「結婚しよう」

まひる

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第九章

9.溶け合って【3】

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 そうして新たな自分の感情を自覚した時、ゆっくりと扉を叩く音が聞こえて私は我に返りました。
 今の私は、ベッドで半身起こしたヴォルに詰め寄る体勢です。これは不本意ながら、私が襲っているように見えました。
 そして間違いなくノックの相手はベンダーツさんです。私は慌てて身体を起こし、何事もなかったかのように扉に向き直りました。

「何だ、入れ」

「入っても……問題ないかな?」

 ヴォルの返答を聞き、ゆっくりと扉が開かれてベンダーツさんが顔を覗かせます。
 逆にかなり気を使わせたようでした。すみません、色々と危なかったです。

「いやねぇ、俺も野暮な事はしたくないんでさ。とりあえず同室だから入室の合図はするけど、いちゃつくのは俺が確実に戻らない時にしてくれよな?あ、いつものじゃれ合いくらいなら我慢するけどね」

 そう首を軽く振りながら告げるベンダーツさんでした。
 洗い終わったお皿を持って帰ってきたベンダーツさんは、それらを片付けながら私達に聞こえるように溜め息をきます。
 そもそもベンダーツさんからしたら、私達は普段からじゃれ合っているような言い方でした。そして違いますとも言えないのが悲しいところです。
 私は抱き枕に徹する事が出来ていないのでした。

「メルが船内を見て回りたいそうだ」

 先程のベンダーツさんの言葉にれる事なく、ヴォルは私の希望を伝えます。

「船内を?たいして楽しくもないと思うけど、ヴォルは行けるのか?あ~……行けなくても行くって言うよね、聞いた俺が間抜けだった。うん、当たり前だよな」

 ヴォルの返答を待つでもなく、ベンダーツさんは答えを導き出したようでした。
 聞かずともヴォルの顔を見れば分かります。ましてや、先程より顔色が良いのですから尚更でした。

「まぁ……船員は一通り素性を確認してるから、大きな問題はないと思う。でもいくら俺でも、この短時間で乗客全てを確認した訳じゃないからな。メルは必ずヴォルと一緒に行動する事、約束だ」

 真面目な表情でのベンダーツさんの注意に、私はコクコクと頷きます。──それよりも船員さんの素性まで確認しているとか、ベンダーツさん凄すぎでした。乗客全ての確認なんて、誰が求めているのでしょう。
 そしてこの間に既に着替えを済ませているヴォルは早過ぎでした。先程までベッドで横になっていたのにです。
 ヴォルの船内散策用の服装は目立たないようにか、冒険者風ではなくて白シャツに動きやすそうなパンツでした。

「はぁ、やる気だけは十分だな。……さすがに三人でウロウロしていたら怪しいだろうから、俺はここに残るよ」

「分かった」

「はい、行ってきます」

 ベンダーツさんの言い分に納得しつつ、ヴォルと私は首肯します。
 私としてはヴォルも一緒だし、船内は魔封石完備なので魔物は来ない筈でした。思ったより簡単に外出許可が出た事には驚きましたが、それだけ安全であると判断されたのでしょう。

「初めは何処から行きたい」

 部屋を出てすぐ、ヴォルから問い掛けられました。
 目の前の通路の壁に、船内案内表示看板があります。

「あ、そうですね。えっと、まずは外が良いです。このすぐ上ですよね?それから一つずつ下を見ていきたいですが、ヴォルは身体の調子は良いですか?」

「問題ない」

 「では、お願いします」

 私は看板がを見ながら少し考え、やはり先に外の景色を見たいと思いました。
 ヴォルの体調が心配でしたが問題ないようなので、二人でそのまま手始めに甲板へ向かいます。──朝に船へ乗り込んだばかりなので、まだ一日も経っていない筈でした。
 それでも外に出たら思ったより暗くなっていて、船酔いの為に勿体無い時間を過ごしてしまったのだと気付きます。
 夕日を見逃してしまいました。
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