Sunrise Devil in the rain

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望月教授2

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 ―小一時間ほど話していた。突然の出会いから不可解な別れまで、出来るだけ詳細に教授へ伝えた。教授は最初にいくつか質問しただけで、後は一言も口にせず、静聴した。俺が最後まで話し終えると、彼は重たい口調で語り始めた。話の内容は、俺にとって信じがたい、信じたくないものだった。
 初めに知らされたのは、悪魔の種類と特徴だった。大きく二種類が存在し、人の精神に寄生するタイプと、独立し実体を持つタイプに分かれる。朝日の場合は後者で、俺の話から、教授の探していた悪魔で間違いないらしい。このタイプの悪魔は、実体化できるだけあって、かなり高位な存在であり、転生を繰り返し、時代をまたいで存在する。特徴としては、高い知性と洞察力、人並み外れた身体能力が挙げられるが、しかし最も注目すべき点は見た目だと教授は念を押した。世間がイメージする醜い悪魔の姿は大昔の人々が抱いた畏怖の表れであり、本当は、実に人間らしいのだと。
 次は、悪魔の生命線について。つまり、悪魔のエネルギー源は何なのかという話だが、これを聞かされたときは心底意外だった。―それは人間の愛情、何物にも代えられない、悪魔にとってほとんど唯一の栄養。しかし悪魔は昔から忌み嫌われ、人から愛を受けるのが極めて困難だった。だから、一部の例外を除いて、ほぼ全てが死滅してしまったというのが現状らしい。エクソシストは、残党処理を主として活動している。
 最後に、朝日について。独立実体型の悪魔の中でも彼女は異質な立場にあり、ある特別な能力を備えていて、それが厄介だから始末しに来たと教授は言った。その能力を端的に言えば、「人の心を操る」というものだ。この事実を告げた途端、教授の口振りが変わった。
「君はその雨弥朝日と名乗る女と同棲していたんだろう?」
「……はい」
「なぜ?」
「なぜって……」
「君とは何の関係もない赤の他人のために身を粉にして働き続け、ギリギリの生活で養おうとしたのはなぜだ」
 彼女が俺と過ごす必要が無いのと同じくらい、俺が彼女を養う義務も義理も実は無かった、それはさっき自分から説明したし、すでに認めてる。その上できちんと言い訳したじゃないか、一緒に暮らす内に、ちょっと情が移ったって―
「君は心を操られていたんだ、具体的には……」
「……君が彼女に惚れ込むように」
 とっさに否定した。
「―そんなことあり得ない!」
 エクソシストは捨てられた子犬を見るような温かい眼差しを向けた。
「否定したい気持ちも分かる。過去の文献にも君のような人物がよく記述されていた。心を操られ、偽りの愛に踊らされた、可哀想なマリオネット。彼らは皆、口を揃えて同じ事を言った。私の愛は本物だ、嘘なんかじゃないって、もう必死さ」
 教授の言葉に、眼差しに、心が揺らいだ。思考の遙か先を射貫かれて、何が俺を動揺させているのかまだ分からなかったが、とにかく落ち着きを失った。一過性の怒りが視線を鋭利にして、眉間に力が入った。
「君の話を聞いていると、彼女が徐々に力を取り戻していったのが分かる。君だって実際に見たはずだ、彼女が快方に向かっていく姿を。体調が回復していく割に少食だったのは、すでに君から受ける愛情で満たされていたからだろう。そもそも食事を取る必要もさほど無かっただろうが、とりあえず君に怪しまれない程度に食べていた、そんなところだ」
「もっと言おうか? 彼女が仲良くなりたいなどと君に言ったのは当然のことなんだ。それは、君とより親密な関係になることで、さらなる愛情を得ようとする悪魔の性に過ぎない」
 言われたい放題だった。聞けば聞くほど、俺が疑問に思っていたことが、教授による別解釈で丁寧に紐解かれていく。認めたくない方向へ、あらゆる辻褄が合ってしまう。
「君から聞く当時の様子から言って、翼が生えたのは想定外だったみたいだな。思っていたより多くの愛情を受けて、力がコントロール出来なくなったと考えるのが妥当か……。まぁ、君が無事だったのは不幸中の幸いだ。正体を知ってしまうと、その場で殺されることもある。君の思うよりずっと危ない状況だったんだ」
 膝の上で握っていた拳は、微かに震えていた。怒りは過ぎ去って、虚脱感が残った。
放心する俺を見かね、教授は連絡先を書いたメモを手渡した。
「君はまだ彼女の帰るべき巣としてみなされているかもしれない。次の巣に移っていれば良いんだが、どうも嫌な予感がする。身に危険が迫るような事があれば、私に連絡をくれ」
 今日はもう遅いからと、駅まで車で送ってもらって、そして今、改札を抜けた。地に足が付いていない感じがして、点字ブロックを踏みつけてみる。靴底が突起の感触を鈍らせて、もどかしい、実感が無い。
 たかが数ヶ月、だが俺にとっては大切な数ヶ月。彼女は知らないうちにそばにいて、色んな事を教えてくれた。旅に誘い出して、新しい光景を見せた。少し強引だったけど、停滞していた人生が、ちょっと前に進んだ気がした。言わなかったけど、うれしかった。本当なんだ……

 ―彼女に抱いた感情、芽吹きつつあった新たな気持ちを、「疑惑」という名の煙が取り巻いていた。弱気な自分に自信が持てなかった。
「俺の気持ちは、全部嘘だったのか……?」
 誰にも聞こえない泣き言は、駅のホーム、小雨で湿ったアスファルトに吸われて消えた。

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