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二章 元おっさん、帝国へ

29 苦い過去の正体

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『婚約を破棄する』

言い放たれた言葉。
目の前にいる人が、同じ人物とは思えないぐらい、冷徹な顔をして、私を見る。私の絶望した顔を、ニヤニヤとしながら見ている、婚約者の妹。

エレーナ・フォン・ファルモーナス。

当時の私が10歳。そして、グロウが16歳の時。6歳離れているグロウの視線は、当時の私にとってみれば、ものすごく怖かった。
恐怖心が心を乱し、グロウから質問を問われても、本音で答えることができずにいた。
ドキドキとして、胸が苦しいぐらい。
そんな記憶が脳裏に浮かぶ。視覚に入ったのは、朝日の光だった———。

「………私じゃないのに」

あの時は、何度説明しても誰も聞いてくれなかった。死刑を逃れたのは、幸いだったかもしれない。複雑な気持ち。
隣のベットで眠っている、ヴィーゼとアンナを見る。私のために来てくれた、私の友人のヴィーゼと家族と同然なアンナ。
寝顔を見ながら私は、新たな服に着替えた。

(これで庶民に見れるわね)

庶民的な服装に着替え、私は泊まっていた部屋から出て行く。

♢♢♢

庶民の服さえ着ていれば、誰も私が王国の王女とは思わない。そんな格好。
帽子を深くまで被り、誰にも顔を見せないような。
帝都を歩いている途中、顔を見知った人物とすれ違う。

(………!? エレーナ!?)

グロウの妹。エレーナがいた。私とは違う美貌を持つエレーナ。綺麗な黒髪が靡かれ、私がランスとも知らず、自分の兄たちと一緒に帝都を歩く姿。

『あ~ら、可哀そぉ? ふふふっ、貴女に私の姉なんて務まらないわ。だから、さっさとお兄様と別れてくれる? たかが、

(………!?)

言われた言葉がフラッシュバックとして蘇る。それを放たれた私は、ただ憎しみでしかエレーナを見れなかった。

『お前、エレーナに何をした!?』

何もしていないのに、グロウから浴びせられる罵倒。そして誰もが、私を悪魔として見るその視線。私は、帝宮の中に、居場所なんて存在しなかった———。

(何で、こんな事を思い出すのかしら?)

胸が苦しい…。
張り裂けそうになる程、3年前を思い出す。
私とエレーナは、5歳差。今では18歳の彼女で、更に美貌化としている。私じゃ、勝てない。誰からでも愛されている、エレーナと。何の才能もない私。
比べ物にならず、私は婚約者にまで捨てられた。

(悔しい…。けど、何も出来ない)

嘘泣きで兄たちを、従者たちを味方につけ、私を追い出し。そして、帝国から追放まがいな事をされた。
相手は私に気づいていない。それが、不幸中の幸いだ。
ここにいると言うことは、兄弟たちは帰ってきたと言うこと。

(………もう、帰りたい)

弱気になっている。私がここに来た理由は、呼び出されたから。そう。エレーナに。

(エレーナ、あなたは一体……。何がしたいの?)

そう言う思いで私は、エレーナの方を見る。すると、なぜな目があった。ぞくっとし、エレーナは不敵な笑みを浮かべて、私を見ている。
正直、怖い…。
エレーナのあの、不敵な笑みが。何かが———

———起こりそうで。
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