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本編
無害な男
しおりを挟む食堂を出た俺は、裏庭を抜けた先の噴水がある場所に来た。
…ん?先客がいるな。
大きな噴水の近くには、ベンチが設置してある。そこに、誰か座っていた。
俺のお気に入りの場所だ。
意外と穴場で、滅多に人はこない。時々、いちゃつくカップルがいるくらいだ。
先客がいる場合、気付かれる前に引き返すんだが…。
「……」
勘が良いのだろう、すぐ気付かれた。
「「……」」
沈黙したまま、数秒見つめ合う。
「……」
そいつは、興味なさそうに、俺から視線を逸らした。
実際、興味ないだろうな。俺もない。
「……」
そして、噴水をぼんやりと眺めている。
…どうでもいいけど、今日はいなかった。ここにいたからか。
目の前にいる男を観察する。
そういえば、ちゃんと認識するのは初めてだ。
背が高く体格がいい。
―確か、実家は由緒正しい武道の名家で、一通りの武道は嗜んでいる、だったか。
男らしく整った顔立ち。
―なるほど、きゃあきゃあ騒がれるはずだな。
それと、
「……」
人見知り。
―気まずそうにしてる。無表情だけど、分かりやすいな。
…俺はここに用がある。この男はどうなんだろう。
生徒会書記。名前は叶 湊(かのう みなと)。人嫌いってのは聞いたことないから、ただの人見知りだろう。
進藤信者の一人だ。
他の奴らに比べて、何もしてこない。叶も親衛隊も。無害な男だが、バカに惚れてる時点で、俺の中ではアウトだ。
この時間、信者たちはまだ食堂にいる。進藤が大食いだからだ。
…いつも加わってるのに、どうして、ここにいる?
不意に、温もりを感じた。
「にゃあ~」
俺の足元に黒猫がじゃれついていた。甘えた声で鳴きながら、小さな身体を押し付けてくる。
思わず頬が緩む。
「ブラック」
そっと抱き上げる。
「にゃあ」
黒猫―ブラックは一声鳴くと、俺の首筋に頭を擦り寄せてきた。俺は微笑んだまま、背中を撫でる。
…ああ、癒やされる。可愛い。
少しの間好きにさせて、地面に下ろす。
持参してきた餌を置くと、大人しく食べ始めた。
…見ているだけでも癒やされるな。可愛い。ブラック可愛い。
俺は、動物が好きなんだ。特に犬が大好きだ。
動物の中で犬が一番なのは、昔飼っていたから。
猫は二番目に好き。
一途な犬と気まぐれな猫…犬猫論争(どちらが一番可愛いか)は永遠に終わらないだろうな。
どっちが可愛いじゃなくて、どっちも可愛いで良いと思う。…犬派の俺が言っても、説得力ないか。
「……」
食事の邪魔をしないよう、静かに見つめていたら、視線を感じた。
ブラックが来て、ずっと見られてる。
「……」
…書記、こっち見んな。
「……」
…なんか言えよ。無言やめろ。
「……」
…何なんだ。
「……」
…何がしたい?もしくは、何をしてほしいんだよ。
「「……」」
お互い黙っていると、ブラックが食べ終わった。
「にゃ~」
ブラックを抱き抱えて、ベンチに座る。
書記もいるが、ここのベンチはどれも長くて大きい。距離あるし、大丈夫だろ。
「…ブラック」
俺の膝上で丸くなっている愛猫の頭を、額を、顎回り・首回りを、背中を、優しく撫でる。顎回りは、掻いてあげるのも忘れない。
ブラックは喉をゴロゴロと鳴らして、手に擦り寄ってくる。よほど気持ちいいのか、目を細めていた。
…可愛い。ホント可愛い。
今日だけで何回可愛いと思ったのか。馬鹿の一つ覚えみたいだ。…でも、仕方ない。可愛いんだから。
「……」
…俺の邪魔をしたいのだろうか?
ブラックと癒しの一時を無言の視線で邪魔されている。
テンションが下がりつつ、仕方なく書記を見た。睨み付けるのは我慢して。
「何ですか?」
…いい加減うぜぇんだよ、その視線。
「……」
書記の身体はびくっと震え、戸惑ったように目が泳いだ。
「俺に何かご用でも?」
柔らかい雰囲気で、優しい声で、穏やかに微笑みかける。
猫を被っている時の俺は、死ぬほど気持ち悪い…が、人見知りの書記には、この方がいいだろう。
「……猫」
ほら。安心した顔になって、言葉を発したぞ。…単語だけど。
「気になりますか?」
「……」
俺とブラックを交互に見た後、こくりと頷いた。…子供みたいだな。
「……好き」
「俺も猫好きです。可愛いですよね」
「……」
書記は何度も頷いている。
「…触ってみますか?」
「!…触る」
あ。目が輝いた。
ブラックは、なかなか人に懐かない。
…まあ、猫好きな人間は引っ掻かれないと思う。多分。
「……」
恐る恐る手を伸ばす書記。ブラックは俺の膝から動かずに、書記のことをじっと見ている。
そして、
「……」
ゆっくり背中を撫でた。
…引っ掻かれたり、猫パンチされなくて、良かったな。
それらを容赦なくされた人間を、俺は見たことがある。どうやら、書記は平気のようだ。
「……」
…なんか、嬉しそうだな。
嬉しそうな顔でブラックを触る書記を見ていると、目が合った。
「…ブラックは、人の好き嫌いが激しいんですけど、叶先輩は大丈夫みたいです」
「……」
…凄い嬉しそう。
「良かったですね」
「……うん」
こくん、と大きく頷いた。
…なんか、いや、気のせいか。
「……」
で、今度は何でこっち見てんだ。
ああ、抱っこしたいのか?…でも、それはまだ難しいと思うぞ。
「…抱っこはまだ難しいと思います」
「……」
分かりやすいな。落ち込んだ。
しゅん、としている。
…悲しそう。
「?」
お。驚いてる。…俺も驚いてるけど。
気付いたら、項垂れて、目の前にある頭を撫でていた。
…意外と撫で心地いいな。
「…すみません」
何で、こんなことしたんだ。いや、理由は分かってる。しゅんとしてる姿が、犬みたいだったからだ。―項垂れてるのに放置したら可哀相だろ。
すぐに手を退けると、何故か手首を掴まれた。
「……」
怒ったのか。…そうだよな。後輩に―しかも、そこまで親しくない―いきなり頭を撫でられたら不快だ。
だから謝ったんだが。
何だ。一発殴らせろってことか?
「……もっと」
「はい?」
「…もっと」
…もっと撫でろと?
「……」
試しに撫でてみると、ちょっと笑った。
…嬉しそうだな。
とりあえず、手を放せ。
「手を放してくれませんか?」
「……ごめん」
「いえ」
…頭撫でられるの好きなのか?嬉しそうに笑ってるし。
つーか、ほんと撫で心地いいな。
それにしても…。
いつまで、俺は撫でたらいいんだ。
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