俺とお前、信者たち【本編完結済み/番外編更新中】

知世

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本編(小話)

奏と楓(交わる運命)

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―光の下へ連れ出される



乗り心地が良すぎて、逆に居心地が悪い、高級車で要を待つ奏

数分後、要が乗り、発進する

「済まない」

急に謝られ、何について?と首を傾げる奏(要は口下手。自分の気持ちを言葉にするのが苦手)

「奏が辛い目に遭っているのに、迎えに行くのが遅かったこと。嫌がるお前を、無理矢理連れ出してしまったこと。…響の通夜も葬式も行けなかったこと。他にもある。その全てだ。…済まなかった」

心の底から悔やんでいるのが分かる声音と表情に、奏は何も言えなくなる

…言いたいことも聞きたいことも沢山ある。…でも…この人が死ぬほど後悔してるのは分かるから…

「…もう終わったことです。気に病まないでください」

責めたり、できない

文句の一つくらい、言ってやりたかったのに

「済まない…」

…あそこは地獄だったけど、これから行くところも、きっと種類の違う地獄だ

でも、行かなきゃいけないなら、仕方ない

…理不尽には慣れた。虐げられることにも

大丈夫。俺には失うものは何もないんだから…

奏は諦めて、そっと目を閉じた

眠りに落ちる瞬間、父親(らしい人)にお願いをした。期待はしていないけど。言うだけならタダだ

「貴方がこれまでのことを本当に悪いと思っているなら…母さんの遺品…あいつらから取り戻してください…それ以外には、何も望みません」

「わかった。…奏、お前の望みは全て叶えよう」

「…手放してやれなくて、済まない…俺のエゴが、また誰かを傷付けるのだろうな…」

…わかっているのなら、諦めてください。人間、諦めが肝心ですよ

髪や頬に優しく触れる手を、煩わしいと思うのに、嬉しいとも思ってしまう

…たぶん、懐かしくて、恋しいんだ。こんな風に俺に触るのは、母さんしかいないから。それだけだ。…この人が父さんだなんて、俺は認めない…


目覚めた奏は、神楽の敷地内だと言われ、緊張する

しかし、敷地内だというのに…

…車で走行してるのに、全然家に辿り着かないんだが…

どれだけ広いんだ、ここは

要の妻子に会うのも緊張するのに、いつまでも見えない屋敷が恐ろしい…

雪見家も相当広かったけど…ここは桁違いというか、次元が違う…

到着して、いや、到着する前から見えていた、神楽の豪邸に気後れする奏

豪邸の扉の前には、ずらりと人が並び、出迎えられた

整列している大勢の中、二人だけ真ん中に姿勢よく立っている

綺麗な女性と、絶世の美少年がいた

…そっくり…

前を歩く父親の横顔と見比べて、もう一度思う

そっくりだ…。この子が、俺の異母弟か…

要の妻子は、優しげな笑みを浮かべ、待っていた

初顔合わせは何事もなく…というより、和やかに歓迎されて終わった

腹違いの弟にいたっては、兄さんができて嬉しい、仲良くして、と手を握られたので、驚いた

これが天使の微笑みか、と馬鹿な感想が浮かんでしまい、人知れず恥ずかしい思いをした

それから、奏は与えられた自室で、ゆっくり過ごした(響の遺品は、その日の夜にもらえた)

一緒の家に住んでいるだけで厚かましいのに、仲良くなんてできない…。紅葉さんも楓くんも優しいけど、気を遣わせているんだ…。申し訳ないな…

今すぐ逃げ出したい、でも手段がない。父さんは俺の望みを叶えると言ったのに、自立することだけは許してくれない

…父さんの話を聞いて(要と響の過去)、考えは少し変わったけど…。母さんを今でも愛していることは、よくわかったし、児童養護施設にいたら、神楽の祖父に引き取られて、雪見の二の舞になる可能性も理解してるけど…やっぱり、俺は父さんたちに甘えるべきじゃない。迷惑なんだ、俺の存在自体

…虚しい…

死にたい、な…


したいことも、することもなくなり、ぼんやりと生きる奏

要はともかく、紅葉と楓に優しくされればされるほど、居た堪れなくなった

…こんなに優しい人たちに、俺は迷惑しか掛けられない…生きてるだけで邪魔になる…今は良くても、何年か後には、きっと…

紅葉さんも楓くんも好き。優しくて、温かくて、穏やかで…俺は二人のことが大好きだ。…けど…だからこそ、関わらない方がいい

大好きな人を傷付けたくない、悲しませたくない。これ以上迷惑を掛けたくない、邪魔な存在になりたくない

好きなのに、一緒にはいられない

…好きの種類は違うけど、母さんもこんな気持ちだったのかな…


二人と距離を置く奏に、楓は何かと話し掛ける(紅葉は一人になりたいのかもしれない、と見守ることにした)

兄さん、兄さん、と無邪気に笑いかけてくる弟

何気ない日常のことも、食事や景色も、勉強や時勢についても、楓は様々な話題で奏と会話しようとした

いっそのこと嫌われたらいいんじゃないか、と思い始めていた奏は、相槌を打つものの、素っ気ない対応

それでもめげずに、楓は根気よく話し掛けた

楓は奏が迷惑に思うなら引き下がるつもりだったが、戸惑うだけで嫌がられてはいないので、全く諦めなかった

憂いているような、美しい顔を見て、どうか笑ってほしい、と願っていた

その為なら、普段は話さないような、下らないことでも奏には伝えた

心からじゃなくていい。少しでもいいから、笑った顔が見てみたい

傷付いて閉ざしている心を、胸に巣食う悲しみを、癒したい。救いたい。守ってあげたい

ひたむきに好意を伝えてくる楓に、奏の頑なな態度が少しずつ変化していく


ある日、「兄さん、一緒に来て」と奏の手を引いて、走り出す楓

庭に行くと、虹が見えた

「綺麗でしょう?僕、こんなに近くで虹を見たの、初めてだよ」

「うん、綺麗だね。でも…俺より、紅葉さんに見せてあげた方がいいと思うよ」

だんだん薄れていく虹を見つめながら、(楓くんは優しいから、俺を元気付けようとしてくれたんだな…。紅葉さんに見せてあげたら、きっと喜んだろうに…)楓と紅葉に申し訳なく思う奏

「母さんは今度ね。兄さんに一番見せたかったんだ」

「…どうして?」

「え?」

「どうして、こんなに良くしてくれるの?楓くんも、紅葉さんも、いつでも優しくしてくれるね。…でも俺は、二人に何も返せない…」

「見返りなんて求めてないよ。僕も母さんも、兄さんと仲良くなりたいだけ」

「仲良く…?」

「家族になりたいんだよ、兄さんと」

[奏。私と奏は、二人だけの家族だから、仲良くして、支え合って生きようね]

…母さん…

「…俺、二人と家族になっていいの?」

「うん。僕たちと家族になってほしい」

母さんを幸せにしたかった。母さんと幸せになりたかった

だから、一人だけ幸せになるのは、母さんに申し訳ないと思った

…けど…

可愛げも愛想もない俺を、気に掛けて、優しくしてくれる人たちがいる

大好きな人たちが、家族になりたいって言ってくれてる

俺は…

「…俺も…」

「俺も、二人と家族になりたいよ」

涙がこぼれた

泣くなんて、母さんが亡くなった時と、母さんのアルバムを燃やされた時くらいだ

悲しくて、苦しくて、悔しくて…辛くて泣いた

「兄さん!?どこか痛いの?大丈夫?」

「大丈夫…違うんだ」

これは…

「嬉しくて泣いたの、初めてだ」

子供でも、小さくても、俺は男だ

母さんを守らなきゃいけない、支えなきゃいけないと、心のどこかで、ずっと思っていた

だから、泣いたらダメだった。泣かないと決めていた

心配させたくなかったし、不安にさせたくなかったから

「…ありがとう」

でも、もう、二人きりじゃない

俺には、父さんも、楓も、紅葉さんも、いる

一人で我慢しなくていいんだ

「ありがとう…楓」

涙をこぼしながら、嬉しそうに微笑む奏を見て、楓は心臓が鷲掴みにされた

(なんて…。なんて、綺麗な涙なんだろう…)

兄さんを支えたい。兄さんに頼ってもらいたい

…兄さんが好きだ

今までも好きだったけど、もっと好きになった

僕は兄さんが大好きなんだ

奏の嬉し涙と笑顔を見て、楓は恋に落ちた(まだ無自覚)





奏を光の下へ連れ出してくれたのは楓なのに、数年後闇に引き入れるのが楓なのは、最大の皮肉です

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