ねぇ、大好きっていって

深智

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年の瀬のショック

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 年の瀬の日曜日。ママとパパが一生懸命お掃除して、あたしは、あんまりお役に立てそうにないから窓拭きしますって宣言。

 パパとママ、顔を見合わせた。

「ひよ、大丈夫か? ひよにはあの成績どうにかして欲しいから、勉強していて欲しいんだけどな」

 パパの言葉には、胸がズキ。

「たくさん補習受けたもん、大丈夫だもん。それにママとパパが頑張ってお掃除してるとこで勉強なんて……」

 できない、もん……。実のところ、お勉強よりお掃除の方がいいって、思っちゃったのが正直なとこなのですが。

 尻すぼみに声た小さくなっちゃったあたしに、パパがアハハと笑って、軍手履いた手であたしの頭をポンと叩いた。

「じゃあ、やってもらうか。あ、でもくれぐれも余計な仕事は増やさないでくれよ」

 どき。パパ、鋭い。あたしが余計なことすると、余計なお仕事増えるんだよね、いっつも。





 まずは窓拭き、というパパの指令の元、リビングの大きな窓をお外から、と脚立を持ってきたパパにあたしは「あたし、それやります!」と志願。

 脚立を設置してくれたパパに心配されながら上に登って窓を拭き始めると、遼ちゃんのお家が映って見えた。

 遼ちゃん、今日はどうしているのかな。部活あるって、メール来てたけど……何時までかな。

 窓拭きながら、あたしは遼ちゃんのことばかり考えてしまう。結局、遼ちゃんとはクリスマスから会えてなくて。

 パパが、

「冬休みに、学校の先生と会うことはない」

 と言い切っちゃったから。

 遼ちゃんとあたしの間にできちゃった(パパが作った)見えない壁は、クリスマスに一瞬だけなくなった。でも、クリスマスが終わったら、また、ドーンと目の前にできちゃったみたい。

 すぐそばにいるのに、会えないの。気配を感じることができるのに、手を伸ばすことはできるのに、触れられないの。声が、聞けないの。会いたいよ。声、聞きたいよ。

 遼ちゃん。遼ちゃんは、どうして学校の先生なんだろう。

 遼ちゃんは学校の先生で、みんなの遼ちゃんなんだ、って感じてから、ますます遠くなっちゃった。

 寂しくて、苦しくて、胸が痛いです、遼ちゃん。

「ひよー、同じとこばかり拭いてるぞー」

 パパの声にハッと我に返った。いけない、と慌てて隣の窓ガラスに手を伸ばした時。

「遼太のことばっか考えてたらダメだぞ」
「えっ」

 下を見ると、大きな植木鉢で庭の木の剪定をするパパがあたしを見てニッと笑った。

 む。あたし、ちょっと怒ってます

 パパ、意地悪です。

 お返事せずにプイッと窓拭きを再開したあたしに構わずパパは植木チョキチョキしながら話し始めた。

「おケイからこの前聞いたぞ。遼太のヤツ、家を出て一人暮らし始めるらしい。パパは大賛成だな」

 ハハハと笑うパパの声に、頭をガツンって叩かれたような気がした。

 遼ちゃん、一人暮らし?

 お家、出る?

 聞いて、ないですよ?

 遼ちゃんが、ますます遠くなっちゃう?

 え、やだ。

 やだやだ!

 動揺したあたしの足から力が抜けた。

「あっ!」

 脚立の、足を乗せる部分は狭いです。足、滑らせれば、当然――、

「きゃぁあぁあっ」
「ひよっ!」




「捻挫だね」
「はぁ」

 パパが、知り合いの整形外科さんに連れてきてくれました。

 先生の前に足を伸ばして座るあたしの隣で、パパ、手で顔を覆ってため息ついてる。パパの予言通り、余計なお仕事、増やしてしまいました。

 でも! パパの責任だって大きいです!

 先生、ハハハと笑ってる。笑い事じゃないです。あたし、今足が痛いのなんてそれどころじゃないショックを受けてて。

「まぁ、ひよりちゃんのかわいい顔に傷はつかなかったから良かっただろう、宮部」

 先生は、パパの登山仲間さん。真っ黒に日焼けした、元気なおじさん。今日はお休みなのに、知り合いの娘さんだから、と言って診てくれた。

 先生、あたしの頭を撫でて言った。

「ともかく、暫くは松葉杖だし、年末年始は大人しくお家にいることだね。ああ、かえってパパを心配させなくていい」
「それが、悪いムシは案外近くにいるんだ」

 パパの言葉に、先生、ほう? と興味深々な顔であたしを見た。

 パパっ!

 あたしはパパを睨んだけど、パパは素知らぬふりで、目も合わせない。先生は、何か勘付いたみたいで。

「贅沢言うな、宮部。ポッと出てきた全然知らない男にかっさらわれるよりマシだろう」
「いいや、ひよりは一生どこにもやらない」

 パパっ!

 ここまで遼ちゃんの事を悪く言われて、遼ちゃんがお家出て行く事、パパが何かしたの? って疑っちゃう。

 パパを睨み続けるあたしに知らんぷりのパパ。先生はお腹抱えて笑い出す。

「ダメだ、こりゃ。しっかし、あの宮部がなぁ」

 先生、ひーひー言いながらしばらく笑ってた。

 パパは、

「放っておいてくれ」

 そう言ったきり、仏頂面で腕を組んだままそっぽ向いてました。

 あたしは包帯巻かれた右足を見て悲しい気持ちになっていた。

 遼ちゃんが遠くに行っちゃうの?

 あたしは、泣きたくなる胸の痛みを、一生懸命我慢していた。

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