【完結】俺のストーカーは、公爵家次男。

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「うっわ!アル今日も一人!?連日雨降るじゃん!みんな傘出しとけよー!」

「・・・俺は急速に発達する雨雲か?」



午後の授業が終わり、鞄にポイポイ勉強道具を片付けていると、ピノが大袈裟に騒ぎ出す。
真剣な顔して『それとも雪か・・・?』としつこいピノの尻に遠慮なく蹴りを入れて、俺はあの深緑色の屋根の寮へ足を進めた。

いつもなら・・・、いや、"いつも"って言い方、"それが日常です"って言ってるようなもんだから何か小っ恥ずかしい。

・・・・・・・・・・・・で、話戻すと、いつもならあいつが一緒だから、転移魔法で一瞬で寮到着なんだけど。


俺は徒歩。
『危ないから』と転移魔法陣を組んだ魔石を渡されそうになったけど、そんな代物使いこなせないし、それ一つで多分城下に豪邸が建つぞ。
"御守り"だという腕輪を常に付けておくことを条件に、魔石は受け取らなかった。
あいつは不満げな顔だったけど、俺はこの歳で借金を背負いたくない。


パートナー寮は他の寮よりも遠いところに建っていて、なかなか歩きごたえがある。
こうやって歩いても、まだ見慣れたものは何一つない。新鮮な気持ちになる。
変な言い方だけど、"見慣れない通学路"だ。





大会後、あのルーク先輩(実は生徒会役員だった)の魔法呪いは翌朝には無事解けて、俺は心底安堵した。


『コタの花みたいで可愛かったのに残念。』と微笑むのは、フィンリー・エバンズ。ちなみにコタの花っていうのは、凍えるような寒い季節に咲く真っ赤な花のこと。
『揶揄ってんのか!』って憤慨したら『?それくらい美しかったってことだけど?』とド真面目な顔で額にキスされた。




ええ。ええ。
ご想像の通り、また俺はコタの花ですよ。


・・・・・・・・・・・・ぐわぁぁぁぁああああ!
ま、まずい!また余計なこと思い出して一人悶えてしまった!
よかった!今日も!一人で!見慣れない通学路でぇぇ!


スー・・・ハー・・・(深呼吸)
よし、落ち着け俺。
是式の事で悶えてどうする。
これまであいつとの出来事で何回羞恥に耐えてきたと思ってるんだ。




「・・・・・・でも多分今日もあいつ居ないな。」


じゃあ別に悶えてもいいか。
いや、よくはない?
でも一人だしな。
パートナー部屋を覗き見るような奴居ないし。
あいつが帰ってくるまでこの俺の情けない悶え姿を誰にも見られる心配はないってわけだ。




「・・・・・・・・・一人で何やってんだ。帰ろ。」




そうだ。俺はまだ寮に帰る途中。
さっさと帰って課題やって飯食って風呂入って寝る。


平穏っちゃ、平穏なんだけど、さ。


・・・おっと、あぶねぇ。危うく悶えそうなこと言いそうになった。
気を取り直して前を向く。
石ころ蹴ったり。
野良猫に手振ったり。
そんなことしてるうちに、深緑色の屋根が見えてきた。


そろそろ気になるだろ?
何で、あいつが居ないのか。

『卒業前にどうしてもしておきたいことがあって』だとさ。
かれこれ十日ほど、あいつは寮に帰って来ない。でもちゃんと寮則に沿って申請出してるから、何ら問題はなし。
そういうところは本当ちゃんとしてんだよな。


来月には卒業式があって、四年生はほとんど授業はないらしい。
それぞれ家に戻る準備をしたり、就職先に出向く期間なんだそう。
だからかなり忙しいはずなんだけど・・・?


「・・・そんな時期にしておきたいことって何だ。」



全く気にならないと言えば、完全に嘘。
あれだけ俺をぴったりマークしていた男が突然居なくなる。俺的にはかなり平穏な生活に戻ったはずなのに。

・・・ううう・・・・・・っ!なんだこのソワソワ感は・・・っ!




「俺、あいつのせいでおかしくなったじゃん・・・」

「とても興味が湧くお言葉ですわね、小鳥さん。」

「・・・・・・っ、びっ、くりしたぁ・・・!」


顔をあげて前を向く。
浅緑色の瞳の女性を、この学校で一人しか知らない。


「急に声をかけてごめんなさいね。こんなところでお顔を赤くしていらっしゃる方は何処のどなたか気になってしまいましたの。」

「・・・・・・どうも、アルフレッド・ベンジャミンと申します・・・」

「あら、ご丁寧に。私はエルザ・フォアですわ。ふふ。」

「存じております・・・」

 俺は廊下のど真ん中で固まっていたらしい。めっちゃ不審者じゃん。見られたのが知り合いでよかった。


「エバンズ様はまだお戻りではないのですね。」

「は、はい、そうです。あっ。もしかしてあいつに何か用事でもありましたか?」

「これっぽっちもありませんわ。丁度よかったです。では、いきましょうか。」

「ふはっ。これっぽっちもって言い方おもしろ・・・ん?いきましょうか?」




おほほ、と扇で口元を隠すフォアさんはこんな時でも上品だ。
俺がぽかん、としていると広げていた扇をパンっと勢いよく畳み、俺がさっき入ってきた寮の出入り口へと歩き出す。



「昔から"鬼の居ぬ間に"と申しますでしょう?小鳥さんに力を貸していただきたいことがありますの。」

「???はい。俺でよければ・・・?」

「・・・はあ。やはり見ていらっしゃいますわね。小鳥さん、少々お待ちくださいませ。」

「・・・・・・?」



ため息をつき外に出るとフォアさんはきょろきょろと辺りを見渡す。
そして何か見つけたようにピタッとある方向を向いて止まると、こう言った。



「少々お借りするだけですから。正当な友人付き合いです。苦情も攻撃も受け付けませんわよ。さ、小鳥さん。行きましょう。」

「・・・・・・???へい・・・?」


そっちには何もいませんよ、フォアさん。
シュバリエさんに振り回されて疲れてんのかな。(失礼)
俺で、何か役に立つならいいけど。


そして俺は、おほほ、と微笑んだフォアさんに連れて行かれるがまま馬車に乗せられ、いつの間にか近くの街に着いていた。


















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