14 / 64
本編
14. 返せぬ恩
しおりを挟む
「……手紙? 私にですか?」
「ええ、教会の方から回ってきました」
森の浄化を済ませた私が教会に戻ると、シスター・ジェルマに呼び出され、彼女の下へと赴き、彼女から一通の手紙を手渡されました。彼女の顔が優れないところを見ると、彼女は内容を既に知っており且つあまり良い報せではないようです。
手紙を裏返せば差出人は確かに見覚えのある名前でシェーラとありました。シェーラさんはエンゾ様の側にいつも控えていた尼僧なのです。
「彼女からどうして?」
彼女と仲が悪いわけではありませんでしたが、手紙を遣り取りするくらい特に仲が良かったわけでもありません。その手紙の意図が分からず小首を傾げ、封を切って手紙を読んで私は崩れ落ちました。
「う……そ……」
王都のシェーラさんがその手紙で報せてきたのは――
「いやぁぁぁあ!!!」
――エンゾ様の訃報でした。
「うわぁぁぁあ! エンゾ様、エンゾ様、エンゾ様……」
私は自らを掻き抱き、泣き崩れました。
思い出されるのは、聖女としてお会いしてからずっと私を導いて下さった日々……
「私……何も……」
流れる涙はとめどもなく、拭っても拭っても次から次へ溢れ出し、それとともに私の胸の奥底から悲しみと後悔も溢れ出したのです。
思い出されるのは、エンゾ様から頂いたものの数々……
いっぱいいっぱい褒めてくれた、優しさをくれた、導いてくれた。
何度も何度も諭してくれて、助けてくれて、ありがとうと言ってくれた。
それなのに私はエンゾ様の死に目にも会えず、何もお返しする事ができず、あまつさえ私のせいであの方に苦労を掛けてしまったのです。
私が辺境の地で三年の月日を過ごして、色々なものが大きく変わったのと同じように、当たり前ですが王都もまた三年という時間が経過し、多くの変化が起きていたのでした。
エリーがアルス殿下と結ばれ王子妃となり、聖女の務めを全て放棄してしまいました。そのせいで引退する筈だったエンゾ様に皺寄せがきたのです。
エンゾ様は無理を押して、お一人で『聖務』に取り組み、その寿命を縮めてしまわれたのです。
「申し訳ありません……エンゾ様……申し訳ありません……」
これは全ては私の至らなさが招いた結果です。
私がエリーの教育に失敗し、私がアルス殿下との関係を保てず、私が断罪され、私が婚約破棄され、私が辺境の地へ追放され、私が……私が……私が……
エンゾ様が過労で倒れても、私に報せを送ろうとしたシェーラさんを止めたそうです。エンゾ様は私に何も報せるなと、全てが終わるまで報せるなと。
エンゾ様は分かっておいでだったのです。もし私がエンゾ様の危篤を知れば、禁を破ってでも王都へ戻るだろうと。だから、エンゾ様は固く私への連絡を禁じたのです。
他にも、エンゾ様のご様子を危惧した王都の教会では、私の冤罪を晴らし連れ戻そうとの動きもあったようです。ですが、それもエンゾ様が強く止めたようです。
私が聖女として王都に戻れば自分と同じように使い潰される。エンゾ様がそう判断される程、今の王家は酷い有り様だったのです。
私はそんな王都の状況も知らず、この地で安穏と過ごしていました。
最後の最後まで何も知らずに、私はエンゾ様に守られていたのです。
「シスター・ミレ……」
シスター・ジェルマが床に座り込み、ひたすらに悔恨の涙を流す私を抱擁して、頭を優しく撫で、あやす様に背中を軽く叩いて慰めてくれました。
その時はそんな優しい労りさえも私の心を抉ったのでした。
「エンゾ様ぁ、エンゾ様ぁ、エンゾ様ぁ、謝りたいのです、お礼を言いたいのです……エンゾ様にお会いしたいのです……」
私はシスター・ジェルマの胸にしがみつき、幼女の様にひたすらに大声で泣き続けました。
「ええ、教会の方から回ってきました」
森の浄化を済ませた私が教会に戻ると、シスター・ジェルマに呼び出され、彼女の下へと赴き、彼女から一通の手紙を手渡されました。彼女の顔が優れないところを見ると、彼女は内容を既に知っており且つあまり良い報せではないようです。
手紙を裏返せば差出人は確かに見覚えのある名前でシェーラとありました。シェーラさんはエンゾ様の側にいつも控えていた尼僧なのです。
「彼女からどうして?」
彼女と仲が悪いわけではありませんでしたが、手紙を遣り取りするくらい特に仲が良かったわけでもありません。その手紙の意図が分からず小首を傾げ、封を切って手紙を読んで私は崩れ落ちました。
「う……そ……」
王都のシェーラさんがその手紙で報せてきたのは――
「いやぁぁぁあ!!!」
――エンゾ様の訃報でした。
「うわぁぁぁあ! エンゾ様、エンゾ様、エンゾ様……」
私は自らを掻き抱き、泣き崩れました。
思い出されるのは、聖女としてお会いしてからずっと私を導いて下さった日々……
「私……何も……」
流れる涙はとめどもなく、拭っても拭っても次から次へ溢れ出し、それとともに私の胸の奥底から悲しみと後悔も溢れ出したのです。
思い出されるのは、エンゾ様から頂いたものの数々……
いっぱいいっぱい褒めてくれた、優しさをくれた、導いてくれた。
何度も何度も諭してくれて、助けてくれて、ありがとうと言ってくれた。
それなのに私はエンゾ様の死に目にも会えず、何もお返しする事ができず、あまつさえ私のせいであの方に苦労を掛けてしまったのです。
私が辺境の地で三年の月日を過ごして、色々なものが大きく変わったのと同じように、当たり前ですが王都もまた三年という時間が経過し、多くの変化が起きていたのでした。
エリーがアルス殿下と結ばれ王子妃となり、聖女の務めを全て放棄してしまいました。そのせいで引退する筈だったエンゾ様に皺寄せがきたのです。
エンゾ様は無理を押して、お一人で『聖務』に取り組み、その寿命を縮めてしまわれたのです。
「申し訳ありません……エンゾ様……申し訳ありません……」
これは全ては私の至らなさが招いた結果です。
私がエリーの教育に失敗し、私がアルス殿下との関係を保てず、私が断罪され、私が婚約破棄され、私が辺境の地へ追放され、私が……私が……私が……
エンゾ様が過労で倒れても、私に報せを送ろうとしたシェーラさんを止めたそうです。エンゾ様は私に何も報せるなと、全てが終わるまで報せるなと。
エンゾ様は分かっておいでだったのです。もし私がエンゾ様の危篤を知れば、禁を破ってでも王都へ戻るだろうと。だから、エンゾ様は固く私への連絡を禁じたのです。
他にも、エンゾ様のご様子を危惧した王都の教会では、私の冤罪を晴らし連れ戻そうとの動きもあったようです。ですが、それもエンゾ様が強く止めたようです。
私が聖女として王都に戻れば自分と同じように使い潰される。エンゾ様がそう判断される程、今の王家は酷い有り様だったのです。
私はそんな王都の状況も知らず、この地で安穏と過ごしていました。
最後の最後まで何も知らずに、私はエンゾ様に守られていたのです。
「シスター・ミレ……」
シスター・ジェルマが床に座り込み、ひたすらに悔恨の涙を流す私を抱擁して、頭を優しく撫で、あやす様に背中を軽く叩いて慰めてくれました。
その時はそんな優しい労りさえも私の心を抉ったのでした。
「エンゾ様ぁ、エンゾ様ぁ、エンゾ様ぁ、謝りたいのです、お礼を言いたいのです……エンゾ様にお会いしたいのです……」
私はシスター・ジェルマの胸にしがみつき、幼女の様にひたすらに大声で泣き続けました。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
【完結】貴女にヒロインが務まるかしら?
芹澤紗凪
ファンタジー
※一幕完結済。またご要望などあれば再開するかもしれません
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した元・大女優の主人公。
同じく転生者である腹黒ヒロインの策略を知り、破滅を回避するため、そして女優のプライドを懸け、その完璧な演技力で『真のヒロイン』に成り変わる物語。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
冷遇されている令嬢に転生したけど図太く生きていたら聖女に成り上がりました
富士山のぼり
恋愛
何処にでもいる普通のOLである私は事故にあって異世界に転生した。
転生先は入り婿の駄目な父親と後妻である母とその娘にいびられている令嬢だった。
でも現代日本育ちの図太い神経で平然と生きていたらいつの間にか聖女と呼ばれるようになっていた。
別にそんな事望んでなかったんだけど……。
「そんな口の利き方を私にしていいと思っている訳? 後悔するわよ。」
「下らない事はいい加減にしなさい。後悔する事になるのはあなたよ。」
強気で物事にあまり動じない系女子の異世界転生話。
※小説家になろうの方にも掲載しています。あちらが修正版です。
冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!
山田 バルス
恋愛
婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる