14 / 51
本編
態とだったのか
しおりを挟む[触り心地が良く軟らかい髪、知性的な美しい瞳、雪のように白い肌…。奏は響に似ているな。特に、灰色の髪と瞳が]
髪と、瞳と、肌…。
父さんが、綺麗だと褒めてくれたのは、好きだと言ってくれたのは、母さんと同じところ。
髪は染めてないし、カラコン(カラーコンタクトレンズ)もしてない。
ただ…。
痣だらけになった肌は、白さより、他の色が目立つ。
…父さんは…これを見たら、どう思うだろう。
怒る?悲しむ?落胆する?
わからない。
俺にとって、父さんは大切な人だけど…俺に関しては、何を考えているのか、よく分からない。
心も、体も、遠い。
「…寒い…」
―温もりを分けてくれる人は、ここにはいない。
…副会長の真顔は初めて見たな。
胡散臭い笑顔、にこやかな顔、優しく微笑む顔、真剣な顔、困った顔、考え込んでいる顔、苦笑した顔、宥めている顔、心配した顔、苛立っている顔、不快そうな顔、見下した顔、嘲笑う顔、蔑むような顔…意外と色んな顔を見ていたらしい。
基本的に、俺に向けられるのは、悪意や敵意がある顔だが。
副会長の顔面バリエーションが一つ追加された。
が、それどころではない。
絶体絶命だ。…残念ながら、囲まれている。
逃げ場は後ろの教室だけ。
といっても、教室に入ったら出入口を塞がれて、結局捕まる。
ここは三階だから、窓から逃げることも出来ない。
…終了時間まで当分ある。
時間稼ぎをしたところで、無駄な足掻きにしかならない。
せめて、まともな人間に捕まりたいが…そうもいかないようだ。
副会長には好意的でも、俺には害意しかない。当然だな。俺達を囲んでるのは、親衛隊だから。
しかも、親衛隊の中で一番面倒な…過激派の連中だ。
会長と会計の親衛隊だな。こいつらの顔と名前は覚えている。俺に集団リンチの制裁をしてきた奴らだ。
身元だけでなく、その他の詳細も把握済みだが。
「…雪見くん、安心してください。制裁はさせませんから」
いや、安心できねぇよ。何言ってんだ。
小声で告げられた言葉に、つい胡乱げ(うろんげ)に見てしまうのは仕方ないだろう。
敵か中立かすら分からない相手を、簡単に信じられるわけがない。俺はそんなに純粋でも能天気でもない。
副会長の囁きに、一瞬気を取られた時―
ガラッ
ぽんっ
背後で扉が開く音、そして避ける間もなく、肩を叩かれた。
「捕まえた」
『………』
数秒、その場は静まり返り、
『えぇえぇーーっ!!?』
すぐに複数人の絶叫が響いた。
「副会長、すみませんでした」
「謝らなければいけないのは、こちらです。原因は僕ですから。すみません」
鬼に捕まったのは俺だが、追われている途中で副会長が躓いた(つまずいた)為、逃げるのが遅れて囲まれたのは事実だ。
…二日連続で走らされたら、誰でも疲れる。
だから、副会長のせいではないが…。
ーいや、そもそも新歓を鬼ごっこにしたのが失敗だな。たとえ体力がある人間でも、休みなく走り続けるのは厳しい。いくら進藤に頼まれたからとはいえ、捕まれば自分の首を絞めることになる。…何で実行したんだ、生徒会(湊除く)。
「…では…お互いに落ち度があったということで、この話は終わりにしませんか」
「そうですね。謝罪の応酬を繰り返すのは無意味ですし」
頷いた副会長が、「社(やしろ)くんは…」と言葉を続ける。
「雪見くんと一日付き合いたいと言っていましたが…断らなくても大丈夫ですか?」
「社の予定に一日付き合うくらい大丈夫です」
映画と買い物と食事、時間があればボーリングもしたいと言っていたな。
疲れそうではあるが、それくらいなら問題ない。
「…そうですか。無理強いされそうになったら、すぐに逃げてください。…彼は、その、個性的な人みたいですし」
社のことを変人と評するのは憚られた(はばかられた)のか、言葉を濁して、個性的と言った。
副会長も周囲と同じように認識しているらしい。
あいつが変人なのは間違ってないが…。
「振り回されることはあっても、無理強いされることはないですよ。…社は少し変わってますが、人の嫌がることはしないので」
基本的にはな。
…あいつ天然で自由人だから、時々やらかすんだよ。悪気なく、無自覚で。
質が悪いけど、仕方ない。そういう人間だ。いちいち怒ってたら、俺の方が疲れる。
「…社くんと仲が良いんですね。同室者だからでしょうか」
「…仲が良いと言うほどでは…普通だと思います」
三年も同室だから、気心の知れた相手ではある。
社の突飛な言動に、毒気を抜かれて、思わず素で接してから、隠し事はやめた。
…素顔…というより、全裸を見られて、隠すことはなくなった、というのが正しいが。
あの時は結構驚いた。タイミング悪く、風呂上がりに遭遇し、全裸の俺を見て、「雪見には兄がいたのか。いや、双子という可能性もあるな。あとは、従兄弟や再従兄弟か」とか言い出すし、それを否定したら、「雪見が男を連れ込んでいる…」と誤解するし、大変だった。
社は相手を自分のペースに取り込むのが上手い。本人は無意識で…いや、無意識だから、癇に障らない。
計算なのかと一時は疑ったが、良くも悪くも正直者だと知り、その線はなくなった。
…何で社のこと考えてんだ。天然野郎の話は終わり終わり。
「……ますね」
「? 何ですか?」
副会長が何か呟いたが、声が小さくて聞こえなかった。
「…いえ」
浮かない顔のまま、緩く首を振る副会長を怪訝に思いつつ、本題に入る。
「副会長、俺に話があるとお聞きしましたが」
「ええ。雪見くんは生徒会のリコールを防ぐ為に動いてくれているそうですね。まともに機能してない生徒会が解散するのは当然だと思いますが…何故手助けしてくれるのですか?」
「叶先輩がリコールしたくないと言ったので。心から反省している知り合いに、最後のチャンスが与えられて、自分が出来ることだったから、手伝っているだけです」
「僕を含めて、叶くん以外の役員が、生徒会に相応しくないとしても、ですか」
「相応しくなければ、リコールされて終わりです。…何の道(どのみち)、風紀委員会に負担を掛けたまま、叶先輩一人で続けることは不可能です」
「リコール回避の為には、風紀委員会から最低条件が出されたはずです」
「生徒会長か副会長に本来の務めを果たしてもらうことです。ー失礼を承知でお尋ねしますが、副会長は放棄した執務をする気はありますか?生徒会長は当てにならないので、副会長が無理なら、リコールを受け入れるしかないんです」
「本音を言うと、現生徒会はリコールした方が良いと思っています。一人の人間に心を奪われただけで、掻き乱され、責務を放棄するような人間の集まりでは、組織として機能しなくなるのは、既に証明されましたし」
「…他人事みたいに言ってますが、副会長もその一人ですよ」
「そうですね。ーけれど、僕はもう、茶番に付き合うつもりはありませんよ」
「取り巻きになっていたのは、態とですか」
副会長は態とだったのか。腹黒いだけでなく、演技派だな。
「僕は浅慮でしたが、物好きではありません。…僕が思いを寄せている方は、素敵な人です」
「そうですか。…現生徒会はリコールすべき、というお考えは、今後も変わりませんか?」
「リコールするのは、騒動が落ち着き次第ですね。今引き継いでも、次の方々が困るでしょう。…本当は、とっくにリコールされている予定でしたが、これ以上無責任なことはしたくありません」
どうやら、俺と湊が副会長の計画を潰したらしい。
あのまま何も行動しなければ、風紀は生徒会を新歓前にリコールする手筈だった、と咲哉さんが事も無げに言っていた。
当然だな。義務を果たさない人間に権利はない。それが特権なら尚更。
「雪見くん。この度はご迷惑とお手数をお掛けしました。申し訳ございません。それと、ありがとうございます」
「いえ」
「風紀委員会に謝罪と報告をします。…僕と一緒にいると、あらぬ疑いと火種を生むかもしれないので、お先にどうぞ」
話は終わった。
副会長の厚意に従い、生徒会室の扉へ向かう。
…ああ、そうだ。個人的に聞きたいことがあった。
「副会長。俺の正体を見破れたのは、何故ですか?」
普段の俺を見慣れている彼方が太鼓判を捺したほど、変装の出来は完璧だ。
俺がへまをしたのか?だとしたら、何時・何処で。
「三年前の音楽室で見掛けました」
三年前ーあの日か。
「休日の早朝です。今日みたいに、私服でピアノを弾いていました。ただ、音楽室を出る前に変装をして、寮ではなく正門の方向へ向かってましたよ」
…母さんの命日で、墓参りに行く前、今より少しはましにピアノが弾けたから、何曲か演奏して、迎えに来てくれた彼方の車に乗ったんだった。
俺は寮の自室と風呂に入る時以外では変装を解かない。
例外は、二回だけ。三年前と、今日。
運悪く見られたのか。
「雪見くん。変装のことは口外しません。理由も聞きません。…僕自身ではなく、何も起こらなかった三年を、信じてもらえませんか」
「副会長がお喋りではないと分かってます」
メリットがなければ、誰にも口外しないはずだ。
時と場合にもよるだろうが…。
と思ったが、真摯な目で俺を見つめる副会長に、考えを改めた。
「だから、その言葉を信じます」
今はまだ、副会長を信じることはできない。
だけど、誠実な人には、誠意を示したい。
聞きたいことも、言いたいことも、なくなった。
「お先に失礼します」
今度こそ、俺はその場を立ち去った。
これにて、本編(小説)は終了です。
次から、小説未満小ネタ以上の小話になります。
…碧(副会長)編は、あと一話で終わりなので、できれば更新したいと思っていますが…碧視点が意外と難しくて、なかなか書けません…。内容は決めているんですけど…。
さて。
次回から最後まで、ずっと小話なので、クオリティーは下がりますが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。
宜しくお願い致します。
21
あなたにおすすめの小説
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。
ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。
その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。
胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。
それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。
運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる