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【 ああ・・・今日も私のルカが可愛い。可愛すぎて、最早直視できない、辛い。熱は下がったと聞いたがやはりもう一度医者に見せよう、さっきから顔が赤い。私のルカに何かあっては大変だ。ルカに何かあったら・・・私も後を追って死ぬ。それにしてもルカはどうしてこんなにも愛らしいのか。そうだ、今度画家を呼び、ルカを絵にしよう。部屋に飾って会えない時間もルカを愛でよう。 】


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!?」


え、めっちゃ喋るじゃん。
めっっちゃお喋りじゃん、テオフィル様。
間違いなくあの蝶の仕業だよね。何してくれてんの。
そしてあの蝶、本当に何者なの。


頭に直接響いてくるこれって、テオフィル様の心の声だよね。


テオフィル様ったら、今もそんな無表情なのに、心の中ではいつもこんなに喋ってるんですか?ギャップが凄い。
凄すぎて頭が付いていかない。


熱はもうすっかり下がりましたし、何ならいつもより食欲が増し増しで今にもお腹が鳴りそうです。
今日はいつもより(食べて良いのかも分からない)お菓子の量が多いから拷問状態です。
そんなこと言えませんけど・・・・・・って、僕も心の中じゃめっちゃ喋ってる。
人のこと言えない。
でもテオフィル様みたいに平然を装えない。動揺が隠しきれなくて顔が熱い。
耳も熱い。


だってこんなことになるなんて夢にも思ってなかったもので!





【 今日も菓子を用意させたが、やはり駄目か。ルカが私に会いたくないのは分かっているが、一日に一回はルカを見たい。お菓子で気を惹こうなど、子どものような真似までして、私の我儘に付き合わせてしまって申し訳ない。申し訳ないが、我慢できない。ルカ、好きだ。好きすぎて、傷つけてしまいそうで怖い。だから、これ以上近づけない。せっかく、ようやく、見つけた番だと言うのに近付けない。ああ、もどかしい。感情をコントロールできない・・・私はなんと未熟者なのだ。ルカは私のことをきっと恨んでいるのだろう。己の欲望に負け、村から無理矢理連れてきたのだ。すまない、ルカ。愛してしまって、すまない。ルカ。好きだ。 】

「・・・・・・・・・ひゃえ・・・・・・」





慌てて口を塞いだけど、遅かった。
顔が、さっきよりも熱い。
思わず声まで出てしまった。
どうしよう。
絶対変に思われた。


こ、この人・・・・・・、テオフィル様って、そんなに僕のこと好きだったの・・・?!!
そんな素振り一切見せなかったから分からなかった・・・!
いきなり王都に連れてこられたことに関しては、驚きはしたけど、テオフィル様を恨んでなんかこれっぽっちもいません。
むしろこんなに丁重に扱っていただいてすみません、って気持ちのほうが大きいです。


しかも未熟者って何!?
未熟者ではないでしょ、そんだけ気持ち隠せるなら。
どんな鍛錬を積んだらそんな表情を崩せずに過ごせるんですか。
わぁ~~~~~~!テオフィル様の心の声が~~~~!
甘すぎて照れてしまう~~~!
蝶さんよ、あんた本当に何してくれてんだよ~~~~!?





「・・・・・・・・・どうかしたのか。」

「・・・あ!えっと・・・その・・・」

「・・・・・・具合が悪いのか?」

「い、いえ、あの・・・・・・」




こ、これは心の声じゃない。
・・・テオフィル様、一見落ち着いて見えるのになぁ。
今も尚、心の中では僕のことめちゃくちゃ心配してくれてますね・・・。
あああ・・・!テオフィル様、僕は大丈夫なんです、健康なんです、愛の言葉に慣れてないから恥ずかしいだけなんです~~!
お願いだからそんなに心で騒がないでぇ・・・・・・・・・・・・って、直接言えばいいのか、僕が。
で、でも、ハードルが高す・・・・・・あああ・・・!
そんなこと考えてる間に恥ずかしさと混乱で目は泳ぐし、顔は赤くなるし、テオフィル様めっちゃ心配してる~・・・っ!


こうなったら腹を括るんだ、僕!大丈夫なことをアピールせねば・・・っ!





「あ、あにょ!で、で、で、殿下・・・!」

「・・・どうした?」





緊張しすぎて、噛んでしまった。恥ずかしい。

よりによって「あにょ!」だって。

しかもテオフィル様ったら落ち着いた声で僕に返事をしつつ、心の中では【 私のルカが噛んだ!可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い。でも流石にテオ、とは呼んではくれないか・・・殿下呼びか・・・ 】って、喜んだり、落ち込んだり。

心の中は忙しいなぁ、この人。





「・・・あ、の・・・お菓子、い、いただいても、よろしい、ですか・・・?げ、元気になったら、お腹が、すいて・・・しまいまして・・・その・・・」

「・・・勿論だ。君の為に用意した物だ。好きなだけ食べると良い。」
【 はぁ・・・可愛い。何なら私が食べさせたい。勿論私の膝の上に座らせて。それにしてもルカ、その上目遣いは無意識か?他の奴らには見せられん。私だけのルカ。可愛い。愛してる。好き。 】

「・・・・・・っ、あ、りがとうござい、ます。見たことが、ない・・・お菓子ばかりだったので、実は、今まで、い、いただいていいのか、分からなくて・・・えっと、い、いただき、ます・・・」

「・・・そうか。これから分からないことがある時はいつでも聞くと良い。」

「は、はい。・・・わぁ・・・!こ、こ、これ、とっても、美味しい、です。」






この時、僕が初めて手にとったお菓子は、後でアードラーさんに聞いたところによるとマフィンという物だった。
甘さが控えめだったけど、刻んだ干し葡萄?や木の実も入っていて、本当に美味しかった。


僕が夢中でもぐもぐしている時にもテオフィル様の実況中継は止まらなかったけど、食欲があって具合が悪いわけではない、とちゃんと伝わったようで安心した





「・・・また呼ぶ。」

「は、はい!あの、お、お菓子、ご馳走様でした・・・・・・テ・・・テオフィル様・・・」

「・・・・・・ああ。」
【 な、な、名前を!私のルカが名前を呼んでくれた!あああ・・・胸が苦しい。愛しさで胸がこんなにも苦しくなるのか・・・!?ルカ好き好き好き好き好き好き好き好き好 】

「で、で、では!失礼します!」





愛の詰まった・・・詰まりすぎた心の声に耐えきれなくなって、僕は逃げるように礼をして小走りで部屋に戻った。

その途中分かったことだけど、ある程度離れるとテオフィル様の心の声は聞こえなくなるらしい。
ブツっと途切れるようにして、聞こえなくなったから。





それにしても・・・・・・


「あの人、僕のこと好きすぎるんだな・・・」

「ようやくお気づきになりましたか?殿下も獣人ですから。表面は繕えても、獲物に対する執着心が抑えきれていませんからね。」

「%°\☆○×!!!?も、もうっ!!アードラーさん!!気配消して近づかないでください!!」

「ルカ様も満更でもないようですし、私は大変嬉しく思います。」

「~~~~っ!ちょっと黙っててください!!」

「・・・はは。承知致しました。」

「なに笑ってんですか!!」

「では、また何かありましたらお呼びください。」

「またって、そもそも今も呼んでないですけどぉーーーーー!!」





部屋を出て行く時、アードラーさんの尻尾は左右にゆらゆら揺れていた。
あからさまに喜んでますね、アードラーさん。
テオフィル様もあれくらい分かりやすかったらいいのに。

そんなことを考えながら、僕はいつものように出窓に座り、あの蝶を待っていたけどそれからしばらくあの蝶が姿を見せることはなく、真相を聞くことはできないまま時間が過ぎていった。


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