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第四章
2.どうすれば良い【5】
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「彼が、そう言ったのですか?」
久し振りの鋭い問い掛けです。細めた灰色の瞳を真っ直ぐ向けてくるベンダーツさんに、私は周囲の気温が凍り付いていく気がしました。
「ぅ……、そう……です」
「それはいつですか」
「えっ……。出会って、すぐ……です」
視線が痛いですよ。突き刺さりそうです。
ベンダーツさんにジッと見据えられ、私は氷になりそうでした。
「……あの方は……、分かりました。その話はもう宜しいです」
再び溜め息をつかれましたが、どうやらお話は終わったようです。──良かったです。
ベンダーツさんの瞳から先程の鋭さがなくなりました。私はホッとしすぎて、思わず腰が砕けそうになります。その場にお尻をついてしまいそうで慌ててしまいました。
でも、この話は終わった訳ではなかったようです。何故か勉強後、ヴォルと一緒にベンダーツさんの部屋に呼ばれてしまいました。
普段なら夕食も済ませた後の日も暮れたこんな時間に、二人して呼び出される事などないのです。
「……何だ」
相変わらず、ベンダーツさんと向き合うと不機嫌になるヴォルです。腕を組んで私の隣に立ったまま、眉根を寄せてベンダーツさんを見ていました。──というか、殆ど睨んでいますね。
「何だ、ではありません。私の方がヴォルティ様に聞きたいのです」
対して、努めて冷静に口を開くベンダーツさんです。
話の内容は予想通りというか、昼間私が話した事でした。
「どういう求婚をしたら、あの様な言葉が出てくるのですか」
「…………」
真っ直ぐ視線を向けるベンダーツさんに、ヴォルも視線だけは逸らしません。でも無言です。
「三年もかかって見付けてきた女性は、事もあろうか農村の出身。更に貴族どころか親無しの、です。それでも好き合っているのかと思いきや、興味がないからという理由とは聞いて呆れました。ヴォルティ様は何をお考えですか。この国を廃するおつもりですか?」
「……別に俺がこの国を担う訳ではないだろう」
事実のみを告げているかのように思えるベンダーツさんの言葉ですが、その中に怒りが混ざっているように思います。
漸く口を開いたヴォルは、すぐにフイッと視線を逸らしました。何処か拗ねているような、不満げな態度に見えます。それを見たベンダーツさんは、ゆっくりと片眼鏡を外します。
すると不思議な事に、急に雰囲気が変わりました。
「何を拗ねてるんだ、馬鹿が。どうせ婚儀の前に皇妃様に言われた事を気にしてるんだろう。嫌味を言われたなら、言い返すくらいしたらどうだ。嫌がらせのつもりで見付けてきた女か?それなら俺がもらってやる。初そうだし、調教するのも楽しそうだな」
「メルは渡さないっ。絶対にっ!」
真面目でお堅いベンダーツさんの、突然に変わった乱暴な口調。それに噛み付きそうな程、ヴォルが目を開いて怒鳴りました。
──な…………、何が起こっているのでしょうか。ベンダーツさん、片眼鏡を外した途端に人が変わってしまいましたけど?それに、ヴォルが物凄く怒っています。
私は急変した状況に対応出来ず、二人を見比べるように目を泳がせるだけでした。
「そう言っていられるのも今のうちだ。どうせ、手の出し方も分からないのだろ?何なら目の前で、俺がその女を使って手取り足取り教えてやろうか……っ」
ガツッと、鈍い音がしました。
もう私は目が点です。ヴォルがベンダーツさんを──多分思い切り、拳で殴っていました。いえ、気付いたら拳を握り締めたヴォルが立っていて、ベンダーツさんが近くのテーブルを押し倒す形で倒れています。
テーブルの上に乗っていたグラスと花瓶が、数瞬後に激しい音を立てて砕け散りました。
久し振りの鋭い問い掛けです。細めた灰色の瞳を真っ直ぐ向けてくるベンダーツさんに、私は周囲の気温が凍り付いていく気がしました。
「ぅ……、そう……です」
「それはいつですか」
「えっ……。出会って、すぐ……です」
視線が痛いですよ。突き刺さりそうです。
ベンダーツさんにジッと見据えられ、私は氷になりそうでした。
「……あの方は……、分かりました。その話はもう宜しいです」
再び溜め息をつかれましたが、どうやらお話は終わったようです。──良かったです。
ベンダーツさんの瞳から先程の鋭さがなくなりました。私はホッとしすぎて、思わず腰が砕けそうになります。その場にお尻をついてしまいそうで慌ててしまいました。
でも、この話は終わった訳ではなかったようです。何故か勉強後、ヴォルと一緒にベンダーツさんの部屋に呼ばれてしまいました。
普段なら夕食も済ませた後の日も暮れたこんな時間に、二人して呼び出される事などないのです。
「……何だ」
相変わらず、ベンダーツさんと向き合うと不機嫌になるヴォルです。腕を組んで私の隣に立ったまま、眉根を寄せてベンダーツさんを見ていました。──というか、殆ど睨んでいますね。
「何だ、ではありません。私の方がヴォルティ様に聞きたいのです」
対して、努めて冷静に口を開くベンダーツさんです。
話の内容は予想通りというか、昼間私が話した事でした。
「どういう求婚をしたら、あの様な言葉が出てくるのですか」
「…………」
真っ直ぐ視線を向けるベンダーツさんに、ヴォルも視線だけは逸らしません。でも無言です。
「三年もかかって見付けてきた女性は、事もあろうか農村の出身。更に貴族どころか親無しの、です。それでも好き合っているのかと思いきや、興味がないからという理由とは聞いて呆れました。ヴォルティ様は何をお考えですか。この国を廃するおつもりですか?」
「……別に俺がこの国を担う訳ではないだろう」
事実のみを告げているかのように思えるベンダーツさんの言葉ですが、その中に怒りが混ざっているように思います。
漸く口を開いたヴォルは、すぐにフイッと視線を逸らしました。何処か拗ねているような、不満げな態度に見えます。それを見たベンダーツさんは、ゆっくりと片眼鏡を外します。
すると不思議な事に、急に雰囲気が変わりました。
「何を拗ねてるんだ、馬鹿が。どうせ婚儀の前に皇妃様に言われた事を気にしてるんだろう。嫌味を言われたなら、言い返すくらいしたらどうだ。嫌がらせのつもりで見付けてきた女か?それなら俺がもらってやる。初そうだし、調教するのも楽しそうだな」
「メルは渡さないっ。絶対にっ!」
真面目でお堅いベンダーツさんの、突然に変わった乱暴な口調。それに噛み付きそうな程、ヴォルが目を開いて怒鳴りました。
──な…………、何が起こっているのでしょうか。ベンダーツさん、片眼鏡を外した途端に人が変わってしまいましたけど?それに、ヴォルが物凄く怒っています。
私は急変した状況に対応出来ず、二人を見比べるように目を泳がせるだけでした。
「そう言っていられるのも今のうちだ。どうせ、手の出し方も分からないのだろ?何なら目の前で、俺がその女を使って手取り足取り教えてやろうか……っ」
ガツッと、鈍い音がしました。
もう私は目が点です。ヴォルがベンダーツさんを──多分思い切り、拳で殴っていました。いえ、気付いたら拳を握り締めたヴォルが立っていて、ベンダーツさんが近くのテーブルを押し倒す形で倒れています。
テーブルの上に乗っていたグラスと花瓶が、数瞬後に激しい音を立てて砕け散りました。
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