Sunrise Devil in the rain

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魔弾の射手2

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 拝殿の横の細い脇道は神職と宮司専用で、そこを入って奥へ進むと茶色の扉がある。これが中島家の玄関である。靴を脱いで家に上がると、中島はすぐに左手のガラス戸を開け、その先へ進んだ。一般の住居には無い立派な回廊が見えた。中庭の池を眺めながらその回廊を巡る。
 過去に数回来ているから知っているが、奥から二番目の部屋はリビングで、一番奥の部屋が中島の部屋だ。回廊に連なる全ての部屋は見事なまでに障子張りで、初めての来客はどこに入ればいいか分からず戸惑うかも知れないが、中島の部屋、つまり子供部屋の位置だけは初見でも見抜けるようになっている。そこだけ障子が穴だらけだ。
「はい、到着!」
 中島は障子の戸を勢い良く開き、中のリビングに置かれた食卓椅子に掛けるよう指示した。
「今お茶入れるから、楽にしてくれ」
 この家に来ると毎回、内装に関して不思議な感覚を覚える。左手には薄型のテレビが一台、その手前に三人掛けの白いソファがある。その横で目まぐるしく回転する扇風機や、窓際に置かれた小台の上には親機と子機、家族写真が収められた写真立てが見える。右手には台所、目の前には食器棚と冷蔵庫。まさしく一般家庭のリビングそのものだ。外装が神社なだけにギャップが強いのか、いまいち慣れない。
 麦茶が注がれたグラスには氷が目一杯入っていて、それはテーブルに置かれるとカラカラと音を鳴らした。
「はい、どーぞ」
 俺は受け取ってすぐに喉へ流し込む。よく冷えた麦茶は乾いた体内をすみやかに潤した。
「うまい、もう一杯」
 追加注文に中島は笑顔で応えた。何だったか、そんなに喉が渇いていたのか、というような事を言っていた気がする。
 朝日はすでに手水舎で冷水を気が済むまで飲んでいたから、一口飲んで、後は無言で待機している。相手から話し出すのを待つスタンスなのだろうか。
 二杯目もグラスの底を持ち上げて、勢い良く飲み込んだ。残るは氷だけとなったグラスを手元に置くと、再び氷と氷、あるいはグラスと氷がぶつかり合う音が響く。麦茶という緩衝液がない分、先程より乾いた音だった。
 その音を最後に、中島家のリビングは扇風機のファンが風を切る以外の音を失った。俺の前に座った中島は、食卓の上で頬杖を突いて如才なく微笑むばかりで何にも言わないし、隣女は他人の家が珍しいのかリビングの中を見回すのに夢中だ。俺から言うことは特に無い。
 ひとしきりニヤついた中島は、腕を深々と組んでからようやく一言。
「一万円の元は取れたな」
 えらく満足そうな顔をしている。返済の義務が無くなったようで、こちらとしては有り難い。
「良かったな」
 俺がそう言うと、
「一万円って何の話?」
 と聞く奴があるから、何でも無い、こっちの話だと誤魔化した。
「雨弥さんって、今おいくつなんですか」
「十九歳、あと、ため口で良いし、私のことは朝日って呼んで」
「了解! じゃ、俺達同い年なんだ。朝日ちゃん大人っぽいから、二つくらい上かと思ってた。あ、俺のことは洋ちゃんでいいから」
 中島は女友達全員にこの呼び名を浸透させることで、知らぬ間に親近感を持たせることに成功している。この手口でまずは相手の女の心を開かせるのだと彼は常々言っている。
「洋ちゃんかぁ……、フレンドリーでいいね」
 やはり好印象なのか、朝日の表情が和らいだ。俺が他の女に優ちゃんと呼ばせてもこうはならない。天然ジゴロでなくては理解し得ないコツでもあるのだろうか。例えば、特徴的な身振り手振りや、相手を安心させる表情の作り方とか……
 それからというものの、中島は話の主導権を握ったように饒舌に、言葉巧みに俺と朝日の関係性について情報を聞き出そうとした。それはもう慣れた感じで、詐欺師のやり口に似ていた。どことなく早口で、抑揚の効いた話し方だ。それは、聞いている者をいつの間にか絡め取る。

 ―俺はおかしくてたまらなかった。笑いをこらえるのに必死で、口角が引きつっていた。中島の顔色が徐々に悪くなっていくのが愉快で、俺はあえて何も口出しせず、傍観者を決め込んでいた。上手い、中島は上手く話せている、それは俺も認める。だが、どれ程きわどい質問を投げかけても狙った返事が返ってこない、巧妙な会話のチェンジオブペースにもつられない。いつもと勝手が違うことに次第に気付いていくと、人はそういう顔になってしまう。歯がゆさにいつまで耐えられるかという事になってしまう。
 俺は大学内において、中島の語りにほだされない女を見たことが無い。勉強はからっきしだが、実はしたたかな面を持ち合わせていて、特に女との会話という点で天性のものがある。中島はそれを自覚しているし、決して馬鹿じゃない。現に人脈は広いし、素敵な彼女だっている。そんな中島が手玉に取られている姿は、中々見られるものではない。
 実際には、以下のような事が起こっていた。中島は自分のペースで会話を進めようと躍起になっていて、一生懸命話しかけた。朝日はちゃんと答えていたが、会話のペースには、わずかなズレが生じていた。会話が長引くほどそのズレは目立ち、滑稽な感じが際立った。
 ズレの原因は単に、朝日も自分のペースで話していたという事に尽きる。中島のノリにただの一度も乗せられずに、朝日は淡々と一定のリズムを守って話していた。それは相手のノリに合わせる気が一切ないことを意味していて、それが実に大胆不敵というか、一歩間違えたら失礼な具合にふてぶてしい。空気を読もうとか、周りに合わせようとか、そんな概念がまるで無いこの感じは、文化が全く違う異国の人を思わせる。
 話が一段落したところで、中島は長いため息を吐いた。朝日は破綻のない嘘しかつかないから、揚げ足すら取らせてくれない。これ以上話していても無駄だと悟ったのだ。
「さーて、……そろそろ、ゲームでもやりますか」
 あきらめ顔の中島は一旦伸びをして、それから立ち上がった。
「冷蔵庫に入ってる飲み物は好きに飲んでくれ。ゲームに飽きたら本棚から漫画でも引っ張り出して好きなだけ読めばいい。だが、まず初めはゲームをやる、それもサバゲーだ」
「なぜにサバゲー……」
 女性なんかは、人がバンバン死ぬのが苦手なのではないかと案じたが、
「全然大丈夫」
 朝日はこのように言う。積極的に反対する者がいないので、サバイバルゲームで決定。
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