あなたのお嫁さんになりたいです!~そのザマァ、本当に必要ですか?~

古芭白あきら

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第14章 その最終局面、本当に必要ですか?

第151話 見失った影

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「だけど、どうしてケヴィン様は変装していたのかしら?」

 なぜ彼はわざわざ変装して屋敷を出たのか?
 ウェルシェの頭に最悪のケースがよぎった。

「もしかして、張り込みが露見しバレたの?」

 そうなるとセギュル家で見張りをしている者達の安否が気づかわれる。

「仲間達は全員無事ですのでご安心ください」
「おそらく学園に潜入するための偽装を屋敷で行っただけでしょう」

 もしくは王妃達に監視されている可能性を危惧しての事か……ケヴィンやケイトにそこまで考えを巡らせる思慮はないだろうから、取り引き相手の商人が入れ知恵をしたのかもしれない。

「ですが、万が一もあり得ます。念のために屋敷を見張らせている方々は引き上げさせてください」
「我らへのご配慮痛み入りますが、ご懸念には及びません」
「学園にケヴィンが来たとの情報が入った段階で引き上げを命じております」

 さすが有能な手足ブレインである。仕事が早い。

「ですが一つ解せません」

 彼らの話は理解できたが、不可解な点がまだ残っている。

「学園でケヴィン様の姿を目撃しているのに、どうして所在が分からないの?」
「ケヴィンを見つけたのは本当に偶然でして、その場にいたのはハンス一人だけだったのです――」

 彼は尾行するか仲間に連絡を取るか、どちらを優先するかに迷ったらしい。

 尾行をすればケヴィンの所在や企みを知る事ができるかもしれない。それに、仲間へケヴィンの来訪を知らせに行けばケヴィンの動向を見失ってしまうだろう。

 ハンスは迷いに迷ったが、けっきょく彼は仲間との情報共有を優先したらしい。

「申し訳ございません、我らの手落ちです」
「いいえ、ハンス様はとても良い状況判断をされたわ」

 尾行をすれば多くの情報を入手できたかもしれない。だが、仲間への連絡が遅くなってしまう。場合によっては手遅れとなる可能性もある。

 最悪のケースは尾行がバレて捕まる事だ。そうなれば、ウェルシェ達はケヴィンの到来を知らずに警戒が薄い状態であっただろうし、数少ない同志を失っていたかもしれない。

 ウェルシェに聞かされた想定にジョウジは眉を寄せた。

「失う……ケヴィンがそこまでするでしょうか?」

 いくらなんでも同じ学園に通った生徒を害するだろうか?

「セギュル夫人にそそのかされたとは言え、ケヴィン様は私を力尽くで手折たおろうとなさっているのよ?」
「……そうですね、あいつに常識はありませんでした」
「風貌からも既に常軌を逸した雰囲気があったそうですしね」
「そう……だから、ハンス様が功を焦らず報連相を大切にしたのはむしろ褒めるべきなのよ」

 ジョウジはハンスの取った選択を非難せず称賛したウェルシェに感心した。おそらくハンスが尾行する選択をして情報を持ち帰ってきてもウェルシェは同じように褒め称えただろう。
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