あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~

古芭白あきら

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第4章 その暗躍、本当に必要ですか?

第44話 元側近達の愚痴

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「オーウェン殿下は何も分かっていない!」
「落ち着けよレーキ」

 青い髪が逆立つのではないかと思えるほど怒り狂う友人を優しげな蜂蜜色のおっとりした少年が宥めた。

 憤慨している青髪の少年はレーキ――ノモ子爵の次男。
 蜂蜜色の少年はジョウジ――シキン伯爵の嫡男である。

 この2人はオーウェンの側近となってから無二の親友となった。もっとも、主人オーウェンの不興を買って二人とも今は遠ざけられているが。

「俺はいい。だが、ジョウジは側近として必要な存在だ」
「おいおい、僕より秀才のレーキの方が必要な人材だろ?」
「はっ、俺なんて所詮は小知を振り回すだけの小狡い男だ。だが、シキン伯爵家とお前は違う」

 レーキは才気溢れる少年で、もともと自分の能力に自信があった。いや、今でも周囲の令息達に負けない自負がある。

「僕は愚直なだけで取り柄はない平凡な男だぞ?」
「愚直も貫き通せばそれは立派に才能だ。むしろ、どんな圧力にも負けずに真っ直ぐでいられるのは非凡だ」
「それはシキン家の先祖のお陰さ」

 シキン伯爵家は『貴族の良心』と呼ばれるほど王家に忠節を尽くし、貴族の矜持と義務に真摯な一族なのである。

 今のシキン伯爵も特段優れた者ではないが、代々己の利を求めず常識的な人柄で王家に仕えてきた忠臣である姿勢を受け継いでいた。

 奇抜な能力も特殊な才能も怜悧な能力もない。
 ただただ王家に対し忠実に誠実に生きている。

 それは大した事のない凡庸な生き方ではあるが、これを貴族の世界で代々これを貫き通しているシキン家は異色なのである。

 普通ならとっくに他の貴族によって食い物にされて断絶していておかしくないはずだ。事実、先々代の頃にシキン伯爵家はお取り潰しの憂き目に会っている。

 ある時、シキン伯爵家を良く思わない派閥に嵌められた事があった。

 冤罪で不正を糾弾されたが、当時のシキン伯爵は「己に恥じる事なし粛々と王の裁可を受ける」とだけ述べ見苦しく言い訳をしなかった。

 さらに「王が下された裁決ならば、それが如何様であろうとも喜んで拝受いたしましょう」とまで言ってのけた。

 つまり、例え冤罪であろうと王の命であるならば怨みはないと言ったのだ。

 その鮮烈なまでの王家への忠誠に当時の国王は感動し徹底的な再調査を命じ、シキン家を陥れた貴族達が逆に没落する結果となった。

 以降、シキン家は誠心と忠誠の代名詞となって今に至る。だから、シキン家の者の言動は下手な高位貴族より重く取られるのだ。

「シキン家の者を側近から外す意味を殿下は全く理解していない」

 シキン家に見限られればオーウェンとて無事では済まない。オーウェンはシキン家が伯爵であると軽んじているように思えてならない。

「まあ、僕に関してはともかく、殿下の周りを固める連中は問題だね」

 オーウェンの周りには王妃が選んだ優秀なブレインで固められていた。だが、今それらの面々は一人たりとも側にいない。いまオーウェンの側近として周囲にいるのはアイリスが選んだ見目麗しい令息だけ。

「残留した者が奸婦に篭絡されたヤツらだけだからな」

 アイリスに苦言を呈した者はみなオーウェンの不興を買い遠ざけられてしまったのであった。
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