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年の瀬のショック side遼太
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風呂から上がってくると、年末多忙で休日出勤の母さんが帰っていて、リビングでテレビ観ながらビール呑んでた。バラエティ番組観て大爆笑しながらスルメイカかじって。
もはや完全にオヤジだ。触らぬ神に、だ。
冷蔵庫からビール出した俺は、部屋でゆっくり呑むことにし、リビングは素通りしようとしたのだが。
「ああ、遼太」
妖怪、いや違った、母さんに掴まった。
「なんだよ」
仕方ないので、とりあえずタオルを肩にかけてビールのプルトップを立ったまま開け、口を付けようとした時だった。
「ひよちゃん、足、捻挫したんだって」
は?
俺は、ビールの缶を口に付けたまま固まった。確か、すっ転んでケガしたのは先月。今度は捻挫?
「窓ふきお手伝いして、脚立から落っこちたってひまりからメールがきたわ」
ああ。
どうしてアイツは。俺は額に手を当てて、ため息。本当に、とことん心配ばかり掛けさせられる。今すぐにでも飛んで行ってやりたいけど、
「今夜はケンさんがちゃーんとお家にいるから、今アンタ行ったら血を見るわよ」
「……」
散々、身の安全が危ぶまれるようなトラップ仕掛けてくれたアンタに言われたくはない。つーか、人の心にずかずか土足で踏み込んでくれるな。
グイッとビール呑んだ俺に、オカンはニヤニヤ、企み顔を向けた。嫌な予感。さっさと退散するに限る、と立ち去ろうとした時。
「昨日私、ケンさんに遼太が年明けたら家を出て一人暮らし始めるって教えたの。そしたらケンさん、嬉々として『本当か!』って。分かり易すぎ。ウケたわー。男って単純ね」
母さん、スルメかじりながらゲラゲラ笑った。
おい、ちょっと待て。
「まさか、それをケンさん、ひよに話したんじゃないだろうな」
「あらっ、そうかも!」
母さん、スルメ片手にハッとした顔をしてみせた。いや、わざとらしいよ。マジで。お前、謀っただろ、って言いたくなる。けどそれでひよに怪我させたならお前重罪だからな。
睨む俺の前でスルメ持ったまま腕組みした母さん、思案顔する。(その顔を殴りたいくらいわざとらしいのだが)
「ひよちゃんの怪我がそのショックとかからだったら、この私がミスったって事ね」
ほーらやっぱり。
「そうだよ、お前いい加減にしろよ」
母さんは怒気を含んだ俺の言葉には全く反応せず、閃いた、みたいな顔をして俺にスルメ向けて言った。
「遼太! ケンさんが毎年、年末年始は富士登山に行っちゃうの知ってるよね?」
「は?」
「チャンスよ!」
「はあっ!?」
おっっしゃっている意味が分かりませんけど?
「毎年、ケンさんは富士登山、ひまりとひよちゃんはケンさんの実家だったけど、多分今年は家にいるってひまりが言ってた。で、ひまりの性格上、ケンさんに新年のルーティンワークを崩させるような事はしない」
オカンの言葉一つ一つを懸命に咀嚼する。
つまりだ。
「今年の大晦日は私と父さんとひまりの三人でべろんべろんになるまで呑む事にした」
言い終わる頃にはオカンはもうテレビの方を向き、俺に背中を向けたまま、手をひらひら振る。
この後に及んで……と恨み言の一つも言いたい気分だが、背に腹は変えられない。
あんたらの予定ほど宛てにならないものはない。けどこんな風になってしまった今、ひよと二人きりで過ごせる時間は限りなく貴重になってしまった。
ひよと、少しでも一緒の時間を過ごせるのなら。
「もう余計な事すんなよ!」
どうせ俺の言うことなんて聞かないであろうオカンにそれでも一言釘を刺して、リビングを後にした。
部屋に戻って確認した、ひよからのメッセージに書かれていた文章は能天気なものだったけど、次に入ってきていた写真の中のひよの足は、包帯ぐるぐる巻きの痛々しいものだった。
ホントに、頼むから、俺のいないとこでケガ、したりしないでくれよ。ただでさえ傍に行ってやれないんだから……頼むから、いつも元気に笑っていてくれよ。
けど。ひよの文面はいつもより心なしか短くて簡素だった。
ケンさん、多分ひよに話したな。
俺から、ちゃんと話すつもりだったのに。何て事してくれてんだ。
スマートフォンの画面を見ながら俺は軽く唇を噛んだ。
ひよ、どう思ったかな。別に、ひよから離れたくて、とかじゃないんだ。分かってくれてるかな。
いつも、手を伸ばせば、触れられるところにいたのに。いや、今でもいるのに互いの気持ちがちゃんと接点を持って交差出来ているのか分からない。
ブラインドをしていなかった窓の外を見ると、ひよの部屋が見える。電気は点いていないから、リビングにいるのか。
いつも、呼べば、呼ばれれば、すぐに会えたのにな。
大晦日は、もうすぐだ――。
もはや完全にオヤジだ。触らぬ神に、だ。
冷蔵庫からビール出した俺は、部屋でゆっくり呑むことにし、リビングは素通りしようとしたのだが。
「ああ、遼太」
妖怪、いや違った、母さんに掴まった。
「なんだよ」
仕方ないので、とりあえずタオルを肩にかけてビールのプルトップを立ったまま開け、口を付けようとした時だった。
「ひよちゃん、足、捻挫したんだって」
は?
俺は、ビールの缶を口に付けたまま固まった。確か、すっ転んでケガしたのは先月。今度は捻挫?
「窓ふきお手伝いして、脚立から落っこちたってひまりからメールがきたわ」
ああ。
どうしてアイツは。俺は額に手を当てて、ため息。本当に、とことん心配ばかり掛けさせられる。今すぐにでも飛んで行ってやりたいけど、
「今夜はケンさんがちゃーんとお家にいるから、今アンタ行ったら血を見るわよ」
「……」
散々、身の安全が危ぶまれるようなトラップ仕掛けてくれたアンタに言われたくはない。つーか、人の心にずかずか土足で踏み込んでくれるな。
グイッとビール呑んだ俺に、オカンはニヤニヤ、企み顔を向けた。嫌な予感。さっさと退散するに限る、と立ち去ろうとした時。
「昨日私、ケンさんに遼太が年明けたら家を出て一人暮らし始めるって教えたの。そしたらケンさん、嬉々として『本当か!』って。分かり易すぎ。ウケたわー。男って単純ね」
母さん、スルメかじりながらゲラゲラ笑った。
おい、ちょっと待て。
「まさか、それをケンさん、ひよに話したんじゃないだろうな」
「あらっ、そうかも!」
母さん、スルメ片手にハッとした顔をしてみせた。いや、わざとらしいよ。マジで。お前、謀っただろ、って言いたくなる。けどそれでひよに怪我させたならお前重罪だからな。
睨む俺の前でスルメ持ったまま腕組みした母さん、思案顔する。(その顔を殴りたいくらいわざとらしいのだが)
「ひよちゃんの怪我がそのショックとかからだったら、この私がミスったって事ね」
ほーらやっぱり。
「そうだよ、お前いい加減にしろよ」
母さんは怒気を含んだ俺の言葉には全く反応せず、閃いた、みたいな顔をして俺にスルメ向けて言った。
「遼太! ケンさんが毎年、年末年始は富士登山に行っちゃうの知ってるよね?」
「は?」
「チャンスよ!」
「はあっ!?」
おっっしゃっている意味が分かりませんけど?
「毎年、ケンさんは富士登山、ひまりとひよちゃんはケンさんの実家だったけど、多分今年は家にいるってひまりが言ってた。で、ひまりの性格上、ケンさんに新年のルーティンワークを崩させるような事はしない」
オカンの言葉一つ一つを懸命に咀嚼する。
つまりだ。
「今年の大晦日は私と父さんとひまりの三人でべろんべろんになるまで呑む事にした」
言い終わる頃にはオカンはもうテレビの方を向き、俺に背中を向けたまま、手をひらひら振る。
この後に及んで……と恨み言の一つも言いたい気分だが、背に腹は変えられない。
あんたらの予定ほど宛てにならないものはない。けどこんな風になってしまった今、ひよと二人きりで過ごせる時間は限りなく貴重になってしまった。
ひよと、少しでも一緒の時間を過ごせるのなら。
「もう余計な事すんなよ!」
どうせ俺の言うことなんて聞かないであろうオカンにそれでも一言釘を刺して、リビングを後にした。
部屋に戻って確認した、ひよからのメッセージに書かれていた文章は能天気なものだったけど、次に入ってきていた写真の中のひよの足は、包帯ぐるぐる巻きの痛々しいものだった。
ホントに、頼むから、俺のいないとこでケガ、したりしないでくれよ。ただでさえ傍に行ってやれないんだから……頼むから、いつも元気に笑っていてくれよ。
けど。ひよの文面はいつもより心なしか短くて簡素だった。
ケンさん、多分ひよに話したな。
俺から、ちゃんと話すつもりだったのに。何て事してくれてんだ。
スマートフォンの画面を見ながら俺は軽く唇を噛んだ。
ひよ、どう思ったかな。別に、ひよから離れたくて、とかじゃないんだ。分かってくれてるかな。
いつも、手を伸ばせば、触れられるところにいたのに。いや、今でもいるのに互いの気持ちがちゃんと接点を持って交差出来ているのか分からない。
ブラインドをしていなかった窓の外を見ると、ひよの部屋が見える。電気は点いていないから、リビングにいるのか。
いつも、呼べば、呼ばれれば、すぐに会えたのにな。
大晦日は、もうすぐだ――。
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