関西桃産太郎

なおちか

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実をつけない桃の木

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太郎とおじいさんが案内されたのは、神主の住んでいる家でした。その家も社と同じく古びていて、新しい木材で補強されている箇所がいくつもありました。

「そこに座って待っとって下さい」神主にそう言われた2人は、玄関の上がりかまちで座って少しの間待っていました。すると奥から神主が巻かれた紙を手に戻ってきました。2人の横まで来て腰を下ろすと、神主は紙をスーっと広げて2人に見せました。そして、紙の後半部分に書いてある文字のところを指さしました。

「ここを見てください」

「なんて書いとるんじゃ?」おじいさんは字がほとんど読めないので太郎に聞きました。

「んー。ちょっとは読めるけど、ようわからん。なんて書いてるん?」太郎もまだそれほど読み書きが出来るわけでは無かったので神主に尋ねました。

神主は小さく頷くと、その一文を読みました。「赤子を身ごもった女の死体を源流そばの桃の木の下に埋めた。とあります」

「桃の木と赤子・・・」おじいさんはそう呟き、太郎を見ました。

「これが書かれたのは、さっき話した村が襲われた時のことだと聞いてます。それから150年程経っとるんで、さすがに何の関係も無いかもしれませんが、桃から産まれたと言う話を聞いて、この文を思い出しましてな」

「太郎が桃から産まれたのは間違いない話です。この文は手掛かりになるかもしれへん。他に何が書かれてるんですか?」

「ここに書かれてるのは、何人もの死体を埋めた事、鬼に襲われた事、その鬼達は南へ去って言った事ですな」

「お父はん、鬼って大きなおっかないやつやんな?」

「せや。ごっつ怖いやつや」

「まぁ、残虐非道に村が襲われたんで、その襲ってきた人らが鬼に見えたんでしょうな。その時の事が記録されてる紙はあと何枚かあるんですが、桃の事が書かれてるのはこの部分だけです」そう言って神主は紙をくるくると巻くと立ち上がり奥の部屋に歩いて行きました。太郎は少し俯いて何かを考えていて、真剣な太郎の顔を見たおじいさんは黙って隣で座っていました。少しすると、神主が戻ってきました。

「茶でも飲んでいってください」そう言いながら神主は囲炉裏の炭に火を付けようとしました。

その時、俯いていた太郎は顔を上げて「おっちゃん、さっきの桃の木って近くにある?」と聞きました。

「あぁ、あるで。そこの川の源流はすぐそこやからね。案内しよか」

「うん!」

3人は家を出て川に沿って山を上がっていきました。そして、小さな池が見えたところで神主は足を止めました。

「あれ?」

「どうしたん?」太郎は神主に尋ねました。

「あそこの木が桃の木なんやけど、おかしいんや」神主は5m程向こうにある木を指さして言いました。太郎達がその指を辿って視線を向けると、冬の木のように葉っぱが1枚もない桃の木がありました。「この時期に桃は実をつけるもんなんや。せやのに、実どころか葉っぱ1枚あらへん」

太郎は池の淵をゆっくりと歩き、桃の木のそばまで来ました。木の根元には苔の生えた小さな石碑のような物があり、太郎は手を合わせました。少し遅れてきたおじいさんと神主も静かに手を合わせ目を閉じました。池の底から水は湧き出ていて、水面に輪が広がっていき、その小さな波を太陽がキラキラと輝かせていました。
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