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ルーハドルツ編

貴方のお気に召さないみたいね

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 ロキが放った爆発が収まった。
 爆発の炎と煙がまだ残る中、アンナは祈るような気持ちで、ダミクの姿を確認するために目を凝らした。そして次の瞬間、アンナは幻でも見たかのようにその赤い目を見開いた。
 ダミクが先程と変わらない姿で同じ場所に立っていたからだ。


「いやぁ、焦ったね。ここが私の魔法で作った空間でなければやられていだだろうね。」


 平然と言葉を紡ぐダミクの様子に、アンナは血の気が引いていった。


「……まさか貴方の周りだけ別の空間にして攻撃が当たらないようにしたの?」


「その通りだよ。私が魔法を出す時だけ君たちが今いる空間と繋げていたんだ。残念だったね。空間を操る魔術師がいないと、私に攻撃することは不可能なんだよ。」


 つまり現状、ダミクに攻撃を当てる手段はないということ。そもそもダミクの攻撃を防ぐにしても、アンナの魔力も尽きかけている。


「私もここまで追い込まれたのは初めてだ。大したものだよ。自分の力を誇りながら死ぬといい。」


 ダミクはまた魔法を放とうとしている。どこまで食い下がれるかわからないがやるしかないと、アンナが腹を括った時だった。


「父さん!」


 空間が歪んで、その隙間からカルムが現れた。


「ああ。カルムか。ちょうどいいところにきた。ゴミ掃除をしているんだが、なかなかしぶといゴミでね、手伝ってくれないか?」


「…………父さん、もうやめて下さい。」


「カルム、シュナン家の人間としての役目を果たせ。」


 ダミクの声色が飄々としたものから、怒気を含んだ重いものに変わった。


「いいえ。父さん。
僕は父さんの考えに賛同できません。シュナン家のためにも父さんを止めます。」


「カルム。私はそんな馬鹿な息子は要らないよ。
いつもの賢い君に戻ってくれ。」


「自分に従わなければ馬鹿扱い?そんな単細胞な考え方しかできない貴方の方がよほど馬鹿ね。」


 クスクスと笑いながらアンナは言った。本当は魔力の使い過ぎで呼吸が苦しいけれど、そんな素振りは見せない。


「貴方の操り人形であることに飽きたでしょうから私の操り人形にしてあげたの。貴方のお気に召さないみたいね。」


 ダミクは心底鬱陶しそうにアンナを見る。


「……なるほど。いつも素直な息子がおかしいと思ったよ。どうやって私の息子に近づいたのか知らないが、君を殺せば魔法も解けるだろう?」
 

 どうやって近づいたも何もお宅の息子さんが私のことを誘拐したのよ、とは言えない。
 ダミクが魔法を放つ準備をしている。


「戦ってでも、僕は父さんを止めます。」


「全く、面倒な……。
私も魔女との戦いでかなり魔力を使ったからね、今の状況で長期戦はしたくないんだ。悪いが一発で片付けさせてもらうよ。」


「望むところです。」


 アンナ、防御壁を張ってと、カルムからテレパシーが送られてきた。アンナは首を傾げながらも、言われた通りロキとミレイと一緒に自分を魔法のバリアで包んだ。


終末の暴風テンペスト


 ダミクとカルムは全く同じ魔法を唱えた。恐らく風の魔法の最大魔術だろう。
 カルムがアンナに防御壁を張らせた理由がすぐにわかった。防御壁の外の空気という空気がカルムが起こした巨大な竜巻に吸い込まれていっている。

 カルムとダミクが発生させた竜巻が互いにぶつかる。耳を覆いたくなるような轟音が響いた。

 ダミクもそうだが、カルムの魔力も目を見張るものがある。カルムはまだ学生で鍛錬している最中だが、魔法の才能だけならダミクを超えると言われているそうだ。


「父さん、少し魔法の腕が鈍ったのではないですか?」


「言うようになったな。青二才が。」


 父と子の魔法での攻防は続いた。この天災とも呼べる状況に巻き込まれないように、アンナは必死で残りの魔力を使って防壁を守った。

 突然、ダミクの放った竜巻が消えた。
 何が起きたのか分からず、アンナは固まる。ミレイが斬撃を放ったからだと気がついたのは、少し遅れてからだった。


「先輩が戦ってるのに、私もいつまでも怯えている訳にはいかないから。」

 
 アンナが振り返ると、剣を構えた勇敢な少女の姿がそこにはあった。


 ダミクが倒れたことで空間の魔法が解けて、アンナ達は学園本部の廊下に戻ってきた。さっきまでの戦闘が嘘みたいに廊下は静まり返っている。
 ダミクは気を失っているようだ。一発蹴りを入れてやりたい気もしたが、それよりもまずは薬だとアンナは倉庫へ向かった。

 アンナが倉庫を開けると、倉庫の隅に大量の薬瓶が置かれていた。アンナは闇で包んで、薬を消滅させる。そこまで魔力を使う魔法ではないが、それでも額に汗が滲むほど、アンナは疲れていた。


「カルム、売人の方は?」


「帰らせたよ。取引は打ち切りだと。
ごねてきたけれど、警察に突き出すと言ったら諦めた。」


「流石ね。ありがとう。」


 安心すると一気にアンナの身体から力が抜けた。


「カルムが来てくれなかったら絶対に勝てなかったわ。」


「よく本気の父さん相手に持ち堪えたね。アンナが無事で本当によかった。」


 カルムは憑き物が落ちたような明るい表情をしていた。
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