【完結】透明の石

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メラン編

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誕生石、というものをご存知だろうか?



"そちらの世界"では、1月ならガーネット、4月ならダイヤモンド、といった生まれた月に割り当てられた"宝石"のことを指す。

誕生石を埋め込んだ指輪やネックレスを身につけて、その加護に肖ろうとする人もいる。



だが、"こちらの世界"では、意味が異なる。

"こちらの世界"の誕生石は、文字通り、誕生するときに持っている石のことを指すのだ。

母体の中で、胎児が育つと同時に、胎児の小さな手の中で、誕生石も育っていく。

誕生石は胎児の"魔力"が少しずつ結晶化したものであり、手の中で"魔石"として目に見える形になっていくのである。




話しは変わるが、リーニャ村のとある夫婦の話をしよう。

幼馴染である、サキとアルトは18歳になってすぐ結婚し、翌年サキは子どもを身籠った。

出産の時は隣の村の産婆にお願いし、そりゃあもう、壮絶な痛みに耐えながらサキは初子を産んだのである。


「おめでとう。元気な男の子だ。大きな産声!元気に生まれたよ。そらっ、お母さんに抱っこしてもらいな。」

生まれたばかりの赤子のへその緒を、パチン、と切り、赤子をバスタオルでぐるぐる巻きにした。


「うっ、うっ、サキ、お疲れ様。ありがとう、ありがとう・・・俺たちの子どもを産んでくれてありがとう。」

ぐしゅ、ぐしゅ、っと鼻水も涙も垂れっぱなしの新米父、アルトは生命の神秘を目の当たりにして涙が止まらないのである。

「もう、アルトったら。そんなに鼻水垂らすなら抱っこさせられないよ。泣き止んで!」

ほら、早く!とサキに急かされ、アルトはハンカチで顔を拭いた。

「ふふ、可愛いねぇ。お顔、くしゃくしゃだ。さあ、愛しい子、おてての中を見せてね。」

何色かな、何色かな、とサキは赤子の小さな指を一本ずつ、優しく開いていった。

「俺とサキが"朱"なんだから、きっと"朱"だよ!サキが落ち着いたら朱神様にご挨拶しに行かなきゃな!」

鼻息をフンッと吐き、アルトは自信満々な顔で、小さな手を見ている。


赤子の小さな指が全部開かれた。
コロンと小さな、小さな"誕生石"が見える。






「「・・・透明?」」






この小さな赤子こと、俺、トウヤの手の中にあったのは、"透明の誕生石"だった。
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