キャンセラー

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

文字の大きさ
4 / 6

03. 【side:R】②

しおりを挟む
 遥香の様子が何かおかしい。
 美行と話し込むことが増え始めた頃に比べて、明らかにソワソワしている感じが見て取れる。
 GWに入って大学が休みになると、遥香はスマホを肌身離さず持つようになった。今まで、家では部屋に置きっぱなしのことが多かったのに、だ。
 何かあると思わない方がおかしいだろう。
 それでも、それ以外はいつも通りで、聞くに聞けないでいる。
 特に誰かと連絡を取っている様子もないのだ。美行からは時々メッセージが入るようだけれど、それもいつもの事で。何回かやり取りをして終了になるからやはりいつも通り。
 俺の思い過ごしだろうか。

「遥香、コーヒー飲むか?」
「飲むー」

 昼食後にコーヒーでも淹れようとして聞いたのだが、無邪気に答えてくるところはやっぱりいつも通りだった。
 自分の分はブラックで、遥香のマグカップにはミルクを入れてリビングに運んだ。ソファに座る遥香に渡してやれば、ありがとうと微笑まれる。その笑顔はやっぱり綺麗で。
 ああ、この笑顔を俺以外には向けて欲しくないな、と改めて思う。
 『幼なじみ以上、恋人未満』とはいえ、あの日から遥香の気持ちを確認したことはない。信じて待っている、ただそれだけだ。
 待ってほしいと言った、遥香の言葉を。ただ信じて。遥香を好きだと思う気持ちは日ごとに募り、我慢できずにキスをしたことだって何度もある。始めは微かに抵抗されたりもしたけれど、いつの頃からか自然に受け止めてくれるようになった。
 その事で、少し安心していたのだ。

「なぁ、遥香」
「んー?」
「お前、俺に隠してることない?」
「んっ!?」

 遥香が動揺するのを目の当たりにして、自分も動揺するのが分かった。
 何気なく聞いたつもりが、こんな反応をされるなんて。やはり何かあるのか。
 他に誰か好きな人ができた、とか。
 そんな事を言われたら俺は遥香に何をするか分からない。そんな気がする。
 せめて振られるなら明日は嫌だと思って、つい聞いてしまった自分を呪った。
 最悪の誕生日にはしたくなかった。
 だけど、遥香は動揺を押さえ込んで、けほんと咳払いをすると、少し考えるような仕草をした。

「んー、隠してる、というか。内緒にしてることならある」
「それ、どう違うの」
「そうだなぁ。隠してるって言うと、なんか嫌なイメージだろ? でも内緒なんだよ。まだ言えない。もう少し待って」
「嫌なことではないってこと?」
「たぶん」

 たぶん、嫌なことではない。
 自己評価が低すぎる遥香にそう言われても、全く安心できないのはなぜだろう。
 そう思っているのが顔に出ていたのかもしれない。遥香は、笑って言葉を付け加える。

「美行は、諒也なら喜んでくれるって言ってた」
「……その言葉が複雑なんだけど」
「え?」
「美行は知ってるのに、俺には内緒とか……」

 少し拗ねて見せれば、遥香はアワアワと言い訳を始めようとするけれど、ちょうどそのタイミングで遥香のスマホに着信がある。

「ちょっと待って諒也。……はい、もしもし静香?」

 俺を手で制して、遥香は通話に出る。静香さんかららしい。相変わらず仲のいい姉弟だな、と思う。

「あ、ホント? ……うん、……いや、そっち行く。ちょっとそのまま待ってて」

 プツリと通話を切ると、遥香は俺に待っているように言って静香さんたちの部屋へと向かった。
 先程の電話の様子からはとても安心したような嬉しそうな感じが読み取れた。
 もう少し待て、と言った遥香の言葉は、2年半前のことを思い起こさせる。
 俺のことを好きだけれど、まだ付き合えないと言った遥香。もう少し待ってほしいと、そう言われて俺は待ち続けている。
 まだ、待っていてもいいのだろうか。
 最近は、それをずっと悩んでいる。
 遥香の重荷にはなっていないだろうか、と。
 それだけが、心配だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

処理中です...