ねぇ、大好きっていって

深智

文字の大きさ
64 / 73

とんでもないお約束を

しおりを挟む
 緒方さんとお別れして、パパと茶畑の中続く道をゆっくりお家に向かって歩いていると。

「ママが」

 パパがフッと思い出し笑いを。

「ママが?」

 高い位置にあるパパのお顔を見上げると、パパ、軽く握った拳を口元に当てて笑っていた。

「ママが、仕事から帰ってみたらひよりがいないってパニックになって俺に電話してきたんだ」
「ママっったら……」

 ママ、年が明けてからおばさんのお店でパートのお仕事を始めるようになった。今夜は少し帰りが遅くなったみたい。

 それで、急いで家に帰ってきてみたら、いつもお留守番しているはずのあたしがいなくて、真っ先にパパに電話しちゃったんだね。

 あたしのスマホにママからの着信なかったもん。ママの慌てぶりが、伝わります。

 ママってば……。

「ママは幾つになってもしょうがないな」

 パパ、言葉とは裏腹に、その横顔にはママへの愛情が溢れてますよ。

 いいな、パパとママ。

 あたしだってパパとママみたいになりたいんです。なのに。

 あたしは遼ちゃんを好きで、一緒にいたいだけなのに。

 あたしと遼ちゃんが一緒にいる事は、とってもいけない事なのかな。
 
 色々悲しくなってしょんぼりしていたら、パパあたしの頭をくしゃくしゃっと撫でた。

「もう絶対にこんな遅くなったらだめだぞ。ひよりに何かあったら、本当にママもパパも生きてられないぞ」

 パパ……。そんな静かに言われると、怒られるより、ツライです。

 パパもママも、すごく心配性。心配、かけたくない、って思うと考えちゃうんです。

 パパを心配させない為には、あたし、遼ちゃんと離れた方がいいのかな、って。

 お家までの道が遠いです。

 ちょっとしんみりして空気が重くなってしまったから、あたしはワザとパパの言葉気にしないフリをする。

「そういえばパパ」
「ん?」

 優しく応えてくれるパパにあたしはホッとして続けた。

「パパ、緒方さんのこと、見てすぐに分かったんだね」

 緒方さんと遼ちゃんは中学の時から一緒で、野球も一緒だったから、パパもよく知ってる。遼ちゃんのお家にしょっちゅう遊びに来ていたし。

 でもそれは遼ちゃんと緒方さんが高校生の時まで。

 パパは、緒方さんとはもう五年以上会っていないと思うのだけど……、

「あの容姿、忘れると思うか?」

 たしかに、です。

 アハハ……と乾いた笑いを漏らしてしまったあたしの頭をパパがクシャッと撫でた。

「実はな、パパ、緒方君とはそんなに久しぶりじゃないんだ」
「え?」

 意味が分からなくてパパを見上げる。パパは、あたしを見ていなかった。遠くを見てるみたいな目。

 パパ?

「ニ年くらい前だったな。相談に乗って欲しいと頼まれた事があったんだ」
「緒方さんに?」
「ああ、遼太を介して、な」

 ドキッ。

 遼ちゃんの名前が不意打ちみたいに出てきて胸が鳴る。

「遼ちゃん?」

 ドキドキ鳴る胸をごまかせそうにないので、それ以上の声を出せない。たくさん聞きたいけど、聞けない。きっと声が震えちゃうから。

 すごく気になります。

 あたしのパパなのに、あたしの全然知らないところで、緒方さんと繋がってた。

「大した事じゃない」

 あたしの気持ちを読んだみたいにパパが言った。あたし、驚いてパパを見上げた。パパはあたしの頭をクシャと撫でて笑った。

「ちょっと、俺の知っている病院を紹介しただけだ」

 ますます謎は深まって、あたしは首を90度くらいに傾けてしまう。

 緒方さん? 病院? 医大生の緒方さんに、どうしてパパが病院紹介するの?

「もう昔の、終わった事だ。ひよが心配することじゃない。それよりひよ」
「え?」

 パパの声が急に厳しいものになってあたしはビクッとする。

「緒方君の前だったから詳しくは聞かなかったが、今夜はどうしてこんな事になった?」

 え、え? あの、あのですね。

「考えてみたらこんな時間に男と一緒、っておかしいだろ。ママは一言も言ってなかった。どういう事だ?」

 あ、これはヤバいでしょうか。

 気まずい沈黙の後、パパはボソッと言った。

「遼太は、ちゃんと知ってるのか?」

 え?

 あたしは立ち止まる。ゆっくり歩くパパの後ろ姿を見た。

「あの、パパ?」

 パパ、もしかしてあたしと遼ちゃんのこと、心配してくれてるの?

 パパ、振り返らない。けど、肩がちょっとだけ上がってて。

「パパ!」

 あたしはパパの腕にしがみついた。

「なんだ?」

 ビックリしたパパにあたしはニコッと笑った。

「パパ、あたしと遼ちゃんのこと、心配してくれたんだよね?」

 あたしの言葉にパパ、しまった、というお顔をした。

 パパ!

 嬉しくてパパを見上げた。

 パパはやっとあたしと遼ちゃんのこと認めてくれた、ということだよね?

「ぱーー」
「遼太、俺に約束したんだ」

 パパ、あたしの言葉遮ってため息混じりに肩を竦めた。高いところにあるパパのお顔、複雑な表情です。

 嫌な予感、しますよ?

 ジッとパパを見上げるあたしの胸が、ざわざわ。パパの次の一言で、爆発しそうになった。

「遼太が『ひよが卒業までひよに指一本触れない。その約束守ったら認めてくれ』と言い出した」

 遼ちゃん⁈ なんてこと言うの⁈

「パパ、その約束ーー」
「出来るならやってみろ、と俺は言ったらアイツ、『ああ、やってやるよ』てさ。『ひよが卒業まで、指一本どころか近づかない』って言い切りやがった」
「パパ!」

 頭の中がパニック寸前になってる。こういうの、なんて言うんだっけ。

えっとえっと。

そうだ、売り言葉い買い言葉?

ああ、そんなこと今考えてどうするの。

あたし、いやだよ。

 卒業まで遼ちゃんと〝なかよし〟どころか、会う事も我慢するの?

 遼ちゃん、遼ちゃん! 何てお約束をしちゃったの!

 茫然とするあたしにパパは。

「アイツ、単純だな」
「え」

 睨む表情になってしまったあたしの眉間をパパ、優しく伸ばしながら言う。

「心変わりとか、考えないんだな」

 パパ? 何を言ってるの?

「ひよはまだ高校一年だから先は分からないぞ、と言ってやったら自信たっぷりに『俺とひよの気持ちは変わらない』ってさ。俺としては、色んな意味で感動して、卒業した時にひよの気持ちがまだ遼太にあったら認めてやる、って約束はした」

 あたしは、たまらなくなって言った。

「好きだもん! あたし、遼ちゃん以外の人なんて好きにならないもん!」

 パパはあたしの言葉に意味深な笑みを浮かべた。

「俺は逆に、戻ってくるのもアリ、と思った」

 意味が分かりませんよ、パパ。

「分かんない! パパが言う事の意味も! 遼ちゃんの気持ちも! みんな知らない!」

 あたしは言葉をパパにぶっつけて家まで走り出した。

 心が、痛くて苦しくて、たまらない。

 遼ちゃん。

 あたしにとって遼ちゃんに触れられない時間は、長い長い、終わらない時間に感じるんだよ。

 大好きな人と、一緒にいたい、たくさんお話しして、たくさんキスをして、たくさん触れる。

 パパも遼ちゃんも、それがどんなに大事な時間か、分からないの?

 どうして?


 苦しいです。つらいです――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい

沢尻夏芽
恋愛
 自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。  それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。 『様子がおかしい』 ※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。  現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。  他サイトでも掲載中。

処理中です...