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本編
13. 賛辞と感謝
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――辺境の地リアフローデンへ追放されて3年目の夏……
「暑くなってきたわね」
強い陽射しを遮る様に、私は手を額に翳しました。
夏の強い日差しに肌が焼け、じっとりと汗が滲み出てきましたが、同時にこの光と熱が大地に降り注ぎ生命を育んでくれてもいる。
だからリアフローデンには『魔』が蔓延っていても、緑に溢れ、生き物が息づき、みなが一生懸命に生きているのです。
そう……
この辺境の地は確かに『魔獣』が徘徊する恐ろしい所ですが、それ以上に自然の生命力に圧倒もされるのです。大河が流れ、木々が生い茂り、動物達が元気に跳ね回る。そんな生命が息づいていて街とは違う活力に満ち満ちていました。
森の『魔』を祓い清めると、清々しい草木の青い匂い、吹き抜ける心地よい風、楽し気な動物達の歌声、虫達も活発に動き回り、差し込む木漏れ日も明るく輝いて神秘的に見えます。
これが辺境と呼ばれたこの地の本当の姿。そんな森の清浄な呼吸を感じて私も内から活力が湧き上がってくるのです。
「森の雰囲気が変わったな」
「ああ、空気が軽いのが分かる」
「ホントにすげぇぜ」
私が森を侵食していた『魔』を祓うのに護衛として同行してくれた町の方々が感嘆を漏らしました。
そうなのです。今の私は1人ではありませんでした。
当たり前の事ですが、この地にも根付いている人達がいます。この辺境の地でも人々は強く生きているのです。それなのに私はこの地に追放された時に何に絶望し、何を恐れていたのでしょう?
「また正常な森が広がったな」
「ああ、これで昨年よりも多い収穫が得られそうだ」
「それにしても俺達って必要なのか?」
「確かに見てるだけだからな」
「シスター・ミレばかりを働かせてすまんなぁ」
この3年、私はもう聖女ではありませんが、このリアフローデンの為に『魔獣』を討伐し、『魔』を浄化し、大地を癒してきましたが、彼らは自主的に同行を申し出てくれました。
「いいえ、一緒にいてくれてとても心強いですよ。確かに浄化は『魔』を祓う行為ですから『魔獣』も近づくのを嫌い滅多に遭遇はしませんが、全く無いわけではありません。ですから王都では騎士団の方々が随伴してくれていたのです」
「そうは言われてもなぁ」
「実際のところ『魔獣』と遭遇してないだろ」
「ああ、俺達なぁんにもしてないから心苦しくって」
彼らが申し訳なさそうな表情をするので、私は首を振って否定し、感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
「そんな……本当に付いて来て頂きありがとうございます」
「ちょっとちょっと頭を上げてくれ!」
「感謝するのは俺達の方だって!」
「全くだ。本当にシスターには感謝してるんだぜ」
「ありがとうなミレさん」
それから彼らが次々に感謝の言葉を口にするので、その真っ正面からくる気持ちに気恥ずかしくなって、どうしたら良いか分からず胸の前でしきりに手を摩る私の顔はきっと真っ赤になっていたでしょう。
ですが、胸の内はとても温かいもので満たされて……
ああ、これが幸せなんだと、不思議とすとんと腑に落ちたのでした。
考えてみれば私はよく褒め言葉を貰いました。家格を褒められ、容姿を褒められ、所作を褒められ、才覚を褒められ、聖女の行いを褒められ、だから私の行いで喜ばれたり感謝されたりといった経験は、これまでありませんでした。
その事に気がついて、王都での私はやはり傲慢だった、思い上がっていたのだと痛感させられました。
昔の私は聖女としての務めを果たせばよいと、それが国の為、人々の為になれば皆が認めてくれるのだと勝手に思っていたのです。
ですが、会ったこともない他人の行いに真に感謝の念を抱くのは難しいのです。だから、彼らにとって目に見えない聖女の働きなどよりも。目の前で奇跡を行ってくれたエリーの方に信を置くのは当たり前でしょう。
そうです、私は人々に『恩恵を与えて』あげているのだと思い上がっていました。そして、助けるべき人達と真っ正面から向き合ってはいませんでした。
時折、エンゾ様が私に寂しい目を向けていたのはそのせいだったのですね。きっと呆れていらっしゃったのだわ。
シスター・ジェルマも言っていたではないですか。人の価値は周囲から決められたものだと。目に見えないものにいったい誰が価値を付けられるでしょうか?
私の価値を無価値なものにしていたのは、他でもない私自身だったのです。
私は今の自信の幸せを噛み締めて頭を深々と下げました。
「皆さん……ありがとうございます」
「いやだからさ」
「なんだかなぁ」
「もういいや、お互いありがとうって事にしとこうや」
そう言って皆で笑い合える暮らしに出会えた。こんな充実した毎日を今は過ごしている。だからもう王都の生活に戻りたいとは露にも思いませんでした。
確かに辺境の地での日々の暮らしは辛く厳しいものです。
ですが私は今この時、この場所で生きて、活きています。
「暑くなってきたわね」
強い陽射しを遮る様に、私は手を額に翳しました。
夏の強い日差しに肌が焼け、じっとりと汗が滲み出てきましたが、同時にこの光と熱が大地に降り注ぎ生命を育んでくれてもいる。
だからリアフローデンには『魔』が蔓延っていても、緑に溢れ、生き物が息づき、みなが一生懸命に生きているのです。
そう……
この辺境の地は確かに『魔獣』が徘徊する恐ろしい所ですが、それ以上に自然の生命力に圧倒もされるのです。大河が流れ、木々が生い茂り、動物達が元気に跳ね回る。そんな生命が息づいていて街とは違う活力に満ち満ちていました。
森の『魔』を祓い清めると、清々しい草木の青い匂い、吹き抜ける心地よい風、楽し気な動物達の歌声、虫達も活発に動き回り、差し込む木漏れ日も明るく輝いて神秘的に見えます。
これが辺境と呼ばれたこの地の本当の姿。そんな森の清浄な呼吸を感じて私も内から活力が湧き上がってくるのです。
「森の雰囲気が変わったな」
「ああ、空気が軽いのが分かる」
「ホントにすげぇぜ」
私が森を侵食していた『魔』を祓うのに護衛として同行してくれた町の方々が感嘆を漏らしました。
そうなのです。今の私は1人ではありませんでした。
当たり前の事ですが、この地にも根付いている人達がいます。この辺境の地でも人々は強く生きているのです。それなのに私はこの地に追放された時に何に絶望し、何を恐れていたのでしょう?
「また正常な森が広がったな」
「ああ、これで昨年よりも多い収穫が得られそうだ」
「それにしても俺達って必要なのか?」
「確かに見てるだけだからな」
「シスター・ミレばかりを働かせてすまんなぁ」
この3年、私はもう聖女ではありませんが、このリアフローデンの為に『魔獣』を討伐し、『魔』を浄化し、大地を癒してきましたが、彼らは自主的に同行を申し出てくれました。
「いいえ、一緒にいてくれてとても心強いですよ。確かに浄化は『魔』を祓う行為ですから『魔獣』も近づくのを嫌い滅多に遭遇はしませんが、全く無いわけではありません。ですから王都では騎士団の方々が随伴してくれていたのです」
「そうは言われてもなぁ」
「実際のところ『魔獣』と遭遇してないだろ」
「ああ、俺達なぁんにもしてないから心苦しくって」
彼らが申し訳なさそうな表情をするので、私は首を振って否定し、感謝の気持ちを込めて頭を下げた。
「そんな……本当に付いて来て頂きありがとうございます」
「ちょっとちょっと頭を上げてくれ!」
「感謝するのは俺達の方だって!」
「全くだ。本当にシスターには感謝してるんだぜ」
「ありがとうなミレさん」
それから彼らが次々に感謝の言葉を口にするので、その真っ正面からくる気持ちに気恥ずかしくなって、どうしたら良いか分からず胸の前でしきりに手を摩る私の顔はきっと真っ赤になっていたでしょう。
ですが、胸の内はとても温かいもので満たされて……
ああ、これが幸せなんだと、不思議とすとんと腑に落ちたのでした。
考えてみれば私はよく褒め言葉を貰いました。家格を褒められ、容姿を褒められ、所作を褒められ、才覚を褒められ、聖女の行いを褒められ、だから私の行いで喜ばれたり感謝されたりといった経験は、これまでありませんでした。
その事に気がついて、王都での私はやはり傲慢だった、思い上がっていたのだと痛感させられました。
昔の私は聖女としての務めを果たせばよいと、それが国の為、人々の為になれば皆が認めてくれるのだと勝手に思っていたのです。
ですが、会ったこともない他人の行いに真に感謝の念を抱くのは難しいのです。だから、彼らにとって目に見えない聖女の働きなどよりも。目の前で奇跡を行ってくれたエリーの方に信を置くのは当たり前でしょう。
そうです、私は人々に『恩恵を与えて』あげているのだと思い上がっていました。そして、助けるべき人達と真っ正面から向き合ってはいませんでした。
時折、エンゾ様が私に寂しい目を向けていたのはそのせいだったのですね。きっと呆れていらっしゃったのだわ。
シスター・ジェルマも言っていたではないですか。人の価値は周囲から決められたものだと。目に見えないものにいったい誰が価値を付けられるでしょうか?
私の価値を無価値なものにしていたのは、他でもない私自身だったのです。
私は今の自信の幸せを噛み締めて頭を深々と下げました。
「皆さん……ありがとうございます」
「いやだからさ」
「なんだかなぁ」
「もういいや、お互いありがとうって事にしとこうや」
そう言って皆で笑い合える暮らしに出会えた。こんな充実した毎日を今は過ごしている。だからもう王都の生活に戻りたいとは露にも思いませんでした。
確かに辺境の地での日々の暮らしは辛く厳しいものです。
ですが私は今この時、この場所で生きて、活きています。
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