Sunrise Devil in the rain

masa

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覚声2

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 駅を出ると、田舎の匂いが立ちこめる田園風景とご対面。広大な田畑が住宅を包んでいる。その風景が俺の地元に似通っていて、雰囲気なんかもそっくりだ。
 じっと風景を見つめていると、慢性的に感じていた息苦しさが遠のく感覚があった。そのせいか、「田舎にとどまって、地元の大学に実家通いでもすれば良かった」などという、後悔の念がふっと心に沸いた。疲れているのかも知れない。
 都会に夢を見過ぎていた事もあるが、それよりも、スピード感溢れる都会の空気に体が馴染んでくれなかった事が痛手だった。都会でスローライフを実現するには、いささか経済力が欠けていた。今更だが、自分が都会というものに適性が無かった事を、懐かしい風景から実感した。俺は田舎の人だったんだ。
 隣に目をやる。俺が田舎を出なかったら、彼女を誰か別の奴が拾ったかどうか考える。誰も拾わなかったら、彼女は大雨の中でくたばっただろう。最悪の事態を避けた事が、これまでの都会暮らしの意義だったなら、それは一年半もの時間と割に合うだろうか……

 ―夏の暑さに歪められた外気を二人して見つめ、俺達は駅前で立ち往生していた。
「なぁ、朝日」
 見込みの無い提案をするように言った。
「何?」
 その提案には見込みが無いよという色の、素っ気ない返事だった。
「本当に連いて来るのか?」
「うん」
 ティッシュ配りのアルバイターよろしく、どうか受け取って下さいと悲壮感に満ちた表情で定期を差し出し、最後のお願いをする。
「ここに、今日までの定期がある。これでアパートまで戻るっていうのも―」
「くどい」
 二人の間を夏の爽やかな風が吹き抜ける。雲一つ掛かっていない太陽がジリジリと肌を焦がすから、俺の額から流れる汗が発汗作用によるものなのか、窮地に立たされた事への冷や汗なのかが分からない。
 真っ青な夏空の下にたたずむ朝日は、先程とは一転して落ち着き払っていた。憂いを帯びた凜々しい表情からは何も読み取れない。
 あえなく交渉が決裂し、諦めがついた俺は、右のポケットから携帯を取り出す。何と言い逃れしたものか。
「朝日」
 呼びかけに対し、こちらを一度も見ること無く、風に揺れる横髪を耳に掛ける。
「何?」
 静かな声だった。半端な事を言えば今にも怒り出しそうな気配だったが、喉元までつっかえた言葉はもう引き返せない。
「友達には、イトコってことにしとくから、口裏合わせてくれよな」
 これが朝日の懸案事項に引っかかった。朝日は眉間にしわを寄せ、俺の目を鋭く見つめた。
「私は優理のイトコじゃない」
 力強い言い方をされ、少し腰が引けた俺は、
「じゃあ、何て紹介すりゃいいんだ」
 と、頼りない口調で教えを請う。
「現在同棲中の、雨弥朝日さんですって言えばいい」
 そんなざっくばらんな解決方法では、世の中やっていけないだろう。すぐさま反論した。
「ただれた関係だと思われたらどうするんだよ」
「一緒に暮らしてるだけでそんな風に考える、卑猥な思考回路の相手が悪いの。清らかな関係なんだから、嘘はつかずに堂々としていなきゃ」
 確かに正論だが、こんな奴にこそ菊池寛の形を読ませてやりたい。
「世間体くらい気にしろっての……」
 そう言うと、朝日は鋭い目線をそのままに、不敵に笑った。冷笑だ。
「大丈夫、今に全てが気にならなくなる」
 少し余韻が残る言い方が気になったが、常識から考えて、やはり世間体は大切なはずだ。こんな分からず屋から了承を得られなくても、俺は常識に従って行動できる。
 携帯を取った。ラインのアプリを開く。
藤代優理「すまん中島、もう一人連れて行ってもいいか?」
 数秒して、中島が返事を返す。
中島@華麗なる男爵「いいけど、誰?」
藤代優理「イトコ。こっち来る用事があって、ついでにウチに遊びに来てんだ。お前んとこ行くって言ったら連れてけってうるさくてな、頼むよ。」
中島@華麗なる男爵「了解♪」
 中島からは快諾を得た。アイツの家は駅から徒歩十分ほど、具体的には駅の北口から北東へ一キロの地点にそびえ立つ御影山の麓、巨大な鳥居を構えた清流神社だ。
 連れて行く人間が女だと知ったら、中島には少なからず冷やかされるだろう。それが安易に想像できるから、道中の足取りは重たくて仕方なかった。そんな事はつゆ知らず、朝日は鼻歌交じりに手をブラブラさせて軽快に歩く。いつも対照的な二人の息が合うのはいつ頃になるか、それは誰にも分からないが、歩幅の大きい男がノロノロと、小さい女がハキハキ歩くから、足並みだけは揃っていた。
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