俺とお前、信者たち【本編完結済み/番外編更新中】

知世

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本編(小話)

奏と新たな家族(束の間の安寧)

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―差し伸べられた手を取る



要に引き取られて、三ヶ月が経った

不器用ながら大切にする要、気遣いつつ優しく見守る紅葉、惜しみなく愛情を伝える楓。三者三様の好意を一身に受けた奏は心を開き、自然と笑顔を浮かべるようになった

引き取られた当初は「神楽さん」「紅葉さん」「楓くん」と呼んでいたが、「父さん」「お義母さん(おかあさん)」「楓」に変わった(その時、常に無表情の要も頬が緩み、紅葉は感動して涙ぐみ、楓は大喜びした)

しかし、家族に対しては柔らかい態度になったものの、使用人には距離を置いている(礼儀正しく、挨拶やお礼はきちんと言うが、無表情)

家族以外に心を閉ざす奏を見て、心配する紅葉「心を許せる相手が家族だけでは、将来困ってしまう」

要は「信用できる相手が現れれば、自ずと心を開くだろう」と思っていたが、「人と関わらないのに、相手が信用できる人か、ちゃんと判断できるでしょうか…」そう紅葉が心配するので、考えを改める

使用人…大人が駄目なのかもしれない、と思い、同じ年頃の子供と会わせたり、遊ばせたりしたが、他人…というより人間自体が駄目らしく、余所余所しく避けていた(人間不信気味)

要と紅葉が頭を悩ませる中、家族四人で出掛けた日(勿論近くに護衛はいる。目立たない服装で、動きやすさ優先)、奏が一点を見つめていた

視線を辿ると、ペットショップで、ガラス越しにある子犬をじっと見ている

心なしか目が輝いている…気がする、と要は思った

家族には笑顔を見せてくれるようになったが、目を輝かせたり、満面の笑みは、まだ見たことがないので、珍しい

ペットか…。人が駄目でも、動物ならいいかもしれないな。そうしよう

奏に聞くと、遠慮して断ることは目に見えていたので(元々物欲は少ないのだが、ちょっと欲しいな、と思っている物も、要や紅葉が買おうとすると、どんなに安い商品でも「要りません。楓に何か買ってあげてください。その方が俺は嬉しいです」と言い張る)、次の日、買って帰る(紅葉と使用人には、一応事前に話した)


黒い子犬…カーリーコーテッド・レトリーバーを要が渡すと、思わず受け取ったが、戸惑う奏

抱っこされた犬は暴れることなく、大人しく奏の匂いを嗅いでいる

ペットを飼ったことがないのに、ちゃんとお世話できるかな…。奏が喜びながらも不安そうにしていたら、「可愛いね。兄さん、僕も一緒にお世話してもいい?」楓が無邪気に喜ぶ姿を見て、「勿論。…せっかく来てくれたんだから、この子の親の分も、可愛がろう。…父さん、ありがとうございます。俺、この子のこと、たくさん愛情を注いで、しっかり育てます」と満面の笑みを浮かべた

子犬は奏がノワールと名付け、屋敷の人間全員に可愛がられた(お世話も、躾も、愛情を注ぐのも、奏が一番している為、ノワールも奏に一番懐く)

「ノワール」はフランス語で黒という意味

ノワールが懸け橋になり、奏はやっと使用人にも笑いかけるようになる

ノワールのお陰で奏の笑顔が増え、その姿を見て、要や楓、紅葉が喜び、使用人も含めて、雰囲気が和やかになり、屋敷全体が明るくなった(奏がくるまでは、前当主の神楽と同じく、要が厳然とした態度を崩さなかった為、厳粛な屋敷だったが、今では明るい声や笑い声が聞こえる、穏やかな屋敷になった)


それから、穏やかで幸せな時間が過ぎた

要の誕生日には、紅葉と楓と三人でケーキを作った(奏と楓は初めての手作り料理)「父さん、お誕生日おめでとうございます。お仕事お疲れ様です。お身体ご自愛ください」

楓の誕生日には、本を参考にして手作りアクセサリー(ブレスレット)を渡した。シンプルだけど、素材もデザインも文句なしで、渾身の出来「楓、誕生日おめでとう。これからも仲良くしてくれると嬉しい。…俺も楓のこと、大好きだよ」

※以前、使用人のメイドさんがブレスレットをしていたことに気付き、奏の視線に気付いたメイドさんが「昔から私が酷い怪我をしそうな時、身に付けていたブレスレットが壊れて、いつも無傷で済むんです。きっと、ブレスレットが身代わりになって、私を守ってくれているんだと思います」と話してくれて、それを隣で一緒に聞いていた楓が二人になった時、「身に付けるブレスレットは、全部お母さんの手作りなんだって。娘を思う気持ちがこめられているから、ブレスレットが身代わりになって、彼女は無事でいられるのかもしれないね。…そういうの、素敵だよね」と言っていたので、作ってあげた(奏の誕生日には、楓から手作りのブレスレットをもらった。お互い考えることは同じだった)

母の日には、楓と二人で選んだカーネーションの花束を贈り、誕生日には、桜をモチーフにしたネックレスを渡した(楓は同じデザインのイヤリング)「お義母さん、いつもありがとうございます。俺、お義母さんと楓に会えて、本当に良かったです。…大好きです」

後日、楓と紅葉には、はにかみながら「大好き」と伝えたのに、自分だけ言われてないことを知り、要は若干拗ねるが、奏にスルーされる(未だに要に対しては複雑な思いがあり、素直になれない。口に出さないだけで、ちゃんと大好き。早めの反抗期)


あっという間に一年経ち…運命の日を迎える

要が仕事で不在の夜。ノワールの唸り声で、目が覚めた奏

普段、無駄吠えも威嚇もしないノワールが、おかしいな…

奏と一緒に寝ていたベッドから離れ、扉へ向けて唸るノワール

「ノワール、おいで」

扉を気にしながらも、奏の傍に来たノワールの頭を、落ち着かせるように優しく撫でて、枕元の時計を見ると、深夜…午前二時だった

「こんな時間に…」

訝しく思いながら、とりあえず外の様子を見ようと立ち上がった瞬間、悲鳴が響く

驚いたが、その声が紅葉のものだと気付き、青褪める奏

「ノワールはここにいて!」

付いて来ようとするノワールを部屋に置いて、駆け出す奏

急いで走り、紅葉の寝室(要と紅葉の寝室は別)に着くと、扉は半開きで、中から血の匂いがした

「お義母さん!」

部屋には、血塗れの紅葉が倒れていた

「…お、おかあさん…」

ぴくりとも動かない紅葉を見て、事切れていることを瞬時に悟る

薄暗い中でも、よく見れば、背中…心臓の付近が、血で濡れている

立ち尽くす奏。そこに、楓が入ってきた

「…か、あ、さん…?」

はっとして、振り返ると、青褪めた楓がふらふらと覚束ない(おぼつかない)足取りで、近付いてくる

「にいさん…。…これは、どういう状況なの?犯人は…っ!」

「楓っ!」

廊下の明かりだけが差す、薄暗い室内にキラリと光る刃が見え、咄嗟に楓を抱え、避ける奏

ヒュン、と空を切る、鋭い音がした

開いた扉の裏…死角から飛び出した、全身黒ずくめの男(覆面と手袋もしている)は、サバイバルナイフを手にし、落ち着いた様子で、立っている

「お前っ!」

楓の命を狙う、迷いのない動きに、激昂する奏

が、すぐに頭を冷やす

状況的にも、お義母さんを殺したのはこいつだ。楓も狙っている。…いや、本命は楓かもしれない

対峙しているだけで分かる手練れ…プロの殺し屋に、奏は冷や汗をかく

逃げられない。さっきのは運が良かったけど、今は全く隙がない

このままでは二人とも殺されるだけだ、と気付いた奏は、賭けに出る

隠し持っていた、緊急事態用のボタンを押した

ウー!ウー!ウー!

屋敷中に鳴り響く警報。発信源は紅葉の寝室だ

使用人が辿り着くまで、最短三分

もし、お義母さんが、もう一つのボタンを押してくれていたなら、一分もかからないけど…

殺し屋とはいえ、特定の人間を狙って暗殺をしにきたなら、屋敷の人間全員を始末することはできないはずだ

時間を稼げば、生き残れる

「っ!」

警報が鳴ったことで、逃走ではなく、一瞬で終わらせる方向に決めたのか、何度も切っ先が迫る

楓だけを狙っているらしく、奏が間に入ると、その度に軌道をずらす

楓の反射神経の良さも相まって、なかなか終わらない

緊迫した攻防戦。永遠に思える時間に耐え、複数の足音がした

つい気が緩み、ほんの一瞬、奏と楓の動きが鈍る

その隙を見逃すはずもなく、一撃必殺の攻撃が繰り出された

眼前に迫るナイフに、避けられないと悟った楓は覚悟を決め、強く目を瞑る

しかし、いつまでも痛みはない

恐る恐る目を開けると同時に、室内に踏み込む数人

使用人が持っていた懐中電灯に照らされたのは、ゆっくり倒れる奏の姿


「兄さんっ!!」

「奏様!」

「いやぁーっ!!」

「奥様っ!」

楓の叫び声と、使用人の悲鳴が上がる

「兄さん!しっかりして!兄さん!」

「……」

気を失っている奏の背中からは、鮮血が流れ続けている

いつの間にか侵入者は消えており、風でカーテンが揺れている

窓から逃げた侵入者を追う警備、救急車と要の連絡をする執事たち、紅葉に布団をかけるメイド…怒鳴り声、震える声、泣き声が入り乱れる

医療の心得がある使用人が奏の応急措置をする傍で、必死に呼び掛ける楓

すると、うっすらと目が開いた

「か、で…」

「兄さんっ!」

「かえ、で…けが、は…」

「してないよ…。兄さん、ごめんなさい、僕のせいで…。ああ、兄さん、死なないで。お願いだから…」

「…よ、か、った…か、えで、が、ぶじ、で…」

「…兄さん?」

「……」

「兄さん!」

集中治療室に運ばれ、緊急オペが行われた

幸い急所は外れており、手術は成功したが、重傷であることに変わりなく、奏の意識は戻らず、一週間生死の境を彷徨った

その間、一日中楓が看病し、手を握って声を掛け続けた

奏が目を覚ました時、全てが終わっていた

そして、親子の関係に亀裂が入り、楓は要を憎むようになっていた


「お医者様は本人の気力と体力次第だって言っていたんです。僕と一緒に、兄さんの傍にいて、声をかけてください」と目に涙をためながら懇願する楓に、要は「楓がいれば大丈夫だ。看病も声かけも、俺は必要ないだろう。…俺には、やるべきことがある」と言い放つ

「父さん!兄さんが危ないんだよ?!本当に死んじゃうかもしれないのに、やるべきことって何!?父さんも一緒にいてよ!お願いだから!」

腰にすがり付く楓の腕を払い、軽く押し退けると、無言で奏の頭を一度撫でて、出ていく要

「父さん!行かないで!」

楓の悲痛な声に振り返ることなく、立ち去る要を見ながら、悲しみが憎しみに変わる

母さんが殺されて、兄さんも危ないのに…。やるべきこと?兄さんの命より大事なことなんて、ないよ…。父さんは、兄さんを見捨てたんだ!…許さない…。これで兄さんが死んじゃったら、僕は父さんを絶対に許さないから…。いや、兄さんが起きても、許さないよ…。父さんは…あの人は、家族の命を、僕の大切な人の命を、優先しなかった。それが事実だ

殺し屋への憎しみ、黒幕への憎しみ、父親への憎しみ…全ての悲しみが憎しみに変わり、楓の心が歪む





ちなみに、襲撃事件の時、二人の手作りブレスレットは壊れた(楓は事件の夜、奏は手術をしている最中に)

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