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クウガ 現実の世界についていけてない
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「クウガ、クウガ、クウガ!」
「クウガァ~、クウガァ~、クウガァ~」
ベッドの上で横たわる俺は呆然としながら天井を見つめていた。見つめていたといっても視力はなくされてるので何も見えないが。
そんな俺の両端にはじゃれつく魔物(というより犬?)が2匹。ハチとココだ。
はっきり言って邪魔くさいのだが、それにつっこむ気力はない。
思い出すのは挿入する直前のダグマルの表情。
青ざめてたなあ(遠い目)。トラウマものだろうなぁ。
レイプは、絶対にしないって決めてたんだけどなぁ。
俺、やっちゃったあああああああああああ。
完全にやっちゃったああああああああああ。
なのにまだ童貞って何これ。いや、それに関しては後悔はない・・・・・・ない・・・・・・正直に言って後悔めちゃくちゃしてるけども! 後悔するわ! あれが俺の一生の内あるかないかの童貞卒業チャンスだったんじゃねぇの!?
申し訳ないと思ってるよ。それは本当、事実、本心ですとも。
でもめっちゃ肌の感触が生々しく覚えてるんだけど。くっそがああああああ。
胸もチンコも良かったよ。チンコなんて使い込んでた色合いでしたよ。酸いも甘いも噛み分けてましたよ。うおおおおおおお、どうせなら舐めたかったあああああああ。精液飲んで死ぬとか、考えてみればゲイにとってはこれ以上ない死に方なんじゃねぇのかなあああ!? むしろ死んでた方が俺にとっては良かったんじゃねぇの!? 心安らかにあの世逝きという意味で!!
気絶して目が覚めたらすべて夢でしたとか、そんな都合のいいことが起こるわけもなく。目が覚めたら、何て声かけるべきか悩んでいるダグマルと、セックスしなかったことへの怒りに満ちているアトラン(笑顔でしたがね、怖かった)がいましたよ。
生きた心地がしなかった。俺の表情凍ったもん。ポーカーフェイスだからわかりにくいだろうけど、確実にカチンコチンになった。チンコは逆にシナンシナンでしたが。
まあ、すぐに土下座したよね!!
目が覚めたときには店を出る時間になってしまい、清浄魔法でちゃんと綺麗にして帰りました。ダグマルとは顔を合わせることができなかった。
終わった。いろんな意味で終わった。
レイプ魔の烙印押されてしまった。童貞なのに。童貞なのに!
ダグマルのことだから周囲には言いふらさないとは思うけど・・・・・・。でもショックでトラウマになり誰かに相談してそれから広まる可能性も・・・・・・。
終わったな(真顔。あまり表情は変わらないと思うが)。
少なくともダグマルに合わす顔はないな。あとロッドもか。
「クウガ、何かあった? 元気ないよ?」
何があったか。ナニがあったっていうか、ナニしちゃったんですけど。
そんなこと言えるわけもなく、いや言ってもわからないか。
「とある人に酷いことしちゃったんだよ」
それだけ言っておく。
「魔王様よりは酷くないでしょ?」
しかし返された言葉に胸をグサリと刺された気がした。
うん、レイプはしてない・・・・・・よ。乱暴は・・・・・・したかな。び、微妙。
「同じくらい酷いことしたかもしれない」
「えー、嘘だあ」
ハチにクスクス笑われた。
信じられないかあ。真実なんだけどなあ。
「でも酷いことしたのは確かだから」
「じゃあ謝んないとね」
「・・・・・・そうだね」
ハチさん、正論っす。何も言えねぇっす。勇者、魔物に諭されちゃったよ。
そうなんだよなあ。謝らないといけないんだよなあ。ん? 謝る??
あああああああああああ。俺、そういえば「次会ったときにみんなに謝る」とか俺決意してたじゃん。謝れてねぇじゃねぇかよ。むしろ最悪な形で裏切ってんじゃねぇか。
ヤバい。詰んでるわ。
思わず遠い目をしていると、ハチがぎゅっと俺の手を握った。
「それとも、僕とここから逃げちゃう?」
そしてそう尋ねてきた。
うーん、ありがたいお言葉。「んじゃ、よろしく!」ってノリで言えたら楽だよな。
俺はハチの手を握り返した。
「逃げないよ」
それだけ言うとハチは「ぬぬぬぬぬ」と不満そうな声を出した。
逃げない、っていうより逃げられないってのが正しいけどな。
「それにしても、結構頻繁にここに来てるけど大丈夫なのか?」
「魔王様にはバレないようにしてるつもりだよ。がむしゃらに魔物食って強くなってるのに夢中だから」
・・・・・・強くなったら困るんだけどな。
ってか怪人ミナゴロシ、ガチで勝てる気がしないんだけど。まあ、もう勇者じゃないんだから戦う必要なんてないけども。
するとハチが「本当に」と不安そうに話し始める。
「強くなりすぎて怖くなる」
「食われるかもしれないからな」
「そうじゃなくて、全部壊してしまうんじゃないかって」
「壊す?」
「全部全部なくしちゃうんじゃないかって。ずっとずっと今の魔王様のままだったらきっと、いつかきっとそうなるよ」
・・・・・・全部、壊す。ーー全部、殺す。
シャレにならねぇな。
それならいっそハチが魔王になればいいのに。人間に興味があるこいつなら、世界は平和になるんじゃねぇか。
「ハチは魔王になりたいと思うか?」
「イヤだよ。怖いもん。魔王を殺すのだって怖いし、魔王になったらなったで食われる的になるだけだもん。そりゃ魔王にならなくたって、魔物に食われることだって普通だけど」
そういや、魔物同士って食うか食われるかの関係だったな。おそろしき弱肉強食。俺だったら魔物になって速攻で食われてたわ。
そう考えると俺の両端にいるこいつらは、どれだけの魔物を食って人型になれたのだろうか。いや、そういうことを考えるのはやめよう。
「そっか、それは大変だ」
「うん、大変だ。大変だ」
俺の言葉を真似するようにつぶやいて、ハチは笑った。
握られていた俺の手からハチが消える。それはつまり誰かが近づいてきたということ。
ハチは初めて会った日から、こうやってちょくちょく人目を忍んでやってきているのだ。
案の定、しばらく経ってから扉が開かれた。
「随分お疲れのようですね」
「そりゃ媚薬を多重に服用されて気絶するまで精液吐き続けたら、しばらくは疲れるに決まってるでしょうが」
視力が戻りアトランの姿が目に映る。
「年寄りのような台詞ですね。大分横になったでしょうに」
いやいやいやいや、若いからってしんどいものはしんどいですって。
そう思いつつも俺はダルい体を起こした。
「にしてもアトランさんって、とんでもないことをさせますよね。驚き通り越して何も言えないですよ」
「自分としましては、あそこまでお膳立てされて最後まで手を出さなかったことに、驚きを通り越して何も言えませんね」
そう言い返されてグッと言葉を詰まらせる。
ええ、ええ、耐えましたよ。死ぬ気で耐えましたよ。耐えちゃったんだよ。くっそおおおおおお、後悔はないけど心残りめちゃくちゃあるわ。挿入れたかったあああああああああ。
「俺は、無理矢理では、したくありません」
「童貞が夢見てどうするんですか」
童貞だから夢見るんだよ、コンニャロオオオオオオオオオ。
んな、ゲイの短編エロのように会って数行でアーッな展開になれるわけねぇだろ。
んな簡単にR-18になれたら苦労しねぇよ。日本ですら男同士の触れ合いすらなかったのに、同性愛という概念のない世界でアーッなことができるわけねぇわ、あああああああああっ。
「もう、俺の下事情は放っておいてください」
「そういうわけにはいきません。同性愛ーーというより男性同士の性行為により生じる貴金属への魔力の流出量は、君以外に研究しようがありませんので。この国で唯一、男なのに男が好きという存在なのですよ、クウガくんは」
ゲイで悪うござんしたな。
「ちなみに魔導師や貴族の方々にも協力してもらったのですが、どうしても男同士でやると互いに萎えてしまって研究にならないのですよ」
「何やらせてんですか、あんたは」
「それに比べて、君はギンギンになりますからね」
フッ、とアトランが吹き出すように笑い声をあげる。
フッ、と俺はアトランから目をそらした。
そりゃギンギンにもなりますわな!! ゲイっすからね!
でもそうだよな。普通男同士だと気持ち悪さが先に来るよな。ゲイでもなけりゃ萎えるに決まってるよな。たとえそれが気持ちいい行為だとしても、男が男の体に必要以上に触るっておかしいもんな。
・・・・・・・・・・・・んんんん? ちょっと待て?
ケツに指突っ込んでたんですが、ステンさん。
胸思いっきり揉んでたんですが、ダグマルさん。
精液飲んでいませんでしたかね、サッヴァさん。アトランさん。
例外があるのか。それともそういう行為だと悟られなかったからなのか。
わからん、わからんよ。ノンケの考えることがゲイにはわからんよ。
いや、まあ、あまり考えるのやめよう。後悔が押し寄せるから。
っていうかさあ。
「その魔導師や貴族の人たちに協力してもらうんだったら、それに俺を混ぜてくれれば良かったんじゃないんですか?」
「君は勇者でなくなったとはいえ、この国1番の嫌われ者ですよ。そんな人相手に性行為紛いなことをさせるというのは、それこそ君が嫌う無理矢理なんじゃないですか?」
「それもそうですが・・・・・・」
「だから君が好意を抱き、相手も君を憎からず思っている相手。だからこそリッセン公爵家の次男坊を連れてきたのですよ」
だーかーらー、それが困るんだよ!!! 何故、知り合いを連れて来ちゃったし!
童貞も卒業できないし、今後絶対に顔合わせられないし!
ゲイだってことをちゃんと伝えるんだって思ったけど、最悪な方法で伝えることになっちゃったし!!
「せめて媚薬とか無理矢理とかそういう勘弁してください。ちゃんと説明して相手がそれに了承しないとレイプですからね。強姦でなく、せめて和姦でお願いします」
「説明・・・・・・、ですか」
アトランは顎に手を当てて、少しばかり思案する。
「なら次はそういう方向でやってみましょう」
+++
そんな会話をしてから幾日か経ったある日。
俺は膝と両手を地につけてうなだれていた。
「クウガくん、そこまで打ちひしがらなくても。途中で予想はできてたでしょうに」
「イヤな予感は、していましたよ。していましたよ!」
昼食後にローブを着て街に繰り出した時点で、イヤな予感しかなかったわ!
道行く途中で「あれ、この方向。見覚えがあるぞ」と思った時点で、イヤな予想はしていたよ。でもイヤな予感って外れてほしいじゃん。外れてほしかったんだよ切実に!
だって、だって、ここ。
「サッヴァさんの家なんですけど」
「はい、そうですね」
そうですね、じゃねぇよ!!
ダグマルの次はサッヴァっすか!? 俺のこと孤立させる気満々っすか!? 鬼か、あんたは!!
「イヤです」
「拒否権はありません」
キッパリ言ってやればキッパリ返された。俺に権利はないのか。
「何をやっているのだ、お前は」
聞き覚えのある声にビクッと体を跳ねて、おそるおそる顔を上げる。
「久しぶりだな。少しやつれているようだが、ちゃんと食べているのか?」
「サ、サッヴァさん」
そこにはサッヴァがいた。
目が覚めたあの日。そしてその日以降一度も見ることのなかった顔。
久しぶりに見たその顔が、ひどく懐かしかった。
嬉しさが込み上げる。会いたかったと強く思った。
このタイミングじゃなかったらなあああああああああああああ。
隣にアトランがいなかったらなああああああああああああああ。
「お久しぶりです。サッヴァ先輩」
「・・・・・・今日は事前に連絡をとったわけだな」
「ええ。そうでなければご自宅にお邪魔することなどできないでしょうから。それにしても休みをとったのに、神官の制服なのですね」
「これが動きやすいんだ」
ご歓談中すいません。お邪魔したくないです。お願いだからお邪魔させないで。
俺はキリキリ痛みだした胃に耐えながら口を開いた。
「あの、ごめんなさい。俺サッヴァさんの家に入りたくないです」
ダグマルのときの二の舞になりたくないから!
サッヴァにまでレイプ紛いなことしたくないから!
家の中に入ったら絶対アウトだってわかってて、素直に入れるか!!
「だって、俺サッヴァさんに」
「ーー会いたかったのは、私だけだったか?」
サッヴァさんに酷いことしたくない。そう言おうとしていた口が止まった。
俺を見るのサッヴァの顔に哀愁が浮かんでいるように見えたからだ。
待って待って、久々に会ったからフィルターかかってないか俺。サッヴァが俺に会えなくて寂しいとか、そんなん思うキャラじゃねぇだろ。俺の願望がとうとう視力にまで現れやがった。もうダメかもしんない。
「いや、なんでもない。戯言だ。クウガは気にしなくていい」
「えと、あの、そうじゃなくて」
「お前が来ると聞いていて、少し浮かれていたようだ。すまなかったな。顔が見れるだけで満足だ」
「え、あ、あの・・・・・・」
罪悪感が、くっそ、罪悪感で胃がキリキリしてきたんだけど。
なんなの!? 入ろうとしても入らないようにしても胃が痛むの!?
「お、邪魔します・・・・・・」
俺はそう声を絞り出すことしかできなかった。
+++
通されたのはあの客間だ。かつてここで俺はアトランに着いていくと決めたのだ。
またここに来ることになるとは思わなかった。
「ーーーーというわけでして、サッヴァ先輩にクウガくんとセックスしていただきたく思いまして」
本当に、こういう理由で来ることになると思わなかったわ!!
俺の隣に座るアトランが笑顔で向かいに座るサッヴァに話しかけていた。
にしても本当に全部説明しやがった、この男。
男性同士のアナルセックスから、ダグマルとの件まで全部話しやがった。俺がレイプ紛いなことしたのも、結局直腸に射精しなかったことで研究データがとれなかったことも。全部ぶっちゃけられた。
俺はもう頭を抱えてうずくまっていた。
サッヴァの顔が見れなかった。
だって男同士の性行為について説明しているわけで。しかもアナルセックスについて説明しているわけで。そして男相手に発情できると説明しているわけで。
なによりそんな俺とセックスさせろときた。
ハチと一緒に逃げれば良かったあああああああああ。
「クウガ」
「は、はい」
俺が頭を上げると、複雑そうな顔をしたサッヴァと視線が合った。
気まずくて少し視線を下げると、サッヴァが話しかけてきた。
「何故ここに来たのかは今ので理解した。だがお前はそれでいいのか?」
「それで?」
「ーー私が、相手でもいいのか。という意味だ」
俺がサッヴァの言う意図を掴めずにいると、サッヴァは顔をしかめた。
「お前は年上の男が好きだという。だが実際に情事に入ったとするならば、いくらか年の近い方が良いのではないのか。私の年では、あまりにもお前と離れすぎている」
・・・・・・ああ、そこの問題?
俺のストライクゾーン、舐めちゃいかんぜよ。
言っておきますが、おじいちゃんまでいけちゃうんですけど。サッヴァなんて普通に余裕のラインなんですが。
そう考えると、もし俺が日本にいたら老人介護系の仕事が天職だったんだろうな。おじいちゃん相手ならテンションMAXでお世話できたわ。あ、でもおばあちゃん相手じゃ無理だからやっぱり無理だったか。
はっ、違う違う。
「それは問題ないかと」
「いや、しかしだな。私などでは」
「サッヴァさんはカッコイイですよ」
俺の言葉に今度はサッヴァが眉間を押さえてうつむいた。
あ、これまずったか。もしかしてセックスさせない言い訳のつもりだったか。いや、もしかしなくてもそうだって。
ここで俺がイヤがる→セックスそのものができない→アトランもさすがに諦める
そういう流れになったんじゃねぇの!?
あ、俺、何やってんの。バカなの。俺ってバカなの。
サッヴァがため息をついて立ち上がる。
「クウガ。私の部屋の場所を覚えているか?」
「入ったことはないですが、場所ならわかります」
そう答えると「そうか」と返事しながらサッヴァが客室の扉に手をかけた。
「しばらくしたら部屋に入れ。少し、準備をさせろ」
振り向かずにそう言って、部屋を出ていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
え、え、え、ええええええええええええええええ!!?
「さてクウガくん。これで心おきなく、やれそうですね」
アトランの言葉が俺の脳内で響き渡る。
ま、マジっすか。
「クウガァ~、クウガァ~、クウガァ~」
ベッドの上で横たわる俺は呆然としながら天井を見つめていた。見つめていたといっても視力はなくされてるので何も見えないが。
そんな俺の両端にはじゃれつく魔物(というより犬?)が2匹。ハチとココだ。
はっきり言って邪魔くさいのだが、それにつっこむ気力はない。
思い出すのは挿入する直前のダグマルの表情。
青ざめてたなあ(遠い目)。トラウマものだろうなぁ。
レイプは、絶対にしないって決めてたんだけどなぁ。
俺、やっちゃったあああああああああああ。
完全にやっちゃったああああああああああ。
なのにまだ童貞って何これ。いや、それに関しては後悔はない・・・・・・ない・・・・・・正直に言って後悔めちゃくちゃしてるけども! 後悔するわ! あれが俺の一生の内あるかないかの童貞卒業チャンスだったんじゃねぇの!?
申し訳ないと思ってるよ。それは本当、事実、本心ですとも。
でもめっちゃ肌の感触が生々しく覚えてるんだけど。くっそがああああああ。
胸もチンコも良かったよ。チンコなんて使い込んでた色合いでしたよ。酸いも甘いも噛み分けてましたよ。うおおおおおおお、どうせなら舐めたかったあああああああ。精液飲んで死ぬとか、考えてみればゲイにとってはこれ以上ない死に方なんじゃねぇのかなあああ!? むしろ死んでた方が俺にとっては良かったんじゃねぇの!? 心安らかにあの世逝きという意味で!!
気絶して目が覚めたらすべて夢でしたとか、そんな都合のいいことが起こるわけもなく。目が覚めたら、何て声かけるべきか悩んでいるダグマルと、セックスしなかったことへの怒りに満ちているアトラン(笑顔でしたがね、怖かった)がいましたよ。
生きた心地がしなかった。俺の表情凍ったもん。ポーカーフェイスだからわかりにくいだろうけど、確実にカチンコチンになった。チンコは逆にシナンシナンでしたが。
まあ、すぐに土下座したよね!!
目が覚めたときには店を出る時間になってしまい、清浄魔法でちゃんと綺麗にして帰りました。ダグマルとは顔を合わせることができなかった。
終わった。いろんな意味で終わった。
レイプ魔の烙印押されてしまった。童貞なのに。童貞なのに!
ダグマルのことだから周囲には言いふらさないとは思うけど・・・・・・。でもショックでトラウマになり誰かに相談してそれから広まる可能性も・・・・・・。
終わったな(真顔。あまり表情は変わらないと思うが)。
少なくともダグマルに合わす顔はないな。あとロッドもか。
「クウガ、何かあった? 元気ないよ?」
何があったか。ナニがあったっていうか、ナニしちゃったんですけど。
そんなこと言えるわけもなく、いや言ってもわからないか。
「とある人に酷いことしちゃったんだよ」
それだけ言っておく。
「魔王様よりは酷くないでしょ?」
しかし返された言葉に胸をグサリと刺された気がした。
うん、レイプはしてない・・・・・・よ。乱暴は・・・・・・したかな。び、微妙。
「同じくらい酷いことしたかもしれない」
「えー、嘘だあ」
ハチにクスクス笑われた。
信じられないかあ。真実なんだけどなあ。
「でも酷いことしたのは確かだから」
「じゃあ謝んないとね」
「・・・・・・そうだね」
ハチさん、正論っす。何も言えねぇっす。勇者、魔物に諭されちゃったよ。
そうなんだよなあ。謝らないといけないんだよなあ。ん? 謝る??
あああああああああああ。俺、そういえば「次会ったときにみんなに謝る」とか俺決意してたじゃん。謝れてねぇじゃねぇかよ。むしろ最悪な形で裏切ってんじゃねぇか。
ヤバい。詰んでるわ。
思わず遠い目をしていると、ハチがぎゅっと俺の手を握った。
「それとも、僕とここから逃げちゃう?」
そしてそう尋ねてきた。
うーん、ありがたいお言葉。「んじゃ、よろしく!」ってノリで言えたら楽だよな。
俺はハチの手を握り返した。
「逃げないよ」
それだけ言うとハチは「ぬぬぬぬぬ」と不満そうな声を出した。
逃げない、っていうより逃げられないってのが正しいけどな。
「それにしても、結構頻繁にここに来てるけど大丈夫なのか?」
「魔王様にはバレないようにしてるつもりだよ。がむしゃらに魔物食って強くなってるのに夢中だから」
・・・・・・強くなったら困るんだけどな。
ってか怪人ミナゴロシ、ガチで勝てる気がしないんだけど。まあ、もう勇者じゃないんだから戦う必要なんてないけども。
するとハチが「本当に」と不安そうに話し始める。
「強くなりすぎて怖くなる」
「食われるかもしれないからな」
「そうじゃなくて、全部壊してしまうんじゃないかって」
「壊す?」
「全部全部なくしちゃうんじゃないかって。ずっとずっと今の魔王様のままだったらきっと、いつかきっとそうなるよ」
・・・・・・全部、壊す。ーー全部、殺す。
シャレにならねぇな。
それならいっそハチが魔王になればいいのに。人間に興味があるこいつなら、世界は平和になるんじゃねぇか。
「ハチは魔王になりたいと思うか?」
「イヤだよ。怖いもん。魔王を殺すのだって怖いし、魔王になったらなったで食われる的になるだけだもん。そりゃ魔王にならなくたって、魔物に食われることだって普通だけど」
そういや、魔物同士って食うか食われるかの関係だったな。おそろしき弱肉強食。俺だったら魔物になって速攻で食われてたわ。
そう考えると俺の両端にいるこいつらは、どれだけの魔物を食って人型になれたのだろうか。いや、そういうことを考えるのはやめよう。
「そっか、それは大変だ」
「うん、大変だ。大変だ」
俺の言葉を真似するようにつぶやいて、ハチは笑った。
握られていた俺の手からハチが消える。それはつまり誰かが近づいてきたということ。
ハチは初めて会った日から、こうやってちょくちょく人目を忍んでやってきているのだ。
案の定、しばらく経ってから扉が開かれた。
「随分お疲れのようですね」
「そりゃ媚薬を多重に服用されて気絶するまで精液吐き続けたら、しばらくは疲れるに決まってるでしょうが」
視力が戻りアトランの姿が目に映る。
「年寄りのような台詞ですね。大分横になったでしょうに」
いやいやいやいや、若いからってしんどいものはしんどいですって。
そう思いつつも俺はダルい体を起こした。
「にしてもアトランさんって、とんでもないことをさせますよね。驚き通り越して何も言えないですよ」
「自分としましては、あそこまでお膳立てされて最後まで手を出さなかったことに、驚きを通り越して何も言えませんね」
そう言い返されてグッと言葉を詰まらせる。
ええ、ええ、耐えましたよ。死ぬ気で耐えましたよ。耐えちゃったんだよ。くっそおおおおおお、後悔はないけど心残りめちゃくちゃあるわ。挿入れたかったあああああああああ。
「俺は、無理矢理では、したくありません」
「童貞が夢見てどうするんですか」
童貞だから夢見るんだよ、コンニャロオオオオオオオオオ。
んな、ゲイの短編エロのように会って数行でアーッな展開になれるわけねぇだろ。
んな簡単にR-18になれたら苦労しねぇよ。日本ですら男同士の触れ合いすらなかったのに、同性愛という概念のない世界でアーッなことができるわけねぇわ、あああああああああっ。
「もう、俺の下事情は放っておいてください」
「そういうわけにはいきません。同性愛ーーというより男性同士の性行為により生じる貴金属への魔力の流出量は、君以外に研究しようがありませんので。この国で唯一、男なのに男が好きという存在なのですよ、クウガくんは」
ゲイで悪うござんしたな。
「ちなみに魔導師や貴族の方々にも協力してもらったのですが、どうしても男同士でやると互いに萎えてしまって研究にならないのですよ」
「何やらせてんですか、あんたは」
「それに比べて、君はギンギンになりますからね」
フッ、とアトランが吹き出すように笑い声をあげる。
フッ、と俺はアトランから目をそらした。
そりゃギンギンにもなりますわな!! ゲイっすからね!
でもそうだよな。普通男同士だと気持ち悪さが先に来るよな。ゲイでもなけりゃ萎えるに決まってるよな。たとえそれが気持ちいい行為だとしても、男が男の体に必要以上に触るっておかしいもんな。
・・・・・・・・・・・・んんんん? ちょっと待て?
ケツに指突っ込んでたんですが、ステンさん。
胸思いっきり揉んでたんですが、ダグマルさん。
精液飲んでいませんでしたかね、サッヴァさん。アトランさん。
例外があるのか。それともそういう行為だと悟られなかったからなのか。
わからん、わからんよ。ノンケの考えることがゲイにはわからんよ。
いや、まあ、あまり考えるのやめよう。後悔が押し寄せるから。
っていうかさあ。
「その魔導師や貴族の人たちに協力してもらうんだったら、それに俺を混ぜてくれれば良かったんじゃないんですか?」
「君は勇者でなくなったとはいえ、この国1番の嫌われ者ですよ。そんな人相手に性行為紛いなことをさせるというのは、それこそ君が嫌う無理矢理なんじゃないですか?」
「それもそうですが・・・・・・」
「だから君が好意を抱き、相手も君を憎からず思っている相手。だからこそリッセン公爵家の次男坊を連れてきたのですよ」
だーかーらー、それが困るんだよ!!! 何故、知り合いを連れて来ちゃったし!
童貞も卒業できないし、今後絶対に顔合わせられないし!
ゲイだってことをちゃんと伝えるんだって思ったけど、最悪な方法で伝えることになっちゃったし!!
「せめて媚薬とか無理矢理とかそういう勘弁してください。ちゃんと説明して相手がそれに了承しないとレイプですからね。強姦でなく、せめて和姦でお願いします」
「説明・・・・・・、ですか」
アトランは顎に手を当てて、少しばかり思案する。
「なら次はそういう方向でやってみましょう」
+++
そんな会話をしてから幾日か経ったある日。
俺は膝と両手を地につけてうなだれていた。
「クウガくん、そこまで打ちひしがらなくても。途中で予想はできてたでしょうに」
「イヤな予感は、していましたよ。していましたよ!」
昼食後にローブを着て街に繰り出した時点で、イヤな予感しかなかったわ!
道行く途中で「あれ、この方向。見覚えがあるぞ」と思った時点で、イヤな予想はしていたよ。でもイヤな予感って外れてほしいじゃん。外れてほしかったんだよ切実に!
だって、だって、ここ。
「サッヴァさんの家なんですけど」
「はい、そうですね」
そうですね、じゃねぇよ!!
ダグマルの次はサッヴァっすか!? 俺のこと孤立させる気満々っすか!? 鬼か、あんたは!!
「イヤです」
「拒否権はありません」
キッパリ言ってやればキッパリ返された。俺に権利はないのか。
「何をやっているのだ、お前は」
聞き覚えのある声にビクッと体を跳ねて、おそるおそる顔を上げる。
「久しぶりだな。少しやつれているようだが、ちゃんと食べているのか?」
「サ、サッヴァさん」
そこにはサッヴァがいた。
目が覚めたあの日。そしてその日以降一度も見ることのなかった顔。
久しぶりに見たその顔が、ひどく懐かしかった。
嬉しさが込み上げる。会いたかったと強く思った。
このタイミングじゃなかったらなあああああああああああああ。
隣にアトランがいなかったらなああああああああああああああ。
「お久しぶりです。サッヴァ先輩」
「・・・・・・今日は事前に連絡をとったわけだな」
「ええ。そうでなければご自宅にお邪魔することなどできないでしょうから。それにしても休みをとったのに、神官の制服なのですね」
「これが動きやすいんだ」
ご歓談中すいません。お邪魔したくないです。お願いだからお邪魔させないで。
俺はキリキリ痛みだした胃に耐えながら口を開いた。
「あの、ごめんなさい。俺サッヴァさんの家に入りたくないです」
ダグマルのときの二の舞になりたくないから!
サッヴァにまでレイプ紛いなことしたくないから!
家の中に入ったら絶対アウトだってわかってて、素直に入れるか!!
「だって、俺サッヴァさんに」
「ーー会いたかったのは、私だけだったか?」
サッヴァさんに酷いことしたくない。そう言おうとしていた口が止まった。
俺を見るのサッヴァの顔に哀愁が浮かんでいるように見えたからだ。
待って待って、久々に会ったからフィルターかかってないか俺。サッヴァが俺に会えなくて寂しいとか、そんなん思うキャラじゃねぇだろ。俺の願望がとうとう視力にまで現れやがった。もうダメかもしんない。
「いや、なんでもない。戯言だ。クウガは気にしなくていい」
「えと、あの、そうじゃなくて」
「お前が来ると聞いていて、少し浮かれていたようだ。すまなかったな。顔が見れるだけで満足だ」
「え、あ、あの・・・・・・」
罪悪感が、くっそ、罪悪感で胃がキリキリしてきたんだけど。
なんなの!? 入ろうとしても入らないようにしても胃が痛むの!?
「お、邪魔します・・・・・・」
俺はそう声を絞り出すことしかできなかった。
+++
通されたのはあの客間だ。かつてここで俺はアトランに着いていくと決めたのだ。
またここに来ることになるとは思わなかった。
「ーーーーというわけでして、サッヴァ先輩にクウガくんとセックスしていただきたく思いまして」
本当に、こういう理由で来ることになると思わなかったわ!!
俺の隣に座るアトランが笑顔で向かいに座るサッヴァに話しかけていた。
にしても本当に全部説明しやがった、この男。
男性同士のアナルセックスから、ダグマルとの件まで全部話しやがった。俺がレイプ紛いなことしたのも、結局直腸に射精しなかったことで研究データがとれなかったことも。全部ぶっちゃけられた。
俺はもう頭を抱えてうずくまっていた。
サッヴァの顔が見れなかった。
だって男同士の性行為について説明しているわけで。しかもアナルセックスについて説明しているわけで。そして男相手に発情できると説明しているわけで。
なによりそんな俺とセックスさせろときた。
ハチと一緒に逃げれば良かったあああああああああ。
「クウガ」
「は、はい」
俺が頭を上げると、複雑そうな顔をしたサッヴァと視線が合った。
気まずくて少し視線を下げると、サッヴァが話しかけてきた。
「何故ここに来たのかは今ので理解した。だがお前はそれでいいのか?」
「それで?」
「ーー私が、相手でもいいのか。という意味だ」
俺がサッヴァの言う意図を掴めずにいると、サッヴァは顔をしかめた。
「お前は年上の男が好きだという。だが実際に情事に入ったとするならば、いくらか年の近い方が良いのではないのか。私の年では、あまりにもお前と離れすぎている」
・・・・・・ああ、そこの問題?
俺のストライクゾーン、舐めちゃいかんぜよ。
言っておきますが、おじいちゃんまでいけちゃうんですけど。サッヴァなんて普通に余裕のラインなんですが。
そう考えると、もし俺が日本にいたら老人介護系の仕事が天職だったんだろうな。おじいちゃん相手ならテンションMAXでお世話できたわ。あ、でもおばあちゃん相手じゃ無理だからやっぱり無理だったか。
はっ、違う違う。
「それは問題ないかと」
「いや、しかしだな。私などでは」
「サッヴァさんはカッコイイですよ」
俺の言葉に今度はサッヴァが眉間を押さえてうつむいた。
あ、これまずったか。もしかしてセックスさせない言い訳のつもりだったか。いや、もしかしなくてもそうだって。
ここで俺がイヤがる→セックスそのものができない→アトランもさすがに諦める
そういう流れになったんじゃねぇの!?
あ、俺、何やってんの。バカなの。俺ってバカなの。
サッヴァがため息をついて立ち上がる。
「クウガ。私の部屋の場所を覚えているか?」
「入ったことはないですが、場所ならわかります」
そう答えると「そうか」と返事しながらサッヴァが客室の扉に手をかけた。
「しばらくしたら部屋に入れ。少し、準備をさせろ」
振り向かずにそう言って、部屋を出ていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
え、え、え、ええええええええええええええええ!!?
「さてクウガくん。これで心おきなく、やれそうですね」
アトランの言葉が俺の脳内で響き渡る。
ま、マジっすか。
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