深々頭下げさせちゃったんだよ。俺達が抑えなかったら、殴りかかってたよな、絶対」
ど、どんな遼ちゃん……? あたしの知ってる遼ちゃんは、優しい遼ちゃん。あたしのドキドキはよそに、みんなはとっても楽しそう。
「警察官のおじさんにも、先生抑えて抑えて、とか言われて」
そうそう、とみんな笑う。遼ちゃんたら……、と思っていたら、若林君が言った。
「帰る時に、いい先生だなぁ、って警察官のおじさんが笑いながら言ってた」
みんな頷いてて。帰りも、女の子達はタクシーに乗せてあげて、男の子達は遼ちゃんが全員家まで送ってあげたって。
遼ちゃんのこと思ったら、胸がチクンと痛んでしまった。
遼ちゃんは、みんなの遼ちゃん。先生なんだよね。
「そういや、俺思うんだけど……」
練習に戻ろうとした若林君が思い出したみたいに言った。
「後から考えてみたら、平田っち、機嫌も最悪だったよ、アレ。もしかして彼女とヤってる最中とかだったんじゃね?」
きゃああぁぁぁ!
みんなの、あー! という納得顔の中であたしは1人真っ赤。
「わー、宮部真っ赤!」
「ダメだよっ、若林君! ひよりの前でそんな話したら!」
「なーに言ってんだよ。宮部だってもうこんな事くらいなぁ?」
「ひよりチャーン、かわいー!」
み、みんな……勝手な事を。
そんな話をしているうちに、先生が入ってきて、若林君達はグラウンドに戻り、茉奈ちゃんは「ひよりまたね」と手を振って教室から出ていっちゃった。
始業前の話にあたしのドキドキはなかなか治まらなくて。補習はボロボロでした。
先生に何度当てられても出来なくて。
遼ちゃんのクラス。何だか遼ちゃんに見られているみたいで恥ずかしくて。
茉菜ちゃ達から聞いた遼ちゃんが遠くて。あたしの遼ちゃんじゃなくて。
なんだか、遼ちゃんは先生で、どんどんあたしから離れていってしまいそうで。
遼ちゃん、どこにも行かないよね?
ずっと、ずっとあたしのそばで、あたしの遼ちゃんでいてくれるよね?
苦しくなってきちゃった。
泣きたくなっちゃって。
「みやべぇー! 頼むから泣くな~!」
教室にドッと笑いが起こっちゃった。
黒板の前でチョーク持ったまま固まるあたし。
え~ん、みんなの前で先生にそうやって言われるのが一番泣けます~。
初めて入る2年生の教室。それだけでドキドキが止まらないのに、遼ちゃんの気配を感じる場所はあたしには勉強どころじゃなくなってしまいます。
補習授業を受けなくてもいいのにあたしに会いにきてくれた茉奈ちゃんが授業始まる前にしてくれたお話しが、そんなあたしのドキドキを何倍も膨らませてしまいました。
クリスマスイブのあの日、遼ちゃんをご指名してくれた野球部員の男の子は若林君で、そのお仲間さんの中にはカップルもいて、茉奈ちゃんもその中の1人だった。それは、後から遼ちゃんからメールで教えてもらってたから知っていたんだけど。
あの日はみんな、カラオケに行って、楽しくてずいぶんと遅くまで騒いでしまったそう。
それで、カラオケ出たところで大学生の男の人のグループに絡まれちゃったみたい。大学生の一人に茉菜ちゃんが腕を掴まれちゃって、
「若林君が私を助けてくれようとして突き飛ばされて、手首を捻挫しちゃったの」
え……、そうだったの? それは遼ちゃんから聞いてなかったよ。あたし、声も出なくなっちゃった。
怖かったでしょ?
「ひよりが泣く事ないよ?」
茉奈ちゃんが困った顔であたしに優しく言ってくれた。でもだって、茉菜ちゃんのその時の気持ち考えたら泣きそうになっちゃって。
キュッと目を閉じて両手で頬を軽く叩く。茉奈ちゃんがそんなあたしを見て笑った。
「ありがと、ひより。心配してくれたんだよね」
あたしは、涙出そうだった目元を拭って、うんって頷いた。
茉奈ちゃんのお話では、野球部のコは皆、ケンカがどれだけ大変な事を招くか知ってるから、絶対に手は出さなくて、大変なことになりそうだった時、たまたま通りかかった巡回中のお巡りさんが助けてくれたそう。
それで、その大学生も一緒に警察署に連れていかれて――遼ちゃん参上、に至るんですね。
遼ちゃんから教えてもらった時、真っ先に茉奈ちゃんの事が気になってたから、茉菜ちゃんが何ともなくて良かったけれど。
「それでね、私達、親に連絡しても来てもらえない子ばっかりで。じゃあ、担任は? っていう話しも出たんだけど、男の子達全員野球部だったから、平田センセがいい! ってみんなで速攻決めちゃったの」
ドッキーン!
遼ちゃんの名前が出ると分かっていつも動揺しちゃう。
そ、素知らぬフリ。
それにしても、遼ちゃんが呼ばれた経緯にそんなことが、と思いながらあたしは相槌。
「そ、そうだったんだ」
「それでね、」
幸い、茉奈ちゃんあたしの挙動不審は気づかずに話し続ける。遼ちゃんが話題になると、ドキドキします。
「平田センセがまたすごかったの」
……すごかった?
そんなシチュエーション、なにが? どんな? どんな意味のすごい? 遼ちゃん、なにしたの?
あたしはの頭の中は ??? で一杯に。
「あのね……、大学生の人たち、全然反省してないように見えたのが、腹立っちゃったみたいで、それで――」
その時だった。コンコンと外から窓を叩かれた。見ると、野球部のユニフォーム姿でネックウォーマーに手袋して白い息を吐く若林君達。
ここ1階だったね。寒いのに、これから練習なんだね。
茉菜ちゃんが窓を開けながら話しかける。
「若林君、今ね、ひよりにこの前の事話してたの」
ヒヤッとする空気が中に流れ込んであたしは首を竦めた。
「ああ……平田っちの話?」
うんうんと頷く茉奈ちゃんに若林君苦笑い。
怪我は大丈夫? と聞くあたしに軽い捻挫だから、と笑いながら答えてくれた。若林君のお友達が、隣から話してくれる。
「平田っちが血の気が多いってこと、忘れてたんだよな、俺達」
野球部の仲良し3人は、揃って苦笑い。
みんなのお話しによると。
遼ちゃん、反省していない大学生さん達に飛びかからんばかりの勢いで怒鳴って。大学生さん達は、すっかり大人しくなって。
「もうしません、とか深々頭下げさせちゃったんだよ。俺達が抑えなかったら、殴りかかってたよな、絶対」
ど、どんな遼ちゃん……? あたしの知ってる遼ちゃんは、優しい遼ちゃん。あたしのドキドキはよそに、みんなはとっても楽しそう。
「警察官のおじさんにも、先生抑えて抑えて、とか言われて」
そうそう、とみんな笑う。遼ちゃんたら……、と思っていたら、若林君が言った。
「帰る時に、いい先生だなぁ、って警察官のおじさんが笑いながら言ってた」
みんな頷いてて。帰りも、女の子達はタクシーに乗せてあげて、男の子達は遼ちゃんが全員家まで送ってあげたって。
遼ちゃんのこと思ったら、胸がチクンと痛んでしまった。
遼ちゃんは、みんなの遼ちゃん。先生なんだよね。
「そういや、俺思うんだけど……」
練習に戻ろうとした若林君が思い出したみたいに言った。
「後から考えてみたら、平田っち、機嫌も最悪だったよ、アレ。もしかして彼女とヤってる最中とかだったんじゃね?」
きゃああぁぁぁ!
みんなの、あー! という納得顔の中であたしは1人真っ赤。
「わー、宮部真っ赤!」
「ダメだよっ、若林君! ひよりの前でそんな話したら!」
「なーに言ってんだよ。宮部だってもうこんな事くらいなぁ?」
「ひよりチャーン、かわいー!」
み、みんな……勝手な事を。
そんな話をしているうちに、先生が入ってきて、若林君達はグラウンドに戻り、茉奈ちゃんは「ひよりまたね」と手を振って教室から出ていっちゃった。
始業前の話にあたしのドキドキはなかなか治まらなくて。補習はボロボロでした。
先生に何度当てられても出来なくて。
遼ちゃんのクラス。何だか遼ちゃんに見られているみたいで恥ずかしくて。
茉菜ちゃ達から聞いた遼ちゃんが遠くて。あたしの遼ちゃんじゃなくて。
なんだか、遼ちゃんは先生で、どんどんあたしから離れていってしまいそうで。
遼ちゃん、どこにも行かないよね?
ずっと、ずっとあたしのそばで、あたしの遼ちゃんでいてくれるよね?
苦しくなってきちゃった。
泣きたくなっちゃって。
「みやべぇー! 頼むから泣くな~!」
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