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第弐記 葉追の白狐
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あーちゃんがいらして、はや数ヶ月。
人の生活にも慣れてきたようだ。
「きらー、プリンはよー」
「ういー」
横になって、アニメを見ながらプリンを請求する神、と、それに従う人。
そう! まさに今俺は! 尻に敷かれている!!
「今日のプリンは何なのー?」
「今日は焼きプリンだよー」
「焼プリーンッ!! はよ! はよッ!!」
実はあーちゃんの主食は……プリンだ。
彼女曰く、神様は基本的にお供え物を食べるから、何でもアリだけど、プリンは中でも格別、縁起物らしい……ので、我が家はプリン業界に大きく貢献している。
そして、神様という生き物は、環境適応能力が優れていることも分かった。
俺が仕事中、あーちゃんは基本的に家でお留守番だ。
だが、それでは暇だろうと、少しでも退屈しのぎになるかなと、某動画サイトの使い方やアニメの見方、ゲームのやり方を教えたらすぐに覚えた。
――その弊害で言葉遣いや思考に多少悪影響は出てしまったが……そこは目を瞑ろう。
結果、我が家にはロリニートな神様が、鎮座するようになった。
本人曰く、装備はジャージ以外ありえない、だそうだ。
そんな現代っ娘へまっしぐらな彼女にも、嫌なことは存在する。
それは俺の趣味の一つ、神社巡りに関してだ。
せっかくならと、あーちゃんを誘おうとするのだが……。
「厳島神社はまだ行ったことないんだよねー、俺。」
「…………行く必要性、無くね?」
その姿はさながら、他の女に嫉妬する彼女のよう。
声のトーンが落ち、目付きも鋭い。
他にも……。
「あーちゃんこれ見て! 伏見稲荷に行くとスズメの丸焼きが食べられるんだってさ!」
「だから何? スズメが食いたいなら、その辺のやつでも捕まえて、食ってれば良くね? 別に伏見まで行かなくたって、そこら辺にたくさんあるじゃん。稲荷神社なんて」
こんな具合で、特に“伏見稲荷”の名前を出すと、露骨に機嫌が悪くなるのだ。
そんな塩対応を見せられていたら、俺だって人間、気になって仕方がない。
故に、俺は一計を案じた。
あーちゃんは一ヶ月に一度、伊勢神宮へと神事で帰らねばならない日がある。
俺は普段、高速道路に乗るのは好きではない。
あーちゃんもその事は知っている。
ならば、これを生かす手はないだろう。
俺の伏見稲荷参拝のプランはこうだ。
朝一であーちゃんを送って高速道路を利用して参拝した後、速攻あーちゃんの元にとんぼ返り。
我ながら完璧な作戦だ。
不適な笑みを浮かべながら、仕事帰りの弁当箱を洗う俺を尻目に、あーちゃんはゆるふわアニメをおかずに、プリンを食べていた。
決行は明日。
失敗は即ち死。
俺はいつもより早めに床についた。
そして、日は登った。
早めに寝て英気を養ったのが幸いで、予定通りにあーちゃんを送り届け、ついに念願の伏見稲荷大社に辿り着いた。
駐車場から降りて、観光地化された境内を目に焼き付けるように本殿に向かって歩いた。
何故って、写真撮影はバレるリスクがあるからだ。
本殿に参拝後は千本鳥居を抜けて山頂を目指す。
初の千本鳥居に俺は心が踊った。
どこまでも続く深紅のトンネルを年なんて考えずに駆ける。
まるで異界への門をくぐっている気分にさせてくれる現代の不思議空間を俺は全身で享受する。
「なんか……こう……すげぇ!」
思わず感嘆の声を漏らす。
風が吹き木々が揺れ、奏でるリズムに鳥達が歌を乗せる。
大自然が作り出す立体音響を聞きながら、周囲の風景を楽しんでいると、不意に参道脇の木の葉がヒュう! っと舞い上がり、俺に降り注いだ。
「……そうかのォ?」
と、そんなロケーションの中から小学生くらいだろうか、子供の声が聞こえた……気がした。
きっと、仕事で疲れているとそう自分に言い聞かせ、木の葉を払い道中へ返る。
日頃の運動不足がたたり、息もからがら無事山頂の末廣社への参拝を済ませ、急いで車に戻るべく、来た道を駆け降りた。
勿論、スズメの丸焼きを、取り逃すようなヘマはしていない。
出発前にキチンとリサーチした店舗で、いなり寿司とスズメの丸焼きセットを注文。
丸々一羽を串に刺して焼いた、あの奇っ怪なビジュアル。
テレビで見た時は興味本位で食べたいと思ったのに、現実を目にすると口へ運ぶのを躊躇ってしまう。
しばらくそれとにらめっこをした後、俺の手はいなり寿司に伸びた。
いなり寿司を頬張りつつ、覚悟を決め、勢いに任せて食べたその味は、普通にタレの味と小骨が多い鶏肉で、数秒前のあの姿は我ながら女々しかったと感じた。
後は、あーちゃんを迎えに行って何事もなくプリンを食わすだけだ。
時間にも余裕はある。
これはミッションクリアだと、小さくガッツポーズを決める。
だがしかし、この時はまだ、己の愚かさに気付けなかった。
トコロ変わって伊勢神宮。
神事を終えた仏頂面なあーちゃんを車に乗せると、さっきコンビニで買った三倍プリンを渡した。
「ふーん、分かってんじゃん。マジ有能」
神様らしからぬ発言だが、許して欲しい。
何故なら、プリンをスプーンいっぱいに頬張ったその満足げなご尊顔は、いつ見ても崇拝に値するからだ。
二口目を口に運んだスプーンが、動きを止める。
あーちゃんの目つきが変わり車の中をクンクンし始めた。
「ねぇ、あたしを送った後で、どこ行ってたん?」
「そ、その辺にいたよ!」
「へぇー、そうなんだぁ、なんかねぇ、獣臭い……気がするんだけどぉぉお??」
あーちゃんの鋭い目が俺の横顔を照らす。
俺の背筋を冷たいものが流れる。
「よよよよく分かったねぇ、あーちゃん。ペットショップで和んでたんだよ。ハハハ……」
「ふーん、そうなんだ」
まるで眼光で出来た刃を、首元に当てられているような感覚が走る。
現代に毒されたとはいえ、腐っても神様だ。
まるで大きな漬物石でも、乗せられているかのように、重々しい圧力。
生唾をゴクリと飲む。
「そっか、ストレス解消に動物は良いってこの前動画で見たし、あたしの思い過ごしだったみたい」
あーちゃんはパクパクっと何事も無かったかのように、プリンを口に運ぶ。
ホッと息を撫で下ろした俺の背中は雨でも降ったかのようだった。
あーちゃんは帰ったら一番風呂以外ありえない。
御召し物が神通力で出来ているから、風呂に辿り着くまでは秒読みである。
一時間は風呂に費やす長風呂派なので、俺はいつもその間に夕飯の支度を済ましている。
今日の夕飯はカレーだ。
今は一人暮らしではないけれど、一人暮らしの最強アイテムの定番である。
「あ、料理酒出し忘れた」
こんな具合で、出し忘れては独り言を言ってしまう癖が、付いてしまっている。
同棲生活の名残とは、実に虚しい。
家事をしている時はよく宙に向かって、無意識に言葉を発しているらしく、あーちゃんにもキモいと烙印を押されている。
「……これかのォ?」
「ありがとう」
二人でいる時のメリットはこれだよこれ、と、言わんばかりの懐かしい手ごたえ。
これぞまさに協力プレイ。
「ついでに冷蔵庫から、ニンニクのチューブも取って欲しいな」
「……フム、自信は無いが、これかのォ?」
「そうそうこれこれ、あーちゃんありがとね」
「あーちゃんって、誰の事かのォ?」
「あーちゃんが誰かって? 今日のあーちゃんは面白いなぁ。」
あーちゃんは誰だという声の主の方に顔を向ける。
俺はおたまを落とした。
「ウチを見れる人の子よ、面白そうなので付いてきたのじゃ」
と、八重歯を覗かせ、にっこりと笑う白狐ロリ巫女。
後ろでフリフリしているそのモフモフが、大変愛おしい。
俺は恐る恐る尋ねる。
「えーっと、もしや……宇迦之御魂神様でいらっしゃいます?」
「おお!! お主、ウチの名を申せるとは見事なのじゃ」
目を輝かせ耳をピコピコしている。
うん、まさに可愛いの具現化。
――鼻の下を伸ばす俺は正気に返る。
あーちゃんが風呂を上がるまでには、お帰り頂かなくてはと。
「宇迦之御魂神様、ご神事もあってご多忙の所おいで頂き、誠にありがとうございます。ですが、どうしてこんなどうしようもない、ただの男に付いていらしたのですか?」
「うむ、ウチはイタズラが趣味でな。暇潰しにおばちゃまにイタズラをしに来たのじゃ」
腰に手を当てたどや顔もまた、尊い。
そのサラサラのパッツン前髪と、マロ眉と、それを引き立たせるパーツがまたズル過ぎる。
「おばちゃまとは?」
「何を言っておるのじゃ? 風呂に入っておろう。獣臭いと言われた時はウチも冷や冷やしおったわ。ニシシ」
本人曰く、彼女はあーちゃんの姪っ子にあたるらしい。
神様の名前は知っていても、血族関係までは知らなかったので、その事実に驚いた。
「そうですね、あの時は冷や冷やものでしたね。ですが、どうやって付いてきたのですか?」
「なぁに、ちょいと葉っぱに化ければ済むことよ」
得意気なウインクが俺を刺す。
あの時かぁぁぁぁぁあああ。
百戦錬磨の万引き犯が、何気無い隙を見せて捕まるのは、きっとこんな感覚なのだろう。
「そ、そうでしたか。えーっと……いつ頃お帰りになられる予定ですか? 俺、送りますよ」
「なんじゃ、なんじゃあ? せーッかく来たウチに、早く帰れと申すのかのォ?」
俺は焦りもあり、つい目的を先走ってしまった。
ジト目が! あぁ! そのジト目が痛い。
「いや、そう言う訳では無くてですね」
「フム、ならばそちが死ぬまでじゃな! それに、おばちゃまは良くてウチがダメなのは、ズルかろうよ」
「そそそそうなんですが……」
「ううゥ、ウチは疫病神なのかのォ……獣臭いのはダメなのかのォ……」
うるっとした上目遣いが、網膜を通して、神経を、脳を、おかしくさせる。
何より俺は可愛い子には勝てない。
そして俺は限界化した。
「是非一緒に暮らしましょう!!」
「やったのじゃ!! おばちゃまが天照であーちゃんなら、ウチは宇迦だから……うーちゃんでよかろう。後はおばちゃま同様に、敬語もいらぬぞ」
てぇてぇ。
あぁ神よ、ここにおわします神様は、何でこんなにもてぇてぇんだ。
「うーちゃん、よろしくね」
「うむ! ウチは誰かさんと違って普通に食事をするのでな。ウチのも用意して欲しいのじゃ」
「りょーかいです」
「敬語はやめェい。お主とウチの仲じゃろォに。そちの名は煌だったかの、よろしくなのじゃ」
うーちゃんは俺に抱き付き、顔をすりすりしてきた。
なんだ、この愛くるしさの塊は。
これ、もふもふしてもいいのだろうかと、本能と理性が喧嘩する。
「さてと、ウチも風呂に入るでな。今の言葉で言うドッキリってやつを仕掛けてくるのじゃ! ニシシ!」
うーちゃんも神通力で御召し物を作っていたので、すっぽんぽんで風呂場に突入。
俺は止める隙すらなかった。
「おばちゃまー! ウチが来たのじゃ!」
「ちょ、煌! 貴様ぁぁぁあああ! あたしをたばかったわね!!」
ああ。
この前まで、人の声がしなかったお風呂は何やら賑やかだ。
死亡フラグを回収待ちに作ったカレーは、少し焦げ気味な仕上がり。
勿論、この後ガッツリ怒られたが、俺の心は末広がりに雲一つ無く、晴れ渡る空の様だった。
――伏見稲荷大社主宰神宇迦之御魂之神がパーティーに加わった――
人の生活にも慣れてきたようだ。
「きらー、プリンはよー」
「ういー」
横になって、アニメを見ながらプリンを請求する神、と、それに従う人。
そう! まさに今俺は! 尻に敷かれている!!
「今日のプリンは何なのー?」
「今日は焼きプリンだよー」
「焼プリーンッ!! はよ! はよッ!!」
実はあーちゃんの主食は……プリンだ。
彼女曰く、神様は基本的にお供え物を食べるから、何でもアリだけど、プリンは中でも格別、縁起物らしい……ので、我が家はプリン業界に大きく貢献している。
そして、神様という生き物は、環境適応能力が優れていることも分かった。
俺が仕事中、あーちゃんは基本的に家でお留守番だ。
だが、それでは暇だろうと、少しでも退屈しのぎになるかなと、某動画サイトの使い方やアニメの見方、ゲームのやり方を教えたらすぐに覚えた。
――その弊害で言葉遣いや思考に多少悪影響は出てしまったが……そこは目を瞑ろう。
結果、我が家にはロリニートな神様が、鎮座するようになった。
本人曰く、装備はジャージ以外ありえない、だそうだ。
そんな現代っ娘へまっしぐらな彼女にも、嫌なことは存在する。
それは俺の趣味の一つ、神社巡りに関してだ。
せっかくならと、あーちゃんを誘おうとするのだが……。
「厳島神社はまだ行ったことないんだよねー、俺。」
「…………行く必要性、無くね?」
その姿はさながら、他の女に嫉妬する彼女のよう。
声のトーンが落ち、目付きも鋭い。
他にも……。
「あーちゃんこれ見て! 伏見稲荷に行くとスズメの丸焼きが食べられるんだってさ!」
「だから何? スズメが食いたいなら、その辺のやつでも捕まえて、食ってれば良くね? 別に伏見まで行かなくたって、そこら辺にたくさんあるじゃん。稲荷神社なんて」
こんな具合で、特に“伏見稲荷”の名前を出すと、露骨に機嫌が悪くなるのだ。
そんな塩対応を見せられていたら、俺だって人間、気になって仕方がない。
故に、俺は一計を案じた。
あーちゃんは一ヶ月に一度、伊勢神宮へと神事で帰らねばならない日がある。
俺は普段、高速道路に乗るのは好きではない。
あーちゃんもその事は知っている。
ならば、これを生かす手はないだろう。
俺の伏見稲荷参拝のプランはこうだ。
朝一であーちゃんを送って高速道路を利用して参拝した後、速攻あーちゃんの元にとんぼ返り。
我ながら完璧な作戦だ。
不適な笑みを浮かべながら、仕事帰りの弁当箱を洗う俺を尻目に、あーちゃんはゆるふわアニメをおかずに、プリンを食べていた。
決行は明日。
失敗は即ち死。
俺はいつもより早めに床についた。
そして、日は登った。
早めに寝て英気を養ったのが幸いで、予定通りにあーちゃんを送り届け、ついに念願の伏見稲荷大社に辿り着いた。
駐車場から降りて、観光地化された境内を目に焼き付けるように本殿に向かって歩いた。
何故って、写真撮影はバレるリスクがあるからだ。
本殿に参拝後は千本鳥居を抜けて山頂を目指す。
初の千本鳥居に俺は心が踊った。
どこまでも続く深紅のトンネルを年なんて考えずに駆ける。
まるで異界への門をくぐっている気分にさせてくれる現代の不思議空間を俺は全身で享受する。
「なんか……こう……すげぇ!」
思わず感嘆の声を漏らす。
風が吹き木々が揺れ、奏でるリズムに鳥達が歌を乗せる。
大自然が作り出す立体音響を聞きながら、周囲の風景を楽しんでいると、不意に参道脇の木の葉がヒュう! っと舞い上がり、俺に降り注いだ。
「……そうかのォ?」
と、そんなロケーションの中から小学生くらいだろうか、子供の声が聞こえた……気がした。
きっと、仕事で疲れているとそう自分に言い聞かせ、木の葉を払い道中へ返る。
日頃の運動不足がたたり、息もからがら無事山頂の末廣社への参拝を済ませ、急いで車に戻るべく、来た道を駆け降りた。
勿論、スズメの丸焼きを、取り逃すようなヘマはしていない。
出発前にキチンとリサーチした店舗で、いなり寿司とスズメの丸焼きセットを注文。
丸々一羽を串に刺して焼いた、あの奇っ怪なビジュアル。
テレビで見た時は興味本位で食べたいと思ったのに、現実を目にすると口へ運ぶのを躊躇ってしまう。
しばらくそれとにらめっこをした後、俺の手はいなり寿司に伸びた。
いなり寿司を頬張りつつ、覚悟を決め、勢いに任せて食べたその味は、普通にタレの味と小骨が多い鶏肉で、数秒前のあの姿は我ながら女々しかったと感じた。
後は、あーちゃんを迎えに行って何事もなくプリンを食わすだけだ。
時間にも余裕はある。
これはミッションクリアだと、小さくガッツポーズを決める。
だがしかし、この時はまだ、己の愚かさに気付けなかった。
トコロ変わって伊勢神宮。
神事を終えた仏頂面なあーちゃんを車に乗せると、さっきコンビニで買った三倍プリンを渡した。
「ふーん、分かってんじゃん。マジ有能」
神様らしからぬ発言だが、許して欲しい。
何故なら、プリンをスプーンいっぱいに頬張ったその満足げなご尊顔は、いつ見ても崇拝に値するからだ。
二口目を口に運んだスプーンが、動きを止める。
あーちゃんの目つきが変わり車の中をクンクンし始めた。
「ねぇ、あたしを送った後で、どこ行ってたん?」
「そ、その辺にいたよ!」
「へぇー、そうなんだぁ、なんかねぇ、獣臭い……気がするんだけどぉぉお??」
あーちゃんの鋭い目が俺の横顔を照らす。
俺の背筋を冷たいものが流れる。
「よよよよく分かったねぇ、あーちゃん。ペットショップで和んでたんだよ。ハハハ……」
「ふーん、そうなんだ」
まるで眼光で出来た刃を、首元に当てられているような感覚が走る。
現代に毒されたとはいえ、腐っても神様だ。
まるで大きな漬物石でも、乗せられているかのように、重々しい圧力。
生唾をゴクリと飲む。
「そっか、ストレス解消に動物は良いってこの前動画で見たし、あたしの思い過ごしだったみたい」
あーちゃんはパクパクっと何事も無かったかのように、プリンを口に運ぶ。
ホッと息を撫で下ろした俺の背中は雨でも降ったかのようだった。
あーちゃんは帰ったら一番風呂以外ありえない。
御召し物が神通力で出来ているから、風呂に辿り着くまでは秒読みである。
一時間は風呂に費やす長風呂派なので、俺はいつもその間に夕飯の支度を済ましている。
今日の夕飯はカレーだ。
今は一人暮らしではないけれど、一人暮らしの最強アイテムの定番である。
「あ、料理酒出し忘れた」
こんな具合で、出し忘れては独り言を言ってしまう癖が、付いてしまっている。
同棲生活の名残とは、実に虚しい。
家事をしている時はよく宙に向かって、無意識に言葉を発しているらしく、あーちゃんにもキモいと烙印を押されている。
「……これかのォ?」
「ありがとう」
二人でいる時のメリットはこれだよこれ、と、言わんばかりの懐かしい手ごたえ。
これぞまさに協力プレイ。
「ついでに冷蔵庫から、ニンニクのチューブも取って欲しいな」
「……フム、自信は無いが、これかのォ?」
「そうそうこれこれ、あーちゃんありがとね」
「あーちゃんって、誰の事かのォ?」
「あーちゃんが誰かって? 今日のあーちゃんは面白いなぁ。」
あーちゃんは誰だという声の主の方に顔を向ける。
俺はおたまを落とした。
「ウチを見れる人の子よ、面白そうなので付いてきたのじゃ」
と、八重歯を覗かせ、にっこりと笑う白狐ロリ巫女。
後ろでフリフリしているそのモフモフが、大変愛おしい。
俺は恐る恐る尋ねる。
「えーっと、もしや……宇迦之御魂神様でいらっしゃいます?」
「おお!! お主、ウチの名を申せるとは見事なのじゃ」
目を輝かせ耳をピコピコしている。
うん、まさに可愛いの具現化。
――鼻の下を伸ばす俺は正気に返る。
あーちゃんが風呂を上がるまでには、お帰り頂かなくてはと。
「宇迦之御魂神様、ご神事もあってご多忙の所おいで頂き、誠にありがとうございます。ですが、どうしてこんなどうしようもない、ただの男に付いていらしたのですか?」
「うむ、ウチはイタズラが趣味でな。暇潰しにおばちゃまにイタズラをしに来たのじゃ」
腰に手を当てたどや顔もまた、尊い。
そのサラサラのパッツン前髪と、マロ眉と、それを引き立たせるパーツがまたズル過ぎる。
「おばちゃまとは?」
「何を言っておるのじゃ? 風呂に入っておろう。獣臭いと言われた時はウチも冷や冷やしおったわ。ニシシ」
本人曰く、彼女はあーちゃんの姪っ子にあたるらしい。
神様の名前は知っていても、血族関係までは知らなかったので、その事実に驚いた。
「そうですね、あの時は冷や冷やものでしたね。ですが、どうやって付いてきたのですか?」
「なぁに、ちょいと葉っぱに化ければ済むことよ」
得意気なウインクが俺を刺す。
あの時かぁぁぁぁぁあああ。
百戦錬磨の万引き犯が、何気無い隙を見せて捕まるのは、きっとこんな感覚なのだろう。
「そ、そうでしたか。えーっと……いつ頃お帰りになられる予定ですか? 俺、送りますよ」
「なんじゃ、なんじゃあ? せーッかく来たウチに、早く帰れと申すのかのォ?」
俺は焦りもあり、つい目的を先走ってしまった。
ジト目が! あぁ! そのジト目が痛い。
「いや、そう言う訳では無くてですね」
「フム、ならばそちが死ぬまでじゃな! それに、おばちゃまは良くてウチがダメなのは、ズルかろうよ」
「そそそそうなんですが……」
「ううゥ、ウチは疫病神なのかのォ……獣臭いのはダメなのかのォ……」
うるっとした上目遣いが、網膜を通して、神経を、脳を、おかしくさせる。
何より俺は可愛い子には勝てない。
そして俺は限界化した。
「是非一緒に暮らしましょう!!」
「やったのじゃ!! おばちゃまが天照であーちゃんなら、ウチは宇迦だから……うーちゃんでよかろう。後はおばちゃま同様に、敬語もいらぬぞ」
てぇてぇ。
あぁ神よ、ここにおわします神様は、何でこんなにもてぇてぇんだ。
「うーちゃん、よろしくね」
「うむ! ウチは誰かさんと違って普通に食事をするのでな。ウチのも用意して欲しいのじゃ」
「りょーかいです」
「敬語はやめェい。お主とウチの仲じゃろォに。そちの名は煌だったかの、よろしくなのじゃ」
うーちゃんは俺に抱き付き、顔をすりすりしてきた。
なんだ、この愛くるしさの塊は。
これ、もふもふしてもいいのだろうかと、本能と理性が喧嘩する。
「さてと、ウチも風呂に入るでな。今の言葉で言うドッキリってやつを仕掛けてくるのじゃ! ニシシ!」
うーちゃんも神通力で御召し物を作っていたので、すっぽんぽんで風呂場に突入。
俺は止める隙すらなかった。
「おばちゃまー! ウチが来たのじゃ!」
「ちょ、煌! 貴様ぁぁぁあああ! あたしをたばかったわね!!」
ああ。
この前まで、人の声がしなかったお風呂は何やら賑やかだ。
死亡フラグを回収待ちに作ったカレーは、少し焦げ気味な仕上がり。
勿論、この後ガッツリ怒られたが、俺の心は末広がりに雲一つ無く、晴れ渡る空の様だった。
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1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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