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僕の、ぽやぽやぽよぽよした頭が落ち着いたのはジルが僕に果実水を飲ませてくれたからだ。
ポーッとした顔で「喉、かわいた」と呟いた僕の頭をジルはふわりと撫でたあと、片手で軽々ひょいっと抱え、手付かずの紅茶とクッキーの載ったあのトレーが置いてあるテーブルまで戻った。
僕用に準備していた果実水入りのコップを手の取ると、ゆっくりゆっくり傾けて飲ませてくれたのである。
少し温くなっていたが、ハーブ入りの少しスゥーっとする果実水が僕の喉を潤してくれると、パチリ、と目が覚めた気がした。
自分の言動を思い出し、あわわわわ、と顔が熱くなってきて、突然リスの本能が目覚めるように家の柱の後ろにしがみ付いて、必死に隠れた。
そんな僕の行動にジルはどこか寂しそうな顔で、しょんぼりしている。
ジルは全然無表情なんかじゃない。分かりにくいだけで、これだけ近くにいれば十分わかる。騎士団の人たちは、ジルを勝手に怖がって近付かないから気付かないだけだ。
「ジ、ジル!きょ、今日本当に泊まるの?!」
「・・・・・・ラピ、さっきのは嘘だったのか?泊まったらダメなのか・・・?」
「うっ!だ、めじゃないけどぉ・・・。な、何もしちゃ、だ、ダメですからね!寝るところもべ、別ですから!」
「・・・寝るのは一緒でいいだろう。」
「だ、だめです!」
「ラピのこと、もっと沢山知りたいんだ。好きな食べ物、好きな色、好きな花。どんな事だって知りたい。ラピが眠くなったら寝ていい。嫌がることは何もしない。それでも・・・ダメか?」
「ううっ・・・!」
何という顔面の破壊力!!!綺麗なアーモンド型の榛色の瞳がゆらゆれ揺れている!薄くて形のいい唇も何やら湿ってツヤツヤしてるし!・・・ああああ、反論できない!
僕はくぅ、っと苦し紛れの声が出ただけで、静かに頷いたのだった。その後のジルの嬉しそうな、少し照れたような微笑みに、また心を鷲掴みにされたのは言うまでもない・・・よね。
まだその時は夕方にもなっていない時間だったので、用意してきたクッキーを2人で食べた。「ラピの匂いがする」と部屋中を嗅ぎ出すもんだから全力で止めたけど。
そして森まで一緒に木の実を拾いに行った後(俺も行くと言ってきかなかった)、僕が作った夕飯のシチューを食べ、別々にお風呂に入った。今ようやく寝室だ。
想像がつくと思うが、僕のベッドは小さい。弟のパウロと一緒に寝ることもあるけど、それですこーし余裕があるくらいの大きさだ。
だから、ジルと寝ようとするとギッチギチになった。むしろ、ジルの長い足がはみ出てる。
「・・・ねえ、ジル。さすがに無理があると思うんだ、僕。」
「そんなことはない。騎士たる者、どこだって寝れる。ラピと寝れないなら俺はここで立って寝る。」
「ええ・・・何その脅し。そんなことしたら僕気になっちゃって寝れないの分かって言ってない・・・?あ、笑ったでしょ、今!」
「・・・ふふっ。不思議とラピの前だと肩の力が抜けるようだ。」
「・・・普段もそのくらい表情があれば氷の副団長、なんて呼ばれないと思いますけど。」
「ほお・・・それは実に面白い呼び名だな。フィードが言っていたのか?」
「・・・・・・・・・・・・黙秘シマス。」
うっかり異名を口に出してしまった。まずい。フィードが危ない、色んな意味で。
ジルに背を向け、目をしぱしぱさせながら、どうやって誤魔化そうか、と考えていると、ジルが僕をぎゅう、と後ろから抱きしめてきた。
「わぁ!!ジ、ジル!どどどうしたの!・・・あ!まだ笑ってるじゃん!」
「・・・俺の番の可愛さを噛み締めてるだけだ。本当に愛おしい。ふふ。」
「ひゃっ!う、後ろから喋んないで!何かぞわぞわする!」
「頸が近いからだろう。大丈夫、まだ我慢する。」
「ま、まだってなにぃ!?ジ、ジルは本当に、ぼ、僕みたいな獣人と、つ、番になりたいの?ぼ、僕、何もジルにしてあげられることなんてな」
「俺はラピがいいんだ。誰かと居て、こんなに自分を出せるのは幼い時以来だぞ。番だから、というのも勿論あるかもしれないが、ラピが俺をちゃんと見てくれて、俺と向き合おうとしてくれてるからだろう?そんなのすぐ好きになるに決まってる。俺は番以前にラピのことが好きだ。番になったら結婚したいと思ってる。ラピは?ラピは俺のことどう」
「待って待って待って、出る出る出るーーーーーーー!!!」
ぎゅぅぅうと僕を抱きしめる力がどんどん強くなり、僕はさっき食べたシチューが出てきそうになって思わずストップをかけた。慌ててジルが力を弱めてくれる。でも、向かい合わせになったジルの目は真剣だった。僕の顔にカァ、と熱が集まる。目もキョロキョロと落ち着かない。
「す、好きって言ってくれて・・・あ、あ、ありがとう・・・ジル。ぼ、僕も、きっとジルのこと、す、好きになると思う。」
「じゃあーー、」
「で、でも、まだ会ったばかりだし、お、お互いのこと、よく知ってからでもい、いいんじゃないかな。つ、番も、けけけけ結婚も・・・」
「・・・俺は早く番にも夫にもなりたい。」
「ね、姉さんにもさきに話したい、し、パウロ、にもちゃんと話したいんだ。パウロはまだ僕が居ないと生活もできないしさ。」
「・・・・・・我慢できる範囲で・・・我慢しよう。この匂いにいつまで耐えられるか自分でも分からない。俺は特に匂いに敏感だからな。」
「へっ!?わ、わかった!出来るだけ離れ」
「離れない。それはダメだ。それこそ追いたくなる。逆効果だ。」
「うう・・・・・・出来るだけ、我慢してください・・・」
「・・・ふふっ、分かった。善処する。・・・今日は沢山ラピのこと教えてくれ。話してくれたら気持ちも落ち着く。頼む。」
「・・・ん。じゃあ、ジルのことも教えて。」
「もちろん。ありがとう、ラピ。」
ちゅ、と額に口付けられた。「これくらいは許してくれ」と美しい微笑みと共に。恥ずかしくって、涙まで滲んだが、そんな顔の僕を見ても「可愛い」「好きだ」が止まらないジルもどうかしてるし、そんなジルが可愛くて仕方ない僕もきっと、どうかしてるんだと思った、そんな夜だった。
ポーッとした顔で「喉、かわいた」と呟いた僕の頭をジルはふわりと撫でたあと、片手で軽々ひょいっと抱え、手付かずの紅茶とクッキーの載ったあのトレーが置いてあるテーブルまで戻った。
僕用に準備していた果実水入りのコップを手の取ると、ゆっくりゆっくり傾けて飲ませてくれたのである。
少し温くなっていたが、ハーブ入りの少しスゥーっとする果実水が僕の喉を潤してくれると、パチリ、と目が覚めた気がした。
自分の言動を思い出し、あわわわわ、と顔が熱くなってきて、突然リスの本能が目覚めるように家の柱の後ろにしがみ付いて、必死に隠れた。
そんな僕の行動にジルはどこか寂しそうな顔で、しょんぼりしている。
ジルは全然無表情なんかじゃない。分かりにくいだけで、これだけ近くにいれば十分わかる。騎士団の人たちは、ジルを勝手に怖がって近付かないから気付かないだけだ。
「ジ、ジル!きょ、今日本当に泊まるの?!」
「・・・・・・ラピ、さっきのは嘘だったのか?泊まったらダメなのか・・・?」
「うっ!だ、めじゃないけどぉ・・・。な、何もしちゃ、だ、ダメですからね!寝るところもべ、別ですから!」
「・・・寝るのは一緒でいいだろう。」
「だ、だめです!」
「ラピのこと、もっと沢山知りたいんだ。好きな食べ物、好きな色、好きな花。どんな事だって知りたい。ラピが眠くなったら寝ていい。嫌がることは何もしない。それでも・・・ダメか?」
「ううっ・・・!」
何という顔面の破壊力!!!綺麗なアーモンド型の榛色の瞳がゆらゆれ揺れている!薄くて形のいい唇も何やら湿ってツヤツヤしてるし!・・・ああああ、反論できない!
僕はくぅ、っと苦し紛れの声が出ただけで、静かに頷いたのだった。その後のジルの嬉しそうな、少し照れたような微笑みに、また心を鷲掴みにされたのは言うまでもない・・・よね。
まだその時は夕方にもなっていない時間だったので、用意してきたクッキーを2人で食べた。「ラピの匂いがする」と部屋中を嗅ぎ出すもんだから全力で止めたけど。
そして森まで一緒に木の実を拾いに行った後(俺も行くと言ってきかなかった)、僕が作った夕飯のシチューを食べ、別々にお風呂に入った。今ようやく寝室だ。
想像がつくと思うが、僕のベッドは小さい。弟のパウロと一緒に寝ることもあるけど、それですこーし余裕があるくらいの大きさだ。
だから、ジルと寝ようとするとギッチギチになった。むしろ、ジルの長い足がはみ出てる。
「・・・ねえ、ジル。さすがに無理があると思うんだ、僕。」
「そんなことはない。騎士たる者、どこだって寝れる。ラピと寝れないなら俺はここで立って寝る。」
「ええ・・・何その脅し。そんなことしたら僕気になっちゃって寝れないの分かって言ってない・・・?あ、笑ったでしょ、今!」
「・・・ふふっ。不思議とラピの前だと肩の力が抜けるようだ。」
「・・・普段もそのくらい表情があれば氷の副団長、なんて呼ばれないと思いますけど。」
「ほお・・・それは実に面白い呼び名だな。フィードが言っていたのか?」
「・・・・・・・・・・・・黙秘シマス。」
うっかり異名を口に出してしまった。まずい。フィードが危ない、色んな意味で。
ジルに背を向け、目をしぱしぱさせながら、どうやって誤魔化そうか、と考えていると、ジルが僕をぎゅう、と後ろから抱きしめてきた。
「わぁ!!ジ、ジル!どどどうしたの!・・・あ!まだ笑ってるじゃん!」
「・・・俺の番の可愛さを噛み締めてるだけだ。本当に愛おしい。ふふ。」
「ひゃっ!う、後ろから喋んないで!何かぞわぞわする!」
「頸が近いからだろう。大丈夫、まだ我慢する。」
「ま、まだってなにぃ!?ジ、ジルは本当に、ぼ、僕みたいな獣人と、つ、番になりたいの?ぼ、僕、何もジルにしてあげられることなんてな」
「俺はラピがいいんだ。誰かと居て、こんなに自分を出せるのは幼い時以来だぞ。番だから、というのも勿論あるかもしれないが、ラピが俺をちゃんと見てくれて、俺と向き合おうとしてくれてるからだろう?そんなのすぐ好きになるに決まってる。俺は番以前にラピのことが好きだ。番になったら結婚したいと思ってる。ラピは?ラピは俺のことどう」
「待って待って待って、出る出る出るーーーーーーー!!!」
ぎゅぅぅうと僕を抱きしめる力がどんどん強くなり、僕はさっき食べたシチューが出てきそうになって思わずストップをかけた。慌ててジルが力を弱めてくれる。でも、向かい合わせになったジルの目は真剣だった。僕の顔にカァ、と熱が集まる。目もキョロキョロと落ち着かない。
「す、好きって言ってくれて・・・あ、あ、ありがとう・・・ジル。ぼ、僕も、きっとジルのこと、す、好きになると思う。」
「じゃあーー、」
「で、でも、まだ会ったばかりだし、お、お互いのこと、よく知ってからでもい、いいんじゃないかな。つ、番も、けけけけ結婚も・・・」
「・・・俺は早く番にも夫にもなりたい。」
「ね、姉さんにもさきに話したい、し、パウロ、にもちゃんと話したいんだ。パウロはまだ僕が居ないと生活もできないしさ。」
「・・・・・・我慢できる範囲で・・・我慢しよう。この匂いにいつまで耐えられるか自分でも分からない。俺は特に匂いに敏感だからな。」
「へっ!?わ、わかった!出来るだけ離れ」
「離れない。それはダメだ。それこそ追いたくなる。逆効果だ。」
「うう・・・・・・出来るだけ、我慢してください・・・」
「・・・ふふっ、分かった。善処する。・・・今日は沢山ラピのこと教えてくれ。話してくれたら気持ちも落ち着く。頼む。」
「・・・ん。じゃあ、ジルのことも教えて。」
「もちろん。ありがとう、ラピ。」
ちゅ、と額に口付けられた。「これくらいは許してくれ」と美しい微笑みと共に。恥ずかしくって、涙まで滲んだが、そんな顔の僕を見ても「可愛い」「好きだ」が止まらないジルもどうかしてるし、そんなジルが可愛くて仕方ない僕もきっと、どうかしてるんだと思った、そんな夜だった。
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