守りたい約束 冥界の仕事人の転生先

ひろろ

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はじまりの朝

桜吹雪 ☆ 前編

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 死者の国 冥界から、人間界にやって来た一羽の鶴が、翼を大きく広げ優雅に飛んでいる。


 鶴の姿は、普通の人間には 基本的に見えない。

 ただ、極 稀ごく まれに強烈な霊感の持ち主には見える場合もあるようだ。


 自転車に乗った高校生が空を見上げていたことに、オストリッチは気づいていない。


「大きな白鷺しらさぎなのかな?まるで鶴みたいだ……」

 彼は、自転車を止めて空を見上げた。


「おはよう、日向ひなたくん、どうして空を見てるの?」

 中学の同級生だった優香も空を見上げて聞いた。


「ほら、あそこに大きな鳥が飛んでるだろう?白鷺かな?にしては、大きいね」

 日向が指をさして言った。


「はあ?何にもいないけど?
日向くん、時間がないよ。駅に行こう」


 日向と優香は、違う高校に通学しているが、同じ時刻の電車に乗るのである。

 
 2人は、再び自転車をこぎ始めたのだった。


(あんな大きな鳥が見えないなんて、優香の目は大丈夫なのか?

 うんっ?変だな、鳥なのに服を着ている様に見えたけど?

 本当は、俺の目が変なのかな?)


「ちょっと、急がないと!乗り遅れるよ!あたし、スピードをあげちゃうからね!」

 
「あっ、やばっ!待てよ!俺が抜かしてやるからな!」



 柔らかな朝光が降り注ぐ、川沿いの桜並木道はとても美しい。


(わぁ、桜の花びらが風に舞っていて、綺麗だな……これは、桜吹雪だよって、お姉ちゃんが教えてくれたんだよね)

 
 この鶴の名前はオストリッチという。

 お姉ちゃんというのは、オストリッチの元同僚で、一緒に暮らしていた あおいという娘のことだ。

 あおいは、随分と前に転生して、今は人間界のどこかで暮らしている。
 

「お姉ちゃん、優さん、蓮さん、あのね、僕ね、転生することになりました。

 皆さんは、どこで暮らしているのでしょうか?

 生まれ変わった僕が、生まれ変わった皆さんに遭遇できるといいな……」


 オストリッチは、つぶらな瞳を輝かせ、人間になれることへの喜びをかみしめていたのであった。


 その時、電話が鳴った。


 ピッピロリン ピッピロリン……


「はい、オストリッチです」


「私だ!突発事故が発生した。
場所を確認して現場へ急行しろ!」


「はい、紅鈴くれいさん、了解です」


 死神の紅鈴は、オストリッチの上司である。


 オストリッチは、死ぬ予定者や死者がしてきた行いを調べて、冥界にデーターを送り、冥界エレベーターに乗せる仕事をしているのだった。

…………………

 ここは冥界の第1の門 所長室。


 死者達を最初に裁く場所の1番偉い人の部屋だ。


 いよいよオストリッチが転生するために、冥界を出て動物の霊が住む畜生界ちくしょうかいへと旅立つ日がやってきた。


秦広王しんこうおう様、僕は、今から畜生界に参ります。

 これまで、僕のパパとママになって、育ててくれて、ありがとうございました。

 先生がいつも側にいてくれたから、寂しくなかったです……うぐっ。
 
 せん……ひっく、しぇんせい……大しゅき……でしゅ……。ふぅ……ふー。

 今まで、本当にありがとう……ごじゃいました……あーん、あーん」


 オストリッチは、堪えきれず泣き出してしまった。


 秦広王も泣きたい気持ちを抑えて言う。


「くっ、オストリッチ!めでたい門出に泣いてはいかん。

 さあ、笑いたまえよ。

 これから、人として生きるわけだが、辛い事だってあるということを忘れてはならない!

 人間界は、修行の場なのだ。

 しかし、その分、楽しいと感じる事だって沢山あるのだよ。

 今度は、私が側で見守る事は出来ない。
 
 自分の力で強く生き抜いていきたまえ!

 オストリッチ、ドアの方に向くがよい」


「はい?」

 キョトンとするオストリッチは、秦広王に背を向けた。


「さあ、畜生界へ行きたまえ!

ふぅーーーー」


「えっ?はい?えっ!あーせんせー」


 秦広王がオストリッチの背中に向かって、息を吹きかけると、オストリッチの姿が消えたのであった。


 秦広王は、不思議な力を持つ神様なのかもしれない。


「秦広王様っ!オストリッチはいますか?」

 スタッフルームの方から所長室に入って来たオストリッチの先輩鶴のスワンが、オストリッチの見送りにやってきて、秦広王に尋ねたのだった。

「あっ、たった今、畜生界へと送り届けたところである。スワン、すまない」


「えっ……行った……。そんな……」

(うんっ?今、秦広王様が謝った?
嘘みたいだ!いつでも威厳の塊のような人なのに!可愛がっていたオストリッチが去って、相当、悲しいのだろう)


「あの、秦広王様、オストリッチがいなくなって寂しいですね……」

 スワンが秦広王を慰めようと思って声を掛けた。


「いや、それはない。私には、君達がいてくれるからな。

 君達が転生を希望するまで、私の子どもたちなのだから、寂しくなんかないのである。

 スワン、私のことは心配いらない。
仕事に戻りたまえよ」


 スワンは、自分も秦広王の子どもなのだと言われて、嬉しく思いながら仕事に戻って行ったのであった。


 秦広王は、オストリッチと出会った時の姿を思い出し呟く。

「オストリッチ、どんな困難な事があっても、君なら乗り越えられる。

 元気で暮らしたまえよ」


 オストリッチは、秦広王から言われた言葉を胸に刻み、人になる為の転生準備室の中へ入っていったのだった。

 
…………………

 それから月日は、過ぎ去っていった。

「たっ君、早く来なさい。
今、分娩室に入ったところよ。
じゃあね、電話を切るわよ」

 
「あっ、母さん!もうすぐ生まれそう?
えっ?あ、切れている……さっさと行かないと!」


 今、まさに産まれようとしている子の 父親である折原 匠海は焦っていた。


「ここから病院までどうやって行けばいい?ええと、あっ、自分の車で行けばいいのか!えーと、カバン、カバンを持って!」


「折原くん、それファイルだよ!

鞄は、そっちにある!落ち着きなさい。

気をつけて行くんだよ」


「はい!お先に失礼します」


 上司に言われ、深呼吸をして落ち着きを取り戻し歩き出した。


 病院に到着した匠海は、分娩室へと急いだ。


「母さん、どう?もうすぐ生まれる?

向こうのお義母さんにも連絡してくれた?」


「あっ、たっ君!連絡はしておいたわよ。もうすぐ生まれるか、様子はわからないわね。早く赤ちゃんに会いたいわ」

 匠海の母親は、孫の顔を見ることをとても楽しみにしている。


「僕もだよ。どんな子かな?どっちに似ているかな?楽しみだな。男かな?女かな?先生に敢えて聞いていないんだよね。早く会いたいな」


 ドキドキしている匠海の前に、看護師が現れた。


「医師から、お話しがございます。

ご主人、中へどうぞ」


「えっ?何かあったんですか?」


  匠海は、嫌な予感をおぼえ、動揺し聞いたのだった。


  その横には、かつて人間界で猫の姿で暮らしていた、お気楽猫グレースこと紅鈴が立っていた。


 彼は、黒のスーツに黒のネクタイを締めている死神なのである。


 
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