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二章 元おっさん、帝国へ

26 道中の焚き火

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王国から出て2日が簡単に経過した。

魔物も出て来たりして、使役したり、倒したりと色々とあり、レベルが上がる。

【レベル】34

馬を休め、野宿をする。

バチバチ!

焚き火の音が鳴り、心が安らぐ。夜空は星で満天となり、月が顔出していた。異世界での月は俺が知っている黄色い月じゃなく、青の月。それが神秘的に感じ、よく村に住んでいた頃は、家から抜け出し月を見ていたときもあった。
天体観測が好きであった俺は、月や星座を調べるのが好きで、社会人になっても図書館に行き、宇宙とかの図鑑を調べていた時期があった。

給料で出たお金で、望遠鏡を買い、車を回して森の場所へと行き、月を見たり。アニメの他にもそう言う趣味はあったが、40代ともなれば、なかなか行く機会が無くなる。
だが、異世界でも地球でも、共通点がある。それは、星空が綺麗であると言うこと。

無数にある星から、星座を割り出すなんて高等テクニックは出来ないが、ふと考え事をしていたときでも、上を見てしまうことが多々あった。

川でとった魚を串焼きにし、よく加熱する。お腹の部分から齧り付く。

ムシャムシャ———ゴクン!

「美味しい! こんなの初めて食べたわ!」
「そうですね。ですが、かなり美味しいです」

そんな2人の会話が自然と聞こえ、流石は王族とその騎士。と、思ってしまった。王女とその護衛騎士が串焼きにされた魚を食べると言う光景が、多少の違和感が誘われる。

「それにしても美味しいですね。ヴィーゼさんってお料理上手だったんですね」
「そ、そりゃあ、どうも」

一人暮らしをしていれば、自炊ぐらいはたまにする。高校生になった時には、料理する男子はモテると言われた事があり、俺もそれに実践したが、結局彼女は出来なかった。
苦い思い出を思い出しながら、串焼きされた魚を頬張る。
彼女は出来なかったが、年齢を重ねていくたびに、自分で作った料理で誰かが笑顔になる。と言うのが、なんか嬉しい気持ちがした。そんな2人の光景を見ていると、料理していて良かったなぁと思うようになる。

(……何言ってんだ)

自分で思った事なのに、何故か恥ずかしく感じる。

♢♢♢

時間が経ち、夕食を食べ終わると2人はあっという間に眠ってしまった。アンナさんは最後まで起きておくと言っていたが、俺はそれを右から左に受け流した。
話し相手がいなくなり、夜の場所で1人というのは、かなりの寂しさを感じる。
それはまるで、暗闇の底に自分が置いてけぼりになったようだった。
本当はそんな事ないはずなのに、何故かそう思う。目の前にある焚き火の火も、消えそうになる蝋燭を見ているようだった。
これは夜中に起きているから、こんな気持ちに誘われてしまうのだろう。俺に取って夜は、最も気分が落ち込む日だ。
だからそんな時は、星を見る。綺麗に広がる星を。

「青い月……。ブルームーンが常に見られるなんてさ」

2年半に一度で稀にしか見れないブルームーンが、毎日見られるというこのお得感。
心が躍って来る。光り輝く月の光に照らされ、近くにある水の元へと行く。
青い月が水面に映り、疲れた心が浄化するような感覚がして来る。
焚き火から離れ、また焚き火の方へ戻る。
テクテクと歩き、地面の上に座った。
アンナさん宅で持ってきた魔導書グリモワールを、魔法で作り出した空間の中から取り出す。
分厚い魔導書が現れ、それをペラペラと捲る。

(へぇ、そんな魔法もあるのか)

固有魔法としての、魔法がかなり多く書かれている本。固有魔法が増えるのはかなりのメリットがつく。
敵を圧倒できる固有魔法から、術式の系統は難しくも、かなりの威力と射程範囲が広い遠距離魔法まである。かなり多い固有魔法を一つずつ覚えるのは、得策とも言える。

【電流操作】

と言う固有魔法も存在し、電流を自由自在に操れる固有魔法らしい。最初はある程度の電流しか出せなくとも、徐々に強くなれば、電流を蓄え、壁にくっつくことも可能になる程、使い道の範囲が広い。

傀儡パペット

電流操作の隣にあった固有魔法。
説明としては、相手を自由自在に操る事ができ、操り人形のようにする事ができる魔法。
感情、行動を奪い、自分が言えば従う魔法。

(え、何それ。怖っ)

固有魔法の中にも、そのような悍ましすぎる固有魔法も存在し、使い手次第というのが結構あるのが現状となる。
固有魔法での魔法を見ても、かなりの危ない系とかもあった。
透明人間になれたり、色男になれたり…というのもあったのだが、使い道がどこにもない。
透明人間の固有魔法を手にして、傀儡パペットを手にして、ましてや色男になれたら、けしからん過ぎる。
色男になれる魔法なんて、正直必要あるか?と言うのが本音の1つ。
魔導書グリモワールを見ていると、微風が吹いて来る。炎が僅かに揺れ、髪が靡かれる。こめかみ辺り
にある髪が顔の方にやって来て、鬱陶しいったらありゃしない。

「ふうっ!」

息を吹いて髪を退かす。
徐々に眠気が襲って来る。
瞼が重く感じるが、2人は就寝。寝ている間に襲われたりでもしたら、不味い。
目をなんとか開かせ、抵抗する。
だが、それを争うように、瞼が徐々に重くなり始め、視界の範囲が狭まる。

「すぅ…」

体を地面に倒れ込ませて、持っていた魔導書を地面に置く。
そしてそのまま、眠ってしまった。青い月が照らし、焚き火の炎だけが灯を灯す、そんな夜の世界に。
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