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02. 数日遅れのクリスマス
しおりを挟む年末年始とは言っても、オレは特に何をする訳でもないタイプだから普段と何ら変わりはない。そういう年越しを過ごしてきた。
まあ、アレだ。特に一緒に過ごす相手もいなかったし、実家に帰れば帰ったでめんどくさいので敬遠していたせいもある。
だから、ある意味で今年は本当に特別なのだ。だって初めての恋人と過ごす年末年始だ。それがいきなり『同棲の予行練習』とかナニゴトだと言いたい。
そんなわけで。
「なあ、理仁。年末年始って基本的に何するものなんだ?」
そういう質問に至るのだ。
「ん? うーん、そうだなぁ」
結局、あれからまた抱かれることだけは避けることができた。現在は『同棲の予行練習』中ではあるので、理仁の機嫌はすこぶる良い。
少し腕を組んで考えてから理仁はひとつひとつ例を挙げていく。
「まずは大掃除して、先送りにしてた年賀状書いたりもするかな。年越しカウントダウンして、ひと休みしたら初詣でしょ。あ、二年詣ででも良いよね。それからおせち食べて、お雑煮食べて、のんびり寝正月とか」
「へぇ……」
実家に居た時も、兄とは違ってオレは初詣とかには縁がなかったのだ。本当にただの休日の延長という感じだったから、理仁から聞いた内容の方が面白かった。
「二年詣でって何?」
「うーん、二年参りっていうのが正式だったかな? 大晦日から午前零時を跨いで参拝するんだよ。地域によって呼び方とかやり方とか違うらしいけど。大晦日の夜に参って、一旦帰ってから改めて参拝するやり方もあるよ」
「そうなのか?」
本当に面白いな、と思う。参拝の仕方がまるで違うのに同じ表現なのか。
「近くに割と有名な神社あるし、行ってみる?」
「行ってみたい」
自分でも驚くことに、即答だった。
めんどくさいことは避けてきた方だという自覚はある。その最たるものが恋愛だろう。だからこそ、この年になって初めての恋人だなんて事態になっているのだ。そのオレが理仁と二年参りだとか。そのうち大雪でも降るのかもしれない。
「わかった。じゃあ行こう」
にこり、と笑う整った顔。理仁は本当に年下には見えないな、としみじみ思う。
「ねえ、礼旺?」
「うん?」
「クリスマスっていう、恋人同士にとってはめちゃくちゃ盛り上がるイベントがあったんだけど」
「………………」
「忘れてたよね?」
「えっと…………」
そうだ、そうだった。潔いほどに平日だったせいですっかり忘れていた! オマケに年末進行と重なっていたから何もできていない。
というか。
「オレがそういうのに縁がなかったこと、知ってるだろ……」
忘れていたけれど、何も考えてなかった訳じゃない。だけど、どうしたらいいのかなんて分からない。
言い訳になるのかもしれないけど、何が正解なのかなんて、さっぱりだ。
「もちろん知ってるけど、期待してなかったと言ったら嘘になる」
「それは……うん、ごめん……」
さすがにオレだって、多少なりとも考えてはいたんだ。1ヶ月くらいぐるぐる悩みはしたけれど、結局、途中で放棄したのは事実だし、素直に謝った。理仁は今まではどんな恋人とどんなクリスマスを過ごしていたのか想像してムカついたりもした、なんて言ってやらないけど。そんなこと言ったら理仁の思うツボのような気がする。
「うん、怒ってないよ。だからね?」
「ん?」
理仁の笑顔が、なにやら企む顔になった気がしたのはオレの気のせいではないはずだ。
「これから、デートしよう?」
「……え?」
デート。
午後からのデート。嫌な予感しかしない。
嫌な予感しかしないけれど、オレには頷く以外の選択肢が残されていなかったのである。
こうして、理仁とオレの数日遅れのクリスマスデートが決行されることになったのだった。
街の中からクリスマスのムードはすっかり抜けて、今は正月の飾り付けなどが始まっていた。
いつもみたいに近場で済ませる簡単なデートかと思った。最初はそんな感じで始まったのに、流れるように人々の喧騒の中へと引きずり込まれていたのだ。人混みから庇うように理仁に肩を抱かれて、焦る。
決して『女』扱いではない。けれど、庇われるほど華奢な体躯でもない。
「……理仁、大丈夫だから」
「俺がこうしたいだけ。大丈夫、誰も見てないよ」
そりゃイケメンな理仁は向けられる視線に慣れているのだろうが、平凡なオレはそうではない。チラチラと時折向けられる視線が痛い。だけれど、オレの肩に手を回してご機嫌な理仁を見ているのも悪くはない。
心の中で天秤にかけた結果、オレはため息をついて理仁のしたいようにさせることにした。
寒いけれど陽射しもあるし、何より理仁と寄り添うように歩いているから気持ちはぽかぽかする。
ああ、そうか。こういうのが心が満たされるっていうのか。
ぶらぶらとウインドーショッピングをしながらの街歩き。休憩と称してカフェにも入った。そして当然のことながら、冬の日没は早い。そろそろ帰ろう、と言いかけたオレを制して理仁が向かった先は、オレでも知っているような有名なオーダーメイドのスーツを扱う店だった。
「こんにちは。例の、できてますか?」
「いらっしゃいませ、橘さま。はい、仕上がっております」
店員さんに理人が声をかけるのを見て、スーツでも新調したのかな、とのんびりと思って店内を見て待つつもりだったオレに、まさかの声がかかる。
「礼旺、着てみて」
「………………はい?」
固まってしまったせいで聞き返すタイミングがズレたオレの気持ちも察してほしい。
「シャツはこれと、ネクタイはこっちかな」
「え、ちょ……、理仁?」
「これで頼みます」
「かしこまりました。どうぞこちらへ」
「え? ……えぇ?」
反論する間もなく、理仁は選んだシャツとネクタイを男性店員に渡し、その人の良さそうな店員さんは穏やかに微笑んでオレをフィッティングルームへと押し込んだ。
パタンと閉まるドアをぼう然と見つめたオレを支配するのは混乱と絶望だ。
(待って待って待って! なにコレどういうこと!?)
落ち着け。落ち着こう、オレ!
動揺のあまり心臓がバクバクしてるけど、とりあえず落ち着こう!
通されたフィッティングルームの台に置かれたスーツは綺麗なラベンダーカラー。淡い色合いのスーツはスリーピースだった。店の性質から、もちろんタグやら値札なんてものは無い。先ほど理人が選んだシャツは薄いグレー。ネクタイは濃いめのブラウン。
ここまでお膳立てされて、ただ『着てみる』だけでは済まないことぐらい予想がつく。普段は量販店の手頃な吊るしのスーツしか着ないオレに高級店のしかもスリーピースのスーツなんて気軽に袖を通せるものでもない。
だけど、断る選択肢は絶たれていることも十分に理解していて、だからこその絶望だった。
(クリスマスプレゼント、とか言うんだろうなぁ……)
オレの方は何も準備できてなかったのに、理仁はしっかり用意していたってわけだ。
はぁ、と小さくため息をついて。覚悟を決めて思考を切り替えると、準備されたスーツにゆっくりと手を伸ばした。
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