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「初恋の相手をずっと探していたんだ。」
怪訝な顔。
小さくて華奢な体。
風に靡く黒い髪。
『・・・お前、誰。何か用?』
そしてあの、トラリスの花の匂い。
今でも、その光景を、匂いを、温度を。
鮮明に覚えている。
だって、僕が人生で初めて、そして最後の恋に落ちた瞬間だ。
「その人にとって、僕なんて・・・その辺に居る貴族の子どもの一人だったから。再会しても全く覚えてもらってなかったんだけど。」
でも、それでよかった。
君が元気で、生きて、再び僕の前に現れてくれた。
あとはこれから築いていけばいい。
「我慢できなくて、少し強引に近づいたんだけど、結構警戒されちゃって。」
「・・・絶対"少し"じゃないと思うんだが?」
「そうかなぁ。もっと強引に行く手もあったんだけど、その方が良かったか、」
「やめとけ!!!」
「そう・・・それは残念。」
「・・・残念がるな、馬鹿。」
泳ぐ目が物語る。
アルは、多分。いや、確実に。自分のことだと気付いてる。
ああ・・・なんでこんなにも可愛いのだろう。
耳が赤い。
潤んだ黒い瞳に僕が映ってる。
ただそれだけで、僕の心は満たされていく。
「毎日毎日僕の気持ちは膨らんでいくばかりで、抑えるのに必死だったよ。」
「・・・え?あ、あれで抑えてるとか言う?マジで言ってんの?本当馬鹿なの?」
「その人のおかげで、僕は僕のことを見失わずに、今日まで生きてこられたと思ってるんだ。」
「・・・?今日までも何も最初から最後までお前はお前だろ。何言ってんだ?」
「・・・うん。そうだね。」
アルが考えている以上に、ルークの幻術の力は強い。
恐らく心のうちを引き出すだけ引き出した後、パートナーを自分だと誤認識させてそのまま引っ張っていくつもりだったはず。
でも・・・アルは最後まで掛からないでいてくれた。
パートナーを"僕"だと、揺らがずに耐えてくれた。
この事実がどれほど、嬉しかったか。
「アルはさ、卒業したらどうするの?」
「ど・・・どうって・・・。シュバリエさんとフォアさんからせっかく譲ってもらったわけだし、有難~~~く魔法医学研究所に入って働くけど・・・?」
「・・・ふ~ん・・・」
シュバリエは家を継ぐし、フォア嬢はその婚約者。
二人は規定通り大会前に魔法省、そして魔法医学研究所への入所を断っていた。
そして準優勝パートナーであるの僕たちがその権利を得た訳だ。
「じゃあ職場も近い訳だね。僕は魔法省だし。」
「お、おう・・・、まあ、そうなるな。」
「結婚したあとも働きたいなら、僕は応援する。毎日そっちまで迎えにいくよ。」
「・・・んん?けっ、けっ・・・けっ!?」
「養子はあの孤児院から迎えてもいいよね。三人?四人?ああ、でも二人の時間を目一杯楽しんでからにしよう。」
「んんん?よ、うし?まあ、俺子どもは好きだけど・・・?ちょっ、ちょっと?待て。おい。ちょっと?!」
腕に力を込めて、アルの体を固定する。
みるみるうちに赤くなっていく顔。
首元まで赤くなる姿なんて、もう・・・堪らない。
でもごめんね。
絶対、逃してあげないから。
「お、お、お前、今、と、とんでもないこと言ってるけど?!」
「?ごく自然な流れだと思うよ。」
「どどどどどこが!!!?!」
「僕の心も話さないと不平等だってさっき言ったでしょう?」
「言っ・・・たけどさぁ~~・・・?!何か思ってたのと違うぅ・・・!」
「・・・ふはっ、あははは!」
「~~っ、笑うな!!馬鹿!!!」
アルの体を見上げたまま、体を引き寄せる。
優しくて甘いアルの香りがして、気を抜くと目に涙が浮かびそうだ。
「ねえ、アル。ルークの力を借りるのも僕、不本意だからさ。この話はまた日を改めるけど。」
「な、な、なにをだよ?!!」
「準優勝だし、順当にGPも戴いた訳だしさ。」
「お、おう?GPは予想外だったけど?」
「ご褒美、欲しいんだよね。」
「ほうびぃ??!公爵家のボンボンが喜ぶような褒美なんて、俺買えねぇ・・・って、うわっ!相変わらず、力強ぇな!!か、顔が!!ち、ち、近ぇ!!!」
ベッドに座る僕の上に跨るように膝立ちしていたアルの足を少し引いて、完全に僕の膝に座らせる。
アルの鼻先に触れるまであとわずか数センチ。
「どんなに高価な物でも、アルに勝るものはないよ。」
「お、お、俺は!売ってない!!!」
「ふふ。売ってたら僕が全財力を駆使して買い占めるから安心して。」
「あ、んしんできねぇー・・・!」
「アル、ご褒美。ご褒美ちょうだい。僕、結構役に立ったでしょう?」
「そりゃ、め、めちゃくちゃ強かった、けど・・・。な・・・なにが、欲しいわけ・・・?」
羞恥のあまり益々潤んでいくアルの瞳に僕が、僕だけが映っていることを確認する。
そのまま、きゅっと、閉じられたアルの唇に目を向ける。
その形をなぞるように、親指を沿わせた。
「ここに、キスする権利をちょうだい。」
アルの柔らかなそれは、少しだけ乾いていた。
僕の言葉にアルの唇がぴくりと動き、ふるふると震えているようにも見える。
「・・・僕と、キスするのは嫌?答えて、アル。」
きっとアルに『卑怯者!』と怒られるんだろう。
だって今のアルは、"答えてしまうから"。
ぐぐぐ、とアルの拳に力が入る。
必死になって、ルークの力に反発しようとしてるんだろう。
目の端に溜まった涙は今にもこぼれ落ちそうで。
とても、美しいと思った。
「ねえ、アル。教えて。」
「・・・ぐっ、ううう・・・っ!"い、い、嫌じゃ、な、いから・・・こ、困っ、てるんだろぉお・・・"!」
「・・・好き。アル。大好きだよ。本当に大好き。ごめんね、意地悪で。」
「ば、馬鹿!フィンの、バーー、んんんっ、」
柔らかな黒髪を手のひらに感じながら、引き寄せたアルの頭はとても熱くて。
唇が合わさったと同時に、アルの瞳の端から綺麗な涙がすぅっと、流れるのが見えた。
ああ、勿体無い。
あとで涙も舐めさせてもらおう。
「んう、んん、ふぃ、フィン!!んんっ、」
「・・・まだ、駄目。全っっ然足りない。」
「んむぅ!んんんっ、」
アル。
アル。
僕の命よりも、大切な人。
君とのキスは、こんなにも僕に幸せをくれるんだね。
でもこれからもまだまだ僕は、幸せをいただくから。
「~~~~っ、も、もう、お前とは、く、口聞かな、んんんんっ!?んんーん!!」
「意地悪言う子にはお仕置きだよね。ああ、そういえばルークの匂いを落とさないとね。」
「???!!?しゅ、趣旨!変わっ、んんんむ!???」
しばらくアルの唇を堪能した僕は、湯気が上がるくらい真っ赤になったアルの拳を甘んじて受け止めた。
--------------------
「お、お、お前のっ、肺活量!どうなってんだ!!ば、ば、馬鹿!俺をっ、殺す気か!!!」
「?鼻から息すればいいじゃない。こうやってね、」
「んむーーーー!!!(馬鹿ーーーーー!)」
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怪訝な顔。
小さくて華奢な体。
風に靡く黒い髪。
『・・・お前、誰。何か用?』
そしてあの、トラリスの花の匂い。
今でも、その光景を、匂いを、温度を。
鮮明に覚えている。
だって、僕が人生で初めて、そして最後の恋に落ちた瞬間だ。
「その人にとって、僕なんて・・・その辺に居る貴族の子どもの一人だったから。再会しても全く覚えてもらってなかったんだけど。」
でも、それでよかった。
君が元気で、生きて、再び僕の前に現れてくれた。
あとはこれから築いていけばいい。
「我慢できなくて、少し強引に近づいたんだけど、結構警戒されちゃって。」
「・・・絶対"少し"じゃないと思うんだが?」
「そうかなぁ。もっと強引に行く手もあったんだけど、その方が良かったか、」
「やめとけ!!!」
「そう・・・それは残念。」
「・・・残念がるな、馬鹿。」
泳ぐ目が物語る。
アルは、多分。いや、確実に。自分のことだと気付いてる。
ああ・・・なんでこんなにも可愛いのだろう。
耳が赤い。
潤んだ黒い瞳に僕が映ってる。
ただそれだけで、僕の心は満たされていく。
「毎日毎日僕の気持ちは膨らんでいくばかりで、抑えるのに必死だったよ。」
「・・・え?あ、あれで抑えてるとか言う?マジで言ってんの?本当馬鹿なの?」
「その人のおかげで、僕は僕のことを見失わずに、今日まで生きてこられたと思ってるんだ。」
「・・・?今日までも何も最初から最後までお前はお前だろ。何言ってんだ?」
「・・・うん。そうだね。」
アルが考えている以上に、ルークの幻術の力は強い。
恐らく心のうちを引き出すだけ引き出した後、パートナーを自分だと誤認識させてそのまま引っ張っていくつもりだったはず。
でも・・・アルは最後まで掛からないでいてくれた。
パートナーを"僕"だと、揺らがずに耐えてくれた。
この事実がどれほど、嬉しかったか。
「アルはさ、卒業したらどうするの?」
「ど・・・どうって・・・。シュバリエさんとフォアさんからせっかく譲ってもらったわけだし、有難~~~く魔法医学研究所に入って働くけど・・・?」
「・・・ふ~ん・・・」
シュバリエは家を継ぐし、フォア嬢はその婚約者。
二人は規定通り大会前に魔法省、そして魔法医学研究所への入所を断っていた。
そして準優勝パートナーであるの僕たちがその権利を得た訳だ。
「じゃあ職場も近い訳だね。僕は魔法省だし。」
「お、おう・・・、まあ、そうなるな。」
「結婚したあとも働きたいなら、僕は応援する。毎日そっちまで迎えにいくよ。」
「・・・んん?けっ、けっ・・・けっ!?」
「養子はあの孤児院から迎えてもいいよね。三人?四人?ああ、でも二人の時間を目一杯楽しんでからにしよう。」
「んんん?よ、うし?まあ、俺子どもは好きだけど・・・?ちょっ、ちょっと?待て。おい。ちょっと?!」
腕に力を込めて、アルの体を固定する。
みるみるうちに赤くなっていく顔。
首元まで赤くなる姿なんて、もう・・・堪らない。
でもごめんね。
絶対、逃してあげないから。
「お、お、お前、今、と、とんでもないこと言ってるけど?!」
「?ごく自然な流れだと思うよ。」
「どどどどどこが!!!?!」
「僕の心も話さないと不平等だってさっき言ったでしょう?」
「言っ・・・たけどさぁ~~・・・?!何か思ってたのと違うぅ・・・!」
「・・・ふはっ、あははは!」
「~~っ、笑うな!!馬鹿!!!」
アルの体を見上げたまま、体を引き寄せる。
優しくて甘いアルの香りがして、気を抜くと目に涙が浮かびそうだ。
「ねえ、アル。ルークの力を借りるのも僕、不本意だからさ。この話はまた日を改めるけど。」
「な、な、なにをだよ?!!」
「準優勝だし、順当にGPも戴いた訳だしさ。」
「お、おう?GPは予想外だったけど?」
「ご褒美、欲しいんだよね。」
「ほうびぃ??!公爵家のボンボンが喜ぶような褒美なんて、俺買えねぇ・・・って、うわっ!相変わらず、力強ぇな!!か、顔が!!ち、ち、近ぇ!!!」
ベッドに座る僕の上に跨るように膝立ちしていたアルの足を少し引いて、完全に僕の膝に座らせる。
アルの鼻先に触れるまであとわずか数センチ。
「どんなに高価な物でも、アルに勝るものはないよ。」
「お、お、俺は!売ってない!!!」
「ふふ。売ってたら僕が全財力を駆使して買い占めるから安心して。」
「あ、んしんできねぇー・・・!」
「アル、ご褒美。ご褒美ちょうだい。僕、結構役に立ったでしょう?」
「そりゃ、め、めちゃくちゃ強かった、けど・・・。な・・・なにが、欲しいわけ・・・?」
羞恥のあまり益々潤んでいくアルの瞳に僕が、僕だけが映っていることを確認する。
そのまま、きゅっと、閉じられたアルの唇に目を向ける。
その形をなぞるように、親指を沿わせた。
「ここに、キスする権利をちょうだい。」
アルの柔らかなそれは、少しだけ乾いていた。
僕の言葉にアルの唇がぴくりと動き、ふるふると震えているようにも見える。
「・・・僕と、キスするのは嫌?答えて、アル。」
きっとアルに『卑怯者!』と怒られるんだろう。
だって今のアルは、"答えてしまうから"。
ぐぐぐ、とアルの拳に力が入る。
必死になって、ルークの力に反発しようとしてるんだろう。
目の端に溜まった涙は今にもこぼれ落ちそうで。
とても、美しいと思った。
「ねえ、アル。教えて。」
「・・・ぐっ、ううう・・・っ!"い、い、嫌じゃ、な、いから・・・こ、困っ、てるんだろぉお・・・"!」
「・・・好き。アル。大好きだよ。本当に大好き。ごめんね、意地悪で。」
「ば、馬鹿!フィンの、バーー、んんんっ、」
柔らかな黒髪を手のひらに感じながら、引き寄せたアルの頭はとても熱くて。
唇が合わさったと同時に、アルの瞳の端から綺麗な涙がすぅっと、流れるのが見えた。
ああ、勿体無い。
あとで涙も舐めさせてもらおう。
「んう、んん、ふぃ、フィン!!んんっ、」
「・・・まだ、駄目。全っっ然足りない。」
「んむぅ!んんんっ、」
アル。
アル。
僕の命よりも、大切な人。
君とのキスは、こんなにも僕に幸せをくれるんだね。
でもこれからもまだまだ僕は、幸せをいただくから。
「~~~~っ、も、もう、お前とは、く、口聞かな、んんんんっ!?んんーん!!」
「意地悪言う子にはお仕置きだよね。ああ、そういえばルークの匂いを落とさないとね。」
「???!!?しゅ、趣旨!変わっ、んんんむ!???」
しばらくアルの唇を堪能した僕は、湯気が上がるくらい真っ赤になったアルの拳を甘んじて受け止めた。
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「お、お、お前のっ、肺活量!どうなってんだ!!ば、ば、馬鹿!俺をっ、殺す気か!!!」
「?鼻から息すればいいじゃない。こうやってね、」
「んむーーーー!!!(馬鹿ーーーーー!)」
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