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魔弾の射手1
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歩調のズレた奇妙な二人は、何事も無く清流神社に同着。刺すような日光に晒され、中のシャツが少し湿っぽくなった気がする。さすがに朝日も汗が頬をつたっていた。十分少々でこのざまだから、外気の温度が如実に伝わるかと思う。
「アチぃ……、猛暑日に外に出るもんじゃないな」
仰々しい程大きな鳥居を目の前にして、額の汗を拭った。
朝日は鳥居に興味があるのか、近寄って支柱を手で擦っている。
「塗装が剥がれてる。木製なのに大変」
(……強打した俺の背中の心配はしないくせに、鳥居の心配はするのか)
心中でツッコミを入れていると、朝日はこちらに目を向けた。
「この神社は経営難にでも陥っているの?」
「さぁ? でもこの神社の息子は良く塗装してるよ、自分の車のな」
朝日は小難しそうな顔で腕を組んだ。
「後で説教ね」
(……俺の説教は拒絶するくせに、他人にはするのか)
色々とご都合主義的な一面を持つ御仁は、勇み足で参道へと向かった。
「先々行くなって……、ったく」
参道をしばらく行くと、左手に手水舎が見えた。朝日は見つけてすぐに駆けて行って、清水で喉を潤した。柄杓に口を当てて喉を鳴らすのは本来無礼にあたるが、女の唇から滴り落ちる雫が日差しにきらめくのを見せられては、反射的に唾を飲み込んでしまう。
柄杓は一つしか無い。順番を待ってられずに、手ですくって飲もうと水の中に両手を入れた時、朝日は飲みさしの水が入った柄杓の先を俺の眼前に差し出した。
「はい」
気を遣っているらしい。
「いいよ、手ですくって飲むから」
「いいから、いいから」
朝日は遠慮なしに柄杓の先を俺の口に押し当てる。
「ちょ、まっ、あっ―」
人の飲んだ水は何となく飲みたくないからと、柄の部分を乱暴に掴んだせいで先端が暴れ、中の飲み水が全て顔にかかってしまった。
「アハハっ!」
朝日に指を差されて笑われる。変わらぬ不幸体質。
(もう帰りたくなってきた……)
目的地に着いてものの数分で帰宅を切望していた、その時。
「何いちゃついてんの、お前ら」
いきなり背後から第三者に話しかけられ、思わずビクついた。
「中島っ! いつの間に……」
振り返れば、意味も無く神妙な面持ちの中島が、私服姿で立っていた。手には竹で出来た箒が握られている。社の周囲を掃除していたらしい。
中島は朝日を熱心に見つめて、こう言った。
「そうか……、君が……」
俺はとっさに割って入った。
「あぁ、そうなんだ、さっき連絡した俺のイトコだ」
「ちょっと、優―」
俺はすかさず朝日の口を手で塞ぎ、小さく耳打ちした。
「今日だけはイトコでいてくれ、頼む」
しばらくの擦った揉んだの末―
「―初めまして、優理のイトコの雨弥朝日です。本日は大変お日柄も良ろしく……」
ひどく無愛想に、わざとらしい程の硬い挨拶をし始める。相当イトコの設定が気にくわないらしい。ま、ともあれ、これで第一関門突破。こうなると中島の反応が気になる。
朝日の堅苦しい挨拶を最後まで聞いた後、中島は表情を対女性用スマイルへと切り替え、すかした自己紹介を始めた。
「私、中島洋平と申します。この清流神社の宮司、中島裕一郎の一人息子で、藤代君とは大学の同級生、世に言う、御学友というやつです。本日は出迎えが遅れて申し訳ない。雨弥さんのような美麗で高潔な方が我が社においでになるなら、あらかじめ参道にレッドカーペットでも敷いてお待ちしておくべきでした……」
さすが男爵を名乗るだけある。冗談を交えつつ、さり気に容姿を褒めておくスタイルは中島の常套手段で、これは相手が女の時にこそ真価を発揮する。
「ふふ、お上手ね。でも神社にレッドカーペットは無粋じゃなくて?」
「あっ、いやぁー、鋭い! このハイレベルなジョークに素早く正確な指摘をなさるなんて、実に知的だ。素晴らしい。これ程聡明な方は、やはり丁重にもてなさなくてはなりますまい。ささっ、どうぞこちらへ」
中島に連れられて、俺達二人は境内へ案内された。拝殿の手前まで来て、朝日は軽く握った右こぶしで俺の横腹を小さく突ついた。朝日は得意そうな表情とともに、小声で、
「美麗で高潔」
と言って、立てた親指で己を差した。前を行く中島には聞こえていなかった。おい、中島、お前が変なおだて方するから、ウチの使用人がうぬぼれちまったぞ、どうしてくれる。
俺は同じく控えめなトーンで、
「お世辞に決まってるだろ」
と諫めた。朝日は一瞬しょげて、うつむいて、もう一度俺の横腹を突ついた。
「アチぃ……、猛暑日に外に出るもんじゃないな」
仰々しい程大きな鳥居を目の前にして、額の汗を拭った。
朝日は鳥居に興味があるのか、近寄って支柱を手で擦っている。
「塗装が剥がれてる。木製なのに大変」
(……強打した俺の背中の心配はしないくせに、鳥居の心配はするのか)
心中でツッコミを入れていると、朝日はこちらに目を向けた。
「この神社は経営難にでも陥っているの?」
「さぁ? でもこの神社の息子は良く塗装してるよ、自分の車のな」
朝日は小難しそうな顔で腕を組んだ。
「後で説教ね」
(……俺の説教は拒絶するくせに、他人にはするのか)
色々とご都合主義的な一面を持つ御仁は、勇み足で参道へと向かった。
「先々行くなって……、ったく」
参道をしばらく行くと、左手に手水舎が見えた。朝日は見つけてすぐに駆けて行って、清水で喉を潤した。柄杓に口を当てて喉を鳴らすのは本来無礼にあたるが、女の唇から滴り落ちる雫が日差しにきらめくのを見せられては、反射的に唾を飲み込んでしまう。
柄杓は一つしか無い。順番を待ってられずに、手ですくって飲もうと水の中に両手を入れた時、朝日は飲みさしの水が入った柄杓の先を俺の眼前に差し出した。
「はい」
気を遣っているらしい。
「いいよ、手ですくって飲むから」
「いいから、いいから」
朝日は遠慮なしに柄杓の先を俺の口に押し当てる。
「ちょ、まっ、あっ―」
人の飲んだ水は何となく飲みたくないからと、柄の部分を乱暴に掴んだせいで先端が暴れ、中の飲み水が全て顔にかかってしまった。
「アハハっ!」
朝日に指を差されて笑われる。変わらぬ不幸体質。
(もう帰りたくなってきた……)
目的地に着いてものの数分で帰宅を切望していた、その時。
「何いちゃついてんの、お前ら」
いきなり背後から第三者に話しかけられ、思わずビクついた。
「中島っ! いつの間に……」
振り返れば、意味も無く神妙な面持ちの中島が、私服姿で立っていた。手には竹で出来た箒が握られている。社の周囲を掃除していたらしい。
中島は朝日を熱心に見つめて、こう言った。
「そうか……、君が……」
俺はとっさに割って入った。
「あぁ、そうなんだ、さっき連絡した俺のイトコだ」
「ちょっと、優―」
俺はすかさず朝日の口を手で塞ぎ、小さく耳打ちした。
「今日だけはイトコでいてくれ、頼む」
しばらくの擦った揉んだの末―
「―初めまして、優理のイトコの雨弥朝日です。本日は大変お日柄も良ろしく……」
ひどく無愛想に、わざとらしい程の硬い挨拶をし始める。相当イトコの設定が気にくわないらしい。ま、ともあれ、これで第一関門突破。こうなると中島の反応が気になる。
朝日の堅苦しい挨拶を最後まで聞いた後、中島は表情を対女性用スマイルへと切り替え、すかした自己紹介を始めた。
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さすが男爵を名乗るだけある。冗談を交えつつ、さり気に容姿を褒めておくスタイルは中島の常套手段で、これは相手が女の時にこそ真価を発揮する。
「ふふ、お上手ね。でも神社にレッドカーペットは無粋じゃなくて?」
「あっ、いやぁー、鋭い! このハイレベルなジョークに素早く正確な指摘をなさるなんて、実に知的だ。素晴らしい。これ程聡明な方は、やはり丁重にもてなさなくてはなりますまい。ささっ、どうぞこちらへ」
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