3 / 6
02. 【side:H】①
しおりを挟む
「えっ!? お前らまだ付き合ってなかったのか!?」
「翔真、声が大きい!」
「え! あ、ごめん!」
昼食時の待ち合わせ場所である学食のカフェのいちばん片隅の席で。
美行と翔真先輩のやり取りにオレはくすくす笑った。なんというか、微笑ましい。
「それより、本気で付き合ってないのか?」
さっきより声を潜めて、ひそひそと聞いてくる翔真先輩に苦笑して見せる。
「オレが、一方的に待たせてしまって……」
「両想いではあるんだな?」
「ええ、まあ……」
諒也が、あの時の気持ちのままでいてくれるなら。待ってくれているなら、まだ両想いのはずだ。
不意をつくように触れるだけのキスをしてくる諒也を、オレが拒まなくなったのはいつからだろう。もう、その時点で付き合ってしまえば良かったのに、完全にタイミングを外してしまったのだ。
今も、美行に『諒也が女子につかまって告白されてる』と告げられて焦りが生まれているところだ。
優しい諒也に、甘えすぎた罰だろうか。
「それより遥香。今のうちに相談したいことって?」
美行が聞いてくれて、そうだ、と本題を思い出す。諒也が来ていないこの時間を使って相談したいことがあった。いつどんなふうに切り出すか考えあぐねていたところに今日のこの諒也呼び出しで、予想外にチャンスができたのだ。これを逃す手はない。
「そう。それで、5月5日が諒也の誕生日なんだけど、その時にきっかけを作れないかなと思って。何か良いアイディアない?」
少し早口になりながら声を潜めて言えば、美行も翔真先輩も神妙な顔つきになる。
「両想いだって分かってて付き合ってないんだよね?」
「……そう、だけど」
「今さら告白でもないとなれば、やっぱりアレだろ」
「アレ?」
「ペアリング、とか」
「……っ!? ペア!?」
翔真先輩と頷き合うように言う美行の言葉に、思わず過剰反応してしまう。
「同じ型のネックレスとかでもいいけど、緒方の場合は女避けの意味も込めてリングがいいと思うぞ」
「女避け……」
「さすがにいかにもなリング着けてれば、女の子も諦めるでしょ」
「そう……かな……」
諒也はオレの欲目抜きで見てもカッコイイ。女の子たちが好きになるのも分かるのだ。だけど、やっぱり両想いだと分かってて一緒に居る時間が長ければ、欲も出てくる。
オレなんかが釣り合うとは思わないけど、そばに居たい。
そう思えば、キンと耳鳴りがしていつもの声が聞こえてくる。
生まれて来なければ良かった、そう思われていても。諒也の優しさに包まれて、好きになってしまった。諒也にも求められている事が分かってから、その言葉が聞こえてくる頻度は減ってきていた。それでも、完全には消えてはくれない。手紙も、まだ怖くて読めていなかった。
少し頭痛がして、手で額を押さえてふるりと頭を振った。
「遥香、頭痛いのか?」
優しく気遣う声は、背後から。すぐに、椅子に座るオレの頭上から顔を覗き込むように諒也が現れる。
「諒也。ううん、大丈夫」
心配させないように、仰向いてにこりと笑って見せた。
すると諒也はそのままオレの隣へと座る。
カフェとは言っても学食。食券を買ってのセルフサービスである。
「あれ。諒也は日替わりランチ? 珍しいね」
「ん? 遥香が悩んだと思ったんだけど」
オレはいつも手軽に食べられるサンドイッチのBランチだけれど、今日の日替わりランチはオムライスだった。たしかに迷った。
「なんでバレたの?」
「遥香の好物を知らないハズないだろ?」
つまり、これはシェアをしようという提案でもある訳だ。
「ふふふ、ありがと」
先に少しだけ手をつけてしまっていたけれど、ほとんど食べていない状態のBランチ。話に夢中になっていた証拠だな、と思う。
それから、シェアというよりは一方的に餌付けされるような形で食事を終わらせると、美行が唐突に諒也の手を褒め始めた。
「諒也ってさ、家事やってる割に指キレイだよね?」
「そうか?」
「うん。あんまり荒れてないし、男にしては細くない? サイズいくつ?」
「指輪の? うーん、そういうの着けたことないし、そんな予定もないからなぁ」
「そうなんだ。遥香は?」
「えっ、オレも分からないけど……」
「そうかぁ……」
美行はそう呟くと、おもむろに自分の指に着けたリングを外してオレに渡す。
「試しに、僕のこれ着けてみて?」
「えっ」
「いいからいいから」
どの指に着ければいいものか悩んでオロオロしていると、美行にビシリと左手の薬指を示されて、渋々と嵌めてみる。
するりと嵌ったそれに、試しに手を握ったり開いたりしてみる。
「どう?」
「んー。なんかこういうの着けたことないから違和感はあるけど、サイズ的にはいいのかな?」
「なるほどね。僕とほぼ同じか」
美行がなにやらフムフムと頷いている傍らで、今度は翔真先輩が諒也にリングを渡していてギョッとする。
「緒方はこっち」
「あ、うん」
諒也はなぜか言われるまま先輩の指輪を左手薬指に嵌めていた。なぜ迷わずその指にした? と聞いてやりたい。が、結果は気になるという矛盾するオレ。
オレはすでに指輪を外して美行に返しているところだ。
「あー、こんな感じなんだね。初めて着けた」
「サイズは?」
「たぶんいい感じ、なのかなと思う」
「うん、試しにこっちも着けてみろ」
「うん? ……あ、こっちの方が違和感ないかも」
一体オレたちは何をやっているのか。
周りから見られてはいないから良いんだけれど。
「さて、と。そろそろ次の講義始まるな。お前ら3限目は?」
「オレは休講」
「僕らも」
「そうか。じゃあ篠宮と緒方は明日だな。美行、またあとで」
「うん、いってらっしゃい」
主に美行に告げられた言葉に、彼が返してオレたちは手を振るのみにする。
そうして。
この日の夜、美行から送られてきたメッセージには、オレと諒也の指輪のサイズがしっかりと書いてあって。今は通販という便利なものもあることを教えられたのだった。
「翔真、声が大きい!」
「え! あ、ごめん!」
昼食時の待ち合わせ場所である学食のカフェのいちばん片隅の席で。
美行と翔真先輩のやり取りにオレはくすくす笑った。なんというか、微笑ましい。
「それより、本気で付き合ってないのか?」
さっきより声を潜めて、ひそひそと聞いてくる翔真先輩に苦笑して見せる。
「オレが、一方的に待たせてしまって……」
「両想いではあるんだな?」
「ええ、まあ……」
諒也が、あの時の気持ちのままでいてくれるなら。待ってくれているなら、まだ両想いのはずだ。
不意をつくように触れるだけのキスをしてくる諒也を、オレが拒まなくなったのはいつからだろう。もう、その時点で付き合ってしまえば良かったのに、完全にタイミングを外してしまったのだ。
今も、美行に『諒也が女子につかまって告白されてる』と告げられて焦りが生まれているところだ。
優しい諒也に、甘えすぎた罰だろうか。
「それより遥香。今のうちに相談したいことって?」
美行が聞いてくれて、そうだ、と本題を思い出す。諒也が来ていないこの時間を使って相談したいことがあった。いつどんなふうに切り出すか考えあぐねていたところに今日のこの諒也呼び出しで、予想外にチャンスができたのだ。これを逃す手はない。
「そう。それで、5月5日が諒也の誕生日なんだけど、その時にきっかけを作れないかなと思って。何か良いアイディアない?」
少し早口になりながら声を潜めて言えば、美行も翔真先輩も神妙な顔つきになる。
「両想いだって分かってて付き合ってないんだよね?」
「……そう、だけど」
「今さら告白でもないとなれば、やっぱりアレだろ」
「アレ?」
「ペアリング、とか」
「……っ!? ペア!?」
翔真先輩と頷き合うように言う美行の言葉に、思わず過剰反応してしまう。
「同じ型のネックレスとかでもいいけど、緒方の場合は女避けの意味も込めてリングがいいと思うぞ」
「女避け……」
「さすがにいかにもなリング着けてれば、女の子も諦めるでしょ」
「そう……かな……」
諒也はオレの欲目抜きで見てもカッコイイ。女の子たちが好きになるのも分かるのだ。だけど、やっぱり両想いだと分かってて一緒に居る時間が長ければ、欲も出てくる。
オレなんかが釣り合うとは思わないけど、そばに居たい。
そう思えば、キンと耳鳴りがしていつもの声が聞こえてくる。
生まれて来なければ良かった、そう思われていても。諒也の優しさに包まれて、好きになってしまった。諒也にも求められている事が分かってから、その言葉が聞こえてくる頻度は減ってきていた。それでも、完全には消えてはくれない。手紙も、まだ怖くて読めていなかった。
少し頭痛がして、手で額を押さえてふるりと頭を振った。
「遥香、頭痛いのか?」
優しく気遣う声は、背後から。すぐに、椅子に座るオレの頭上から顔を覗き込むように諒也が現れる。
「諒也。ううん、大丈夫」
心配させないように、仰向いてにこりと笑って見せた。
すると諒也はそのままオレの隣へと座る。
カフェとは言っても学食。食券を買ってのセルフサービスである。
「あれ。諒也は日替わりランチ? 珍しいね」
「ん? 遥香が悩んだと思ったんだけど」
オレはいつも手軽に食べられるサンドイッチのBランチだけれど、今日の日替わりランチはオムライスだった。たしかに迷った。
「なんでバレたの?」
「遥香の好物を知らないハズないだろ?」
つまり、これはシェアをしようという提案でもある訳だ。
「ふふふ、ありがと」
先に少しだけ手をつけてしまっていたけれど、ほとんど食べていない状態のBランチ。話に夢中になっていた証拠だな、と思う。
それから、シェアというよりは一方的に餌付けされるような形で食事を終わらせると、美行が唐突に諒也の手を褒め始めた。
「諒也ってさ、家事やってる割に指キレイだよね?」
「そうか?」
「うん。あんまり荒れてないし、男にしては細くない? サイズいくつ?」
「指輪の? うーん、そういうの着けたことないし、そんな予定もないからなぁ」
「そうなんだ。遥香は?」
「えっ、オレも分からないけど……」
「そうかぁ……」
美行はそう呟くと、おもむろに自分の指に着けたリングを外してオレに渡す。
「試しに、僕のこれ着けてみて?」
「えっ」
「いいからいいから」
どの指に着ければいいものか悩んでオロオロしていると、美行にビシリと左手の薬指を示されて、渋々と嵌めてみる。
するりと嵌ったそれに、試しに手を握ったり開いたりしてみる。
「どう?」
「んー。なんかこういうの着けたことないから違和感はあるけど、サイズ的にはいいのかな?」
「なるほどね。僕とほぼ同じか」
美行がなにやらフムフムと頷いている傍らで、今度は翔真先輩が諒也にリングを渡していてギョッとする。
「緒方はこっち」
「あ、うん」
諒也はなぜか言われるまま先輩の指輪を左手薬指に嵌めていた。なぜ迷わずその指にした? と聞いてやりたい。が、結果は気になるという矛盾するオレ。
オレはすでに指輪を外して美行に返しているところだ。
「あー、こんな感じなんだね。初めて着けた」
「サイズは?」
「たぶんいい感じ、なのかなと思う」
「うん、試しにこっちも着けてみろ」
「うん? ……あ、こっちの方が違和感ないかも」
一体オレたちは何をやっているのか。
周りから見られてはいないから良いんだけれど。
「さて、と。そろそろ次の講義始まるな。お前ら3限目は?」
「オレは休講」
「僕らも」
「そうか。じゃあ篠宮と緒方は明日だな。美行、またあとで」
「うん、いってらっしゃい」
主に美行に告げられた言葉に、彼が返してオレたちは手を振るのみにする。
そうして。
この日の夜、美行から送られてきたメッセージには、オレと諒也の指輪のサイズがしっかりと書いてあって。今は通販という便利なものもあることを教えられたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる