俺とお前、信者たち【本編完結済み/番外編更新中】

知世

文字の大きさ
22 / 51
本編(小話)

奏と要と楓(絶望と悔悟と希望)

しおりを挟む


―この世は無常



奏の退院日、全てを終わらせた要が、奏と楓を迎えに来る

奏は死にかけたことで、要に対して素直になる(本当は大好きなのに、冷たい態度のまま死んだら後悔する、と思ったから)

逆に楓は要を憎悪する(要は奏が危険な時も、入院中も放置していたことが許せない。それなのに、奏が未だに要を慕っていることもまた、許せない。要の何もかもが気に食わない。絶対許さない。死んでも許さない)

要は奏の今後を憂い(楓のせいで確実に苦労する)、楓に複雑な気持ちを抱く(大事な息子ではあるが、自分よりの命より大切な奏を狙う、不届き者になってしまった。処遇をどうするか…)

ギクシャクした親子(要と楓)の間を取り持とうとするが、いつまで経っても改善されないことに、頭を悩ませる奏

無情に時間だけが過ぎていたが、転機が訪れる


響の命日で、要と二人で墓参りに行った(響は、要が建てた墓に眠っている。いずれ要と奏が死んだら、ここに入る予定。紅葉は本人の希望により、神楽家の墓で眠っている)

その夜、要と初めて、響の思い出話がしたい、と思い、部屋を訪ねる

ノックしようとした時、ドンッという、まるで何かを強く殴ったような音が聞こえ、思わずそっと扉を開ける

部屋からは嗅ぎなれない酒の匂いが漂ってきた

要はこちらに背中を向け、片手で顔を覆い、俯いている

余程考え込んでいるのか、気配に敏感な要が、部屋に入ってきた奏に気付いていない

声を掛けようとして、「響…」要が母の名を呼んだので、思わず口を閉じる

「…俺は、父親失格だ…」

「奏が生まれてくれて、嬉しいと思う…だが、お前を失う原因になったことを、恨んでもいる…」

「わかっている。悪いのは俺だ。…俺が無力で愚かだったから、お前を守れなかった」

「わかっているが…思ってしまうんだ。…奏が生まれていなければ、響と生きられる未来があったのではないかと」

「奏を愛している。この気持ちは嘘ではない。…それでも、俺は、お前と生きたかった…」

「父親失格だ」


項垂れる要の、悔悟のような、懺悔のような、独白を聞いてしまい、動揺した奏は、自室に戻る

歩きながら、父親の言葉を反芻し、今までの出来事を振り返ると…不可解だったことの全てが、点と点が線で繋がった

母さんが亡くなったのは、事故だと思っていたけど…父さんの言い方はまるで、殺されたみたいだ

母さんが亡くなって、雪見に引き取られた

…本当は逆だったんだ

母さんが亡くなったからじゃない。俺を引き取る為に、雪見が母さんを殺したんだ

理由は俺を神楽の後継者にしたかったから

…それが、雪見だけじゃなくて、神楽…祖父もだったら?

お義母さんが殺された理由は分からないけど、楓が狙われたのは、祖父が俺を後継者にする為だったなら…。愛人の隠し子だった俺より、正式な嫡男である楓が跡取りに相応しいのは、誰でも分かることだ。…だから、楓を殺して、選択肢自体をなくそうとしたのか

…でも…だとしたら…全部、俺のせいじゃないか…

「あ…」

母さんとお義母さんが殺されたのも、父さんと楓が辛いのも、俺のせいだ

「ああ…」

…おれが、うまれたから…おれが、いきてたから…おれのせいで、みんなを、だいすきなひとを、ふこうにした

「ああぁあぁあ!」

[奏が生まれていなければ、響と生きられる未来があったのではないか]

おれなんか、うまれなければよかったんだ

「…兄さん!?」

「あぁああぁあぁあっ!!」

「兄さん、どうしたの?!落ち着いて!」

「何事だっ!…奏!?」

「わ、分からない。けど、急に兄さんの声が聞こえて…」

「まさか…いや、まずは落ち着かせなければ。…奏、落ち着け」

「あああぁぁぁあぁあぁっっ!!!」

「落ち着けと言っているだろう!」

パァンッ!

「っ!」

「はぁ!?」

「奏、叩いて済まない。…落ち着いたか?」

「とう、さん…」

「ああ」

「…とうさん…すみません…」

「は…?」

「…かえで…ごめん…」

「え?」

「…かあさん…おかあさん…ごめんなさい…」

「「…?」」

「…うまれて、ごめんなさい…いきてて、ごめんなさい…」

「奏…」「兄さん…!?」

「……」

キャパシティーオーバーして、気を失う奏

奏を抱き抱えた要は、数分前の発言を後悔した

聞かれてしまったらしい。よりによって、一番聞かれてはいけない人間に

「兄さんに触るな!」

すぐに要から奏を奪うと、楓は睨み付けた

「兄さんに何をした?何を言った?」

「楓には関係ない」

「…兄さんを傷付けたこと、絶対に許さない」

「お前の許しは必要ない。…許されるはずもない。俺も、奴らも」

「…兄さんが目を覚ます前に、どこか行って。あなたを見たら、またパニックになるかもしれない」

「…そうだな…だが、それはお前にも当て嵌まることだ。楓も奏の視界に入るな」

「はぁ!?」

「楓。暫く奏との接触は禁止だ。俺の許可なく接触すれば、罰を与える」

「何で…!」

「拒否権はない。…二度と会えなくてもいいなら、好きにしろ」

「っ!…人でなし」

吐き捨てるような楓の言葉に、自嘲気味に笑う要

「今頃気付いたのか。…奏を部屋に送り届けたら、楓も寝ろ。…おやすみ」

「……」


何とか自力で奏を運び、ベッドに寝かせると、辛そうな寝顔をじっと見つめる楓

「兄さん…」

どうして、あんなことを言ったのだろう

「例え何があっても、僕は兄さんの味方だよ」

兄さんを傷付ける人間は、相手が誰であろうと排除する

「だから、一人で抱え込まないで」

「兄さんの苦しみも、悲しみも、僕が一緒に背負うから」

「どうか忘れないで。兄さんには僕がいる。一人じゃないんだ」

「大好きだよ、兄さん」

…いや…大好きなんかじゃ足りない

「愛してる」

愛しているんだ

「生まれてくれて、生きていてくれて、ありがとう」

「僕は兄さんと会えて、幸せだよ」

幸せも、生きる意味も、兄さんがいるからだ

「兄さん…」

ああ、きっと、これが愛なんだね

「僕は兄さんを愛しているよ。ずっと、ずっと一緒にいようね」

僕が兄さんと愛し合って生きることを邪魔する人間は、全員始末してやる

…僕は気付いたんだ

この世は、奪うか、奪われるか、だって

だから、僕は奪う側になる

もう、大切な人を、奪われたりしない

奪われるくらいなら、奪ってやる

「…兄さん」

僕が兄さんを守るよ

「兄さん…僕の傍にいて。僕だけを愛して」

僕だけを見て。僕の声だけを聞いて。僕だけに触れて。僕のことだけを考えて。僕だけを愛して

見るのも、聞くのも、触るのも、考えるのも、愛するのも、兄さんの全ては、僕だけがいい。僕はとっくにそうだけど

傍にいるのも、傍にいてくれるのも、僕は兄さんがいい。兄さんじゃないと駄目だ

「本当に、愛しているんだよ…兄さんのことが好き過ぎて、どうにかなってしまいそうだ」

もしかしたら、手遅れかもしれないけど

「お願い。兄さんも僕を愛して。僕を兄さんの一番に…唯一にして」

兄さんを見捨てた父さんなんて、兄さんを傷付けた父さんなんて、いらないよね

あの人より、僕を選んでくれるでしょう?選んでくれないと嫌だよ

…父さんって、僕の邪魔をするのかな…

「兄さん、好きだよ。大好き。愛してる。僕が兄さんを幸せにするからね」

「何も心配いらないよ。安心して。…おやすみ、僕の、僕だけの兄さん」

奏のおでこにそっとキスをして、その場を後にする楓

狂気の偏愛を、月だけが見ていた





精神崩壊一歩手前の奏と、ヤンデレ&メンヘラな攻めが爆誕

…地獄絵図かな


強過ぎる思いは、呪いになると思います

それが純粋な気持ちでも、歪んだ気持ちでも

愛も憎しみも、思いが強過ぎると、呪いです、きっと


…奏、本当にごめん

まだ九歳なのに、精神崩壊一歩手前とか…辛い人生にし過ぎた…

でも、最終的には幸せになれるよ!

私、ハッピーエンド主義だから!

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

処理中です...