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本編
楽しませろよ?
しおりを挟む…痛い。バカが。やるなら徹底しろよ。
内心毒づきながら、白米とサバの煮付けを食べる。
うん、今日も美味い。―でも、口ん中が痛ぇのがな…残念だ。美味いけど痛いんだよ。
あのバカも後で締める。あ~、やっぱ面倒臭ぇな。雑魚は放っとくか。
よほど親衛隊の鬱憤が溜まっていたのか、昨日の制裁はリンチだった。
こっちはストレス溜まりまくりだっつの。将来俺が禿げたら、どうしてくれんだ。
…そん時は、全員ハゲにしてやる。
ま、それはともかく。
いつもは小賢しく服の下―見えないところ―を殴られたり蹴られたりするんだが、今回は顔もやられた。腫れるほどじゃねぇけどな。ただ、口の中は切っちまった。
…せっかくの美味しい食事が、台無しだ。
イライラする。
学園の人気者―人気者、なぁ…俺は好きじゃない。個人的には人気者(笑)だ―の奴も、制裁してくる親衛隊のチワワも、それに荷担するゴリラも、うぜぇしムカつく。
言うまでもなく、あいつ…諸悪の根源が一番だけどな。
つーか、親衛隊の奴らはチワワとか言われてるけど、そんな可愛い生き物じゃねぇ。犬に謝れ。誰だよ、最初にチワワとか言い出したやつ。
…ん?もしかして、きゃんきゃん喚いてるからか…?なら納得だな。俺は犬は好きだが、バカ犬は好きじゃねぇんだ。可愛げのある駄犬なら、まだ良いんだけどな。
『きゃあああああ!!!』
『うぉおおおお!!!』
お気に入りのサバ煮定食を食べていると、食堂内に歓声が響き渡った。
うっせぇ!!
未だに響く、甲高い声と野太い声。
くそ、耳が痛ぇ…。
あくまで無表情のまま、味噌汁を飲む。
…美味い。
ここのシェフ、欲しいな。将来雇いたい。引き抜くか。
俺の夢は自分の会社立ち上げて、興味あること、したいことを、とことん突き詰めることだ。
実力は十分ある。資金もある。各分野のお偉いさんとも大体面識あって、かつ仲良くしてもらってる。コネも後ろ楯もバッチリだ。足りないのは経験くらいか。
言っとくけど、実力云々は自惚れじゃねぇよ?
有難いことに、スペシャリストたちが直々に太鼓判を捺してくれたからな。
資金は株で稼いだ貯金。
それと、お偉いさんたちが投資してくれるそうだ。
自惚れじゃねぇだろ…?
こうなるまで、全身全霊で尽力してきた。
―実力を身に付けることも、お偉いさんに認められることも、長い時間をかけてした、下積みの苦労と弛み無い努力が実ったんだ。
それなのに、なあ?邪魔しやがって…。
遠くの姿を横目で見る。それから、さりげなく視線を逸らす。気付かれない為だ。
わざわざ睨み付けて、殺気を飛ばすような真似はしない。
…バカが、バカ引き連れてきた。
汁椀で口元を隠し、嘲笑を浮かべる。
今この場にいる人間と監視カメラの位置は正確に把握している。俺の顔は、どの角度からも見えない。
ちなみに、学園内の監視カメラの位置は―隠されているものも含めて―全て把握済みだ。
「生徒会の皆様、今日も麗しい!!」
「お美しい…」
「素敵!」
「カッコいいっ!」
「でも、あいつが邪魔!」
「ホント何なの、あの毬藻!」
「身の程を知れ!」
「モジャモジャの分際で!」
「消えろ!」
煩い歓声と口汚い罵倒をBGMに、食事を続ける。
口の悪さは人のことを言えないが、お前ら静かにしろよ。食事中だぞ。
―俺の存在に気付くことなく、諸悪の根源と取り巻きが食堂の二階に向かう。
まあ、普通にしてて、気付けるわけがないんだけどな。
奴らがいつも通る道筋の死角に座ってんだから。しかも、生徒の後ろに隠れる形で。
俺を見付けようと思ったら、周囲に気を配らないと駄目だ。
不可能ではない。本気で隠れてるわけでも、気配を消してるわけでもないからな。
冷静に注意深く周りを観察すれば、見付けられる。
…それが出来る人間は、あの中にはいないけど。
諸悪の根源は言わずもがな、取り巻き連中も大したことないし。
―ああ、違うか。
今の、取り巻き連中は…だな。
進藤に惚れた人気者の中には、生徒会の人間もいる。
生徒会役員は、全校生徒の投票で選ばれるんだ。ここでも家柄と容姿が重視される。とはいえ、ある程度優秀でないと無理だ。
生徒会は様々な特権を与えられる。代わりに、学園の運営を任されている。無能には務まらない仕事なんだ。
だが…恋に落ちた生徒会役員は、唯一の務めである仕事を放棄した。
今は風紀が肩代わりしているみたいだが、このまま続くようなら、リコールも時間の問題だろう。
…落ちぶれたもんだ。
空になった汁椀をトレーに乗せる。
バカどもの姿が消えたのを確認して、席を立つ。
食器を乗せたトレーをカウンターに運ぶ。
これもウェイターの仕事ではあるが、全員分は大変だろう。運ぶ人間は少ないらしいが。
…全く。自分の使った食器くらい、自分で運べよ。
こうやって甘やかすから、金持ちのお坊っちゃんは我が儘な甘ったれに育つんだ。
勿論、一部は違うけどな。
「ご馳走様でした」
トレーをカウンターに置いて、厨房へ一言告げる。
食堂は騒がしいし、厨房の中は慌ただしいから聞こえていないだろう。だとしても、関係ない。礼を尽くすのは当然だ。
食器を返却した俺は、踵を返して、出口に向かう。
通り過ぎる際、二階をちらりと一瞥する。
…ま、ムカつくけど、暇潰しにはちょうどいいか。
せいぜい、俺を楽しませろよ?
―ほんの一瞬口角を上げ、再び無表情になると、奏はその場を立ち去った。
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