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『・・・も、う・・・居な・・・い・・・?』

『え、ええ。半年程前にどこかの貴族様の養子になったそうで・・・。私はその後にここへ来ましたから、その子のことはよく知らないのです・・・申し訳ございません、公爵様。』

『・・・良かったじゃないか、フィン。その子もきっとどこかでしあわ』『よくありませんっ!!』

バンっと思わず机を叩き立ち上がる。
胸がどくどくと嫌な音を立て、背中には汗が伝った。
これは怒りなのか、悲しみなのか、はたまた僕の知らない感情なのか。それすら分からない。
怯えたシスターの顔に気づいて『取り乱して申し訳ありません』とソファに腰を下ろした。





あの日『アル兄』と呼ばれた少年をエバンズ家の養子に出来ないか、と父に相談したのは紛れもなく僕自身だった。
父は困惑した顔で理由を聞いてきたが、僕はうまく言葉にできず、話はその場限りだった。


そんな僕をまた同じ孤児院に行かせるのは父的にあまり好ましくなかったのだろう。
『どの孤児院にも同じように施しを』と、次から別の孤児院への視察になった。


僕の中に生まれたこの想いは一体何なのか。
何日も何日も考えたが答えは出ず、いよいよ自分では消化できなくなり、思い切って父に相談したことがある。
父はしばらく考えたあと、僕にある問いを出した。

『その加護持ちの少年を、フィンはどうしたいんだい?』

『ど・・・うしたい・・・?』

『養子にしたい、ということであれば家族にしたいと言うことだ。フィンにもルーカスがいるだろう?』

『ルーカス兄様・・・ですか・・・』


正直、彼に『また会いたい』という発想しかなかった僕は改めてそう問われると『養子にしたい』とは何かが違うことに気付く。

僕は彼の兄?弟?友達?それとも・・・?
どれも違う。僕は・・・・・・、



『僕は・・・あの子の、一番になりたい。』

『・・・そうか。一番、か。』



これがしたい、あれがしたい。
僕はそう言った類の願いが極端に少ない子どもだった。この時の父はとても驚いた顔をしていて、少し嬉しそうだったようにも思う。

良くも悪くも指示通り。頭もよく、魔法の才もあると自分でも分かっているが、それをどうしたい、というのも特になかった。だからあらゆる面で技術もある程度したら伸びなくなり、陰では『勿体無い』と言われていたことも実は知っていた。

父はしばらくその青い瞳を揺らしながら考えていた。そして僕の手を優しく握ると僕の目線に屈み、話し出す。とても優しい顔だった。



『フィン、よく聞きなさい。その子は孤児、お前は公爵家の人間だ。立場が違う以上、関わる機会すら限られている。』

『・・・はい。』

『・・・フィンのその気持ちは、家族に対するそれとはきっと違うのだろう。しかしまずは養子として迎え入れてみるのもいいかもしれん。その子どもが本当に加護持ちとあれば、何とでも理由はつけられる。』

『・・・!それではっ、』『ただし、条件がある。』

『じょ、うけん・・・ですか?』

『ああ、そうだ。フィンはまだ子どもだ。その子どもであるお前がもう一人の子どもの人生を変えると言うのであれば、責任を持つべきだと思う。』

『・・・僕はどうすればいいですか?どうすれば・・・あの子の一番近くにいられますか?』



胸がこんなにもドキドキするのはあの日以来で、今なら物凄い魔法でも使える気がした。

そんな僕に父は少し微笑んでから、二つの条件を出した。



・養子にした後、掛かるであろう学費等の費用を自力で準備してから迎えにいくこと。

・兄様にも負けないレベルの学力と魔法の技術を身につけること。



それがとても大変なことはすぐに分かった。何故ならルーカス兄様は魔法学校に入学して常にトップの成績を収めているとても優秀な人だったから。僕とは少し歳が離れているけれど、いつも気にかけてくれる優しい兄。

そして何よりお金の工面。
社会勉強と称して商会を訪問したこともあるが、そこにいた人たちがどれだけ苦労しているのかも聞いたことがある。
僕と同じ魔法学校に通うのであれば、それなりの費用が必要だし、本人が魔法学校ではなく別の学校を希望することもあるかもしれない。それも考えるとーーーーー・・・

ぶつぶつ作戦を練る僕を見て父が執事とのそこそ何か話している。だが、そんなことに今は構っていられない。

そしてそれから二年ほどかかったけれど『その子には感謝しなければならないな。』と父が嬉しそうにそう言ったのは僕が商会を立ち上げ、多くの大人と関わりながら、それなりの金額を動かせるようになってからだった。
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