ある日、突然 花嫁に!!

ひろろ

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揺れる想い

それが喜びです!

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 冷やっとした場面もあったけど、何とかケーキ入刀と、新郎と新婦が互いに食べさせ合うファーストバイトが済んだ。


「翔太さん、菊乃さん、ケーキのお味は格別に甘かったことでしょう。

 さて、ここでゲストの皆様は、席へとお戻り下さい。

 ただし、新郎新婦の御家族と祖父母の方々は、こちらにお残り下さい」

 と司会者が言った。


 スタッフ達は、戻ろうとする祖父母や家族を引き止め、ケーキのある所まで連れて来た。


 今から、柚花が菊乃に提案した演出を行うつもりなのだ。


 何をするのだろうと困惑している家族たち。


「こんな正面に来て、何をやるんだ!

恥ずかしいから、席に戻して下さい」


「そうよ、恥ずかしいわ。戻らせて」

 どっちかの祖父母が言ったので、家族たちは高速で相槌あいづちをうつ。


「恥ずかしいから、若い者だけでやって下さい」と言った祖父母たちが、席に戻ろうとした時に司会者の声。


「はい、御家族の皆様、ここにお残り頂きまして、ありがとうございます。

 実は、おふたりより御家族様へケーキを食べさせたいというお願いがございまして……。

 これは、サンクスバイトと呼ばれているもので、お世話になった方に感謝を込めてケーキを食べて頂くのです。

 御家族様とゲストの皆様のお許しがあれば、願いを叶えさせて頂きたいのですが、どうでしょうか皆様?

 皆様、いかかでしょうか?」


 司会の支配人が、会場に問う。


 こう言われたら、異議を唱える人はおらず、盛大な拍手で賛同する。


 倉田チーフと外崎で、ウェディングケーキの頂点にあるデコレーションケーキを 慎重にワゴン台に載せて準備を開始した。


 そして、会場の拍手を聞いた祖父母たち8人は、観念したのだった。


「皆様、ありがとうございます。

 では、新郎 翔太さんの祖父母の方は、こちらへおいで下さい」


 司会者に言われ、4人が新郎のいる所へと来たのだ。


 倉田チーフが新郎に小皿とフォークを渡す。


 外崎がマイクを持つ。


 新郎がフォークで、ケーキをひと口分取って会場に向かって言う。


「父方の祖父です。厳格な祖父で、男が女性を守るものだと教わりました。

 おじいちゃん、ありがとう。あーん」


「あっ、うん……。美味しかった、ありがとう。

幸せになりなさい、おじいちゃんはずっと見守っているからな」


 それからも2人は同様に、祖父母たち 一人一人を簡単に紹介し、食べてもらい、順に席に戻ってもらった。


 次は、新郎の兄と新婦の妹だ。


 「兄です。頼りになる兄なんですが、頼られる弟を目指します。兄さん、ありがとう。あーん」


「あーん……、美味しいよ。ありがとう。

これ、恥ずかしいな、まっ、おめでとう」


 会場から笑いが起きた。


 次は、新婦の妹の番だ。


「妹です。あちこち飛び回る私に代わり、実家でどっしりと構えてくれています。まだ、独身です。

 私が、先に家を出てしまってごめんね。

 父さん、母さんの事を頼みます。あーん」


「……ご馳走さまでした。

……お姉ちゃん、翔太兄さん、おめでとうございます。兄が欲しかったから、できて嬉しいです。

 これから、よろしくお願いします」

 
 兄や妹が席に戻り、残された2人の両親は、どんなコメントを言おうか、ドキドキしながら考えている。


 新郎 母は、何か気の利いたコメントがないか、頭の中でグルグル考えて、ピンときた言葉を思いつく。


(美味しゅうございました。と言おう)


 すると、緑川が椅子を4つ会場正面辺りに、ゲストから見えるように並べ、外崎がマイクスタンドを用意した。


「翔太さん、菊乃さんのご両親様は、恐れ入りますがそちらの椅子にお座り下さい」


 司会者から言われ、戸惑う両家両親たちに柚花が、言葉掛けをする。


「お疲れになるといけませんので、椅子にお掛け下さい」


 にっこり!


 柚花のとびきりの笑顔で、安心してもらうつもりらしい。


 椅子に掛けてもらうと、倉田チーフが合図を出す。


「照明、お願いします」


 突然、会場の照明が落とされ、新郎 新婦にスポットライトが当てられた。


 そこで司会者が会場に向けて説明をする。


「只今より、ご両親方にケーキを召し上がって頂きます。翔太さん、菊乃さん、どうぞ」


因みに、デコレーションケーキが載ったワゴンは、両親たちの座る脇に置かれているが、サンクスバイトが始まった頃に、配膳係がウェディングケーキを厨房へと運んで行ったので会場にはない。


「恐れ入ります、元木様おふた方、お立ち下さい」

 柚花が後ろに隠れて ささやいた。


「お父さん、家族の為に一生懸命に働いてくれて、ありがとうございます。あーん、美味しいでしょう?こんな事、初めてだから照れちゃうね?」


  外崎がマイクを持ち声を拾う。


「ああ、お前が生まれた時に祝って食べたショートケーキ以来の……美味しさだよ……うっ、うまい……よ」


 新郎 父が言うと、会場は感動に包まれ、ハンカチを目に当てている人もいた。


 新郎 母は、頭の中で あの言葉を繰り返し練習している。


「お母さん、毎日、美味しいご飯を作ってくれてありがとう。たまには、食べに行くから。あーん、美味しい?」


「はい、美味しゅうございます!」

(よし、キチンと言えた、良かった)


 会場は、シーンとしていたが、本人的には満足していたのだった。


 それから、新郎両親は座り 次は新婦側の番となった。


「お父さん、口を開けて!はい、どうぞ。
不自由の無い暮らしができたのも、お父さんのお陰です。感謝しています。ありがとう。美味しい?」


「菊乃に食べさせてもらうなんて、最初で最後かもな。お父さんの思い出になった。

美味しかった、ありがとう」


「お母さん、いつも……美味しいご飯を……ありがとう。いつも笑顔で送り出してくれて、ありがとう。

はい、どうぞ……」

 菊乃は、堪えきれなくて涙ぐんでしまった。


「うん、美味しい。今度は菊乃が家族に食事をつくるのよ。

 でもね、お母さんのご飯が恋しくなったら、翔太さんと来なさい。待ってる」


 再び会場が感動に包まれ、マイクスタンドの前に新郎が立ち、隣に菊乃が立った。


「本日、お越し下さった皆様の前、そして、両親の前にて、私、元木 翔太と菊乃は誓います。

 どんな時でも 互いを尊重し、仲良く協力し合い、日々、暮らしていきます!


……ということを誓いたいと思います。


 誓いの言葉は、沢山ありますが、欲張っても私たちの身の丈に合わないので、短くしました。


 この誓いを書面にしますから、この会場にいるゲストの皆様全員に証人になって頂くために、後程、各テーブルを回り、サインを頂きたいと思います。よろしくお願い致します」


 新郎 新婦が深々とお辞儀をして、ファーストバイトとサンクスバイトの演出が終了となったのだ。


 倉田チーフは、司会者台に行き「なかなかの司会者ぶりだわよ」と褒めた。


 それに対して、支配人は何も答えなかったが、心の中では大きくガッツポーズをしたのだった。


……………………


 その後、暫し歓談と食事の時間をゲストには楽しんでもらった。

 その頃、新郎 新婦は署名をしてもらうために各テーブルを回り、宣誓書が作成されたのだった。


 ウェディングケーキのロールケーキがデザートとして出て来た時は、「待っていました」の声がかかったほど期待をされていて、「ほんとに美味しい」の声もあり、スタッフ一同、ホッとした瞬間だったのだ。


ご両親には、花束贈呈の代わりに記念品贈呈にして、新婦と新郎に それぞれ手紙朗読をしてもらい、感動、もらい泣き者続出のうちに、披露宴はお開きとなった。


「スタッフの皆さんのお陰で、とてもとても素晴らしい結婚式を挙げることができました。

 沢山の事をケチってきた私たちに、ここまで親身になって良くして頂き、心から感謝しております」


 新郎からの言葉に続いて、新婦も礼を言う。


「沢山のわがままを聞いて頂き、ありがとうございました。

 本当にとんでもない客だったと思います。

それなのに、とことん お付き合い下さった事を決して忘れません。

 それと、司会を引き受けてくださった総支配人さんにも、とても感謝しております。

 よろしくお伝え下さい。

 本日は、本当に有難うございました」


 総支配人である根岸支配人は、既に仕事に戻って行ったのだった。

 
…………………

 コンコン!


「はい、どうぞ」


「根岸君、今日は本当にありがとうございました。

 おふたりが根岸君によろしくお伝え下さいって言ってました。

 根岸君、本当に司会が上手だったわ。

 定年退職後の職業にできるかもよ?

 それじゃあ、仕事のお邪魔をして、ごめんなさい。失礼しました」


 倉田チーフが一方的に話して、退室しようとした。


「待って……あのさぁ、今日の御礼っていつ?」

 支配人は、聞きにくそうに聞いた。


「あっ、そっか!御礼をする約束したものね。

いつにしよう。昼間とかでもいいかな?

 ランチとかでもいい?

 どこの店がいいか若い子に聞いてみるからね。

 楽しみにしていて下さい。じゃあ!」   


 また倉田チーフは、一方的に話し、さっさと部屋から出て行ってしまったのだ。

 
(ランチ……って、ママ友じゃないでしょっ!

まあ、それでもいいですけど……。

 実現するのかな?忘れられそうだな……)


 支配人は、溜まった仕事を見ながら、ため息をつくのだった。

…………………

 柚花は、菊乃たちの見送りにロビーにいた。


 元木は荷物を積みに車へと行って、菊乃と2人だけだった。


「丸山さん、本当に色々とありがとうございました。それと、智也……さんにも感謝をしていたとお伝え下さい。お花が素晴らしかったと言って下さい。

 丸山さんと智也さんは、お似合いですから、是非、ゴールインしてもらいたいな。

 私が言うのも変だけど、上手くいくといいなって思います。

 頑張って下さいね」


 菊乃から、何故か応援をされて思い出した。

 そっか、すっかり忘れていたけど、智也さんの恋人を演じていたんだった。


「あはは、そうですね……」

 適当に答えるしかない、彼氏無しには虚しい。


「菊乃、行こうか。

 丸山さん、本当にお世話になり、ありがとうございました。

 子どもができて、お祝い事があれば、またここを利用させてもらいます。

 では、さようなら」


 
「またのご利用をお待ち致しております。

ありがとうございました」


 私は、お客様が満足をしてくれて帰って行く時、この瞬間が好きなんだ。


 ありがとうと言われたら、疲れなんて吹っ飛んでいっちゃうもの。


「丸山さん」


 ロビーにいる柚花に背後から声を掛けたのは、匠海だった。


「僕がこっちの席にいたら、後ろの方から話し声が聞こえて……。

 ごめん、知らなかった、智也とゴールインとかって、話しが聞こえてきちゃった……」


 まだ、ここにいたの?

 って、えっ?

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