ねぇ、大好きっていって

友秋

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再会

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 遼ちゃんに会えないまま、月日は流れてもう二月です。

 香織ちゃんが無事に赤ちゃんを産みました。

 退院して半月経って落ち着いたから会いにおいでと言ってくれたので、今日は香織ちゃんのお家にお邪魔しました。

 女の子の赤ちゃん。可愛い可愛いフニャフニャしてて、赤ちゃんは周りの人をとても優しい気持ちにさせてくれるんだね。

 辛くて泣きたくなったり、苦しくて切なくなったりの毎日が多かったけれど。

「香織ちゃんと赤ちゃんのおかげで少し元気になったよ」

 赤ちゃん抱っこさせてもらって頬を緩ませたあたしに香織ちゃんが優しく微笑んだ。

「ひより、この間スカイプでお話しした時、元気なかったでしょう」

 あ、とあたしは香織ちゃんを見た。

 香織ちゃんとはなかなか会えなかったから、一昨日、お顔見ながら通話した。

 お顔見せたから、香織ちゃん、気付いたんだ。

「何かあったの?」

 お母さんになった香織ちゃん。柔らかな笑みが、包み込んでくれるように優しくて、あたしの目から思わずポロポロ涙が溢れ出した。

「ひより、大丈夫よ。話してごらん」
「うん、うん……」

 香織ちゃんは、赤ちゃんをそっと寝かし付けて、真剣にあたしの話しを聞いてくれた。

 幼なじみのお兄ちゃんが好きで、って香織ちゃんにお話ししてはいたけれど、それは学校の平田先生です、って話してはいなかった。

 今日、初めて香織ちゃんにお話しした。

 あたし、誰かに聞いて欲しかったんだと思う。

 ずっと、誰にも話さなかった遼ちゃんとあたしの秘密の関係。

 誰にも、仲良しの茉菜ちゃんにも話せなかった。でも、苦しくて苦しくてたまらなくて。

 香織ちゃんは、最初は驚いていたけど、話しが進むにつれて、うんうん、って頷きながら聞いてくれた。

 同じクラスにいた時はあんまりお話ししなかったんだけど、不思議。今は一番相談に乗ってくれるお姉さんみたいなお友達です。

「そっかぁ」

 お話しを聞き終えた香織ちゃん、考えながらゆっくり話してくれた。

「そう、だよ、河井先生の言う事もわかるなあ」

 河合先生に言われた言葉もお話ししたんだけど、香織ちゃん、真剣に考えてくれてる。

「やっぱり、平田先生との事は絶対卒業までは隠さないとね。それは、仕方ない事だから。ここで頑張らないと、お互いが不幸になってしまうかもしれないからね」

 やっぱり、そうなのかな。……でもね。あたし、遼ちゃんのこと、大好きって、誰にも隠すことなく言って、たくさん甘えて、手を繋いで歩きたいの。

 それを我慢出来たのは遼ちゃんが近くにいたから。でも、遠くに行っちゃって。どうしたらいいの。いつまで我慢すればいいの?

「ひよりー、泣かないでー」

 止まらない涙を手で拭う。

 苦しいです。どうして、遼ちゃんのこと、大好きな遼ちゃんのこと想うことがこんなに苦しくて胸が痛くなっちゃったの?

「ひよりはホントに好きなんだよね。うんうん。分かるよ。誰にも言えなかったの、辛かったね。泣いていいよ、私の前なら、沢山泣いていいよ。気持ちをこうやって吐き出せば、きっと少し胸が楽になるから」

 香織ちゃんが、手を伸ばしてあたしの頭を撫で撫でしてくれた。

 ありがとう、ありがとう香織ちゃん。

 あたしは、香織ちゃんの言葉に甘えて、声を出して泣き出した。たくさん、たくさん泣いて。香織ちゃんが傍で、うんうん、大丈夫大丈夫、って背中を撫でてくれた。

「ひより、きっと、こんな苦しくて辛い気持ちは平田先生も一緒だよ。だから、平田先生と一緒に乗り越えなきゃ」

 遼ちゃんも、一緒。

 そうだね、香織ちゃん。あたしだけじゃないんだ。

 あたしは胸に手を当てて目を閉じた。

 遠い遼ちゃんを、近くに感じる為にーー。





「ごめんっ、ひより! 凄く遅くなっちゃった! 駅まで送ろうか?」

 そんなそんなっ! 赤ちゃん産んだばかりの香織ちゃんにそんなこととんでもないです!

「だいじょーぶっ! ちゃんと帰れるよ。駅まで賑やかな通りばっかりだから。香織ちゃんの方が赤ちゃんの為に身体大事にしないとだもん」

 玄関の外まで出てきてくれた香織ちゃんにバイバイしてあたしは真っ暗になった道を歩き出した。

「あー、真っ暗」

 ママが心配しちゃう。早く帰らなきゃ!

 あたしは、やっと治った足をちょっと気にしながら、急ぎ足で駅へ向かって走り出した。

 駅近くまで来て、昼間とは違う雰囲気になってしまった夜の繁華街の中を早足で歩く。ここを夜歩くのは初めてだった。

 なんだか怖いです。早く駅に着きたい!

 夜の街がちょっと怖くてうつ向き気味になってしまっていたあたしはすれ違った男の人にぶつかってしまった。

「あ……すみません」

 そう言って顔を上げると、ちょっと怖い人だった。

「あれー? こんな時間にこんなとこに高校生? これからどこ行くのかなぁ」

「この子、すげーカワイくね? おにーさん達と遊ぼうよ」

 あっという間に何人かの男の人に取り囲まれちゃった。

 どうしようどうしよう。こわい。

 だれか……、って思ったけど、声が出ない。

 たくさん人がいるのに、誰も見向きもしないの。どくんどくん、と心臓が破裂しそう。

 腕を掴まれて腰に手を回されて、別の男の人に肩を抱かれて、ゾクッとした。

――遼ちゃんっ!

 全身鳥肌がたって、涙がポロポロこぼれる。

「あれー? 泣かないでよー。カワイイなぁ。どこに行って遊ぼうか~」

 そう言って、前に立ってる男の人が、あたしの顎に指をかけて顔を覗き込んだ。

「……や……っ」

 やっとの思いで声を絞り出した時、怖いお兄さんの肩を誰かが掴んだ。

「すみませんが、その子、僕の彼女なんで離してもらえませんか?」

 それは――、

 ネオンの明かりをバックにする姿はあまりにも絵になる、背がスラリと高くて、切れ長の瞳が涼しげな、緒方誠さんだった。美しいお顔でにっこりと微笑んでいた。

「おいで」

 あたしの、空いてる方の手を取った緒方さんは、そのまま引き寄せて男の人達の中から救いだしてくれた。

「なんだ、コイツ」

 緒方さんの方へ引き寄せられる瞬間、周りにいた男の人達の声がして、怖かったけど。緒方さんがあたしの耳元に、言った。

「走るよ」

 え!?

 緒方さんにギュッと握り締められた手が、ぐっと引かれた。そのまま、あたしの手を引いて、緒方さんが駅に向かって走り出した。

 後ろの方で、

「このやろー!」
「連れがいるなら早く言いやがれ!」

 背後からはあたしを取り囲んでいた男の人達の怒鳴る声が聞こえていたけれど、あたしは緒方さんのスリムですごく背の高い後姿と、握る大きくてしなやかな手を感じて、ドキドキしながら走るので精一杯だった。


 
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