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03. いざ、ディナー
しおりを挟む値段の見当もつかない触り心地の良いスーツ一式に身を包むと、なぜかストンと身体に馴染んだ。
(え、馴染む? なんで?)
いや、待って。本当に分からない。ここ、オーダーメイドの店だよな。オレ採寸なんかしたことないんだけど。
ふと頭に浮かんだ素朴な疑問がぐるぐる巡り始めた頃、ドアをノックされた。
「礼旺? 大丈夫?」
少し心配そうな理仁の声に、そんなに時間かかっていたか、と思わず焦る。
「大丈夫。ちょっと待って」
慌てて姿見でもう一度全身をチェックして、おかしな所がないか確認する。いや、どう見てもこの顔にこのスーツはアンバランスだとは思うけど。でも特に変なシワもなく、何より動きやすい。
うん。よし、大丈夫!
そう1人で頷いてドアを開けると、そこにはスーツに着替えた理仁がいた。
「時間かかってごめん……」
「礼旺!」
なにやら恥ずかしくてドアに隠れるようにして声をかけると、オレを見た理仁が嬉しそうに、ぱっと笑う。カッコイイな。くそ、イケメンめ!
「礼旺、可愛い! 綺麗!」
「理仁……それ男に対する褒め言葉じゃないだろ」
「えぇっ!? 褒めてるよ!」
「はいはい」
理仁の過剰な賛美の言葉にはかなり慣れてきたのでさらりと聞き流すことにする。
「……理仁は似合ってるよ」
「ふふ、ありがとう」
ぼそりと言えば、理仁は少し照れたように笑いながらオレに一歩近づいてきた。ダークブラウンの落ち着いたスーツに身を包んだ理仁はなんだか楽しそうだ。
理仁の大きな手のひらがオレの髪をさらりとかきあげ、そのまま頬に触れてくる。
「パターンオーダーだったけど大丈夫そうだね。さすが俺。今度は採寸してフルオーダーで作ろうね」
「……ん?」
何がなんだって?
不穏な単語を聞いた気がする。オレが固まっていると、理仁は時計を確認して店員さんに何かを促したようだった。何人かが動いたと思ったら、そちらに視線をやる前に理仁がオレの前に跪くようにしゃがみ込み、足元に革靴を差し出してきた。
「礼旺、靴はこっちね」
「はい?」
「いいから履いてみて」
「…………」
何度も言うが、本当に嫌な予感しかしないのだけれど、オレには選択肢がないのだ。
仕方なく示された靴を履いてみると、なんというか、しっかりしてるのに当たりがやわらかくて高級感をひしひしと感じる。
「歩いてみて違和感とかない?」
「……いや、大丈夫」
理仁の前で少し歩いて見せて答えると、それを見守ってくれていた彼が立ち上がる。
「ん。じゃあ行こうか。礼旺、おいで」
「え」
目の前に差し出された手のひらに、反射的に手を乗せていた自分が憎い。
そのままキュッと握られた手を引かれ、促されるままに店を出る。
「理仁?」
「レストラン予約してあるから。ね」
「……っ」
満面の、嬉しそうな楽しそうな笑み。見てるこっちが幸せになりそうな錯覚すら覚える。
準備万端、手配してあったらしいタクシーに乗せられて、今度は某有名ホテルに案内される。
手はずっと触れたまま。戸惑うオレを宥めるように理仁は笑い、ロビーからエレベーターに乗り込んだら3階にあるレストランまでエスコートされた。受付らしき人へ理仁が名前を告げると、すぐに窓際の席へと案内された。窓から見えるのは夕方から夜に変わった空と、キラキラとしたイルミネーション。
クリスマスまでじゃないのか、とは思ったけど、こういうのを近くで見るのは初めてかもしれない。
「綺麗だね」
「……うん」
理仁が言うから、オレは外を見たままでなんとなく頷いて、それからゆっくりと正面に座る理仁に目線を戻して、びっくりした。
頬杖をついて、なんとも言えないほどに優しく笑ってこちらを見ているからドキリとする。その表情に吸い込まれそうだし、心臓はドキドキしてくるし、本当にイケメンはずるい。
なんだか顔が熱くて、絶対に赤面してるのがわかるんだけど、理仁は何も言わない。
「あ……」
「礼旺?」
挙動不審になる前に、何か言わねば。いやもう既に手遅れか。
「えっと。……こういう所に連れてきてもらうの久しぶりな気がして、緊張する」
「そうだね。緊張してる礼旺も可愛いよ」
「……可愛くない」
「ふふ。そのスーツも似合ってる。貰ってね」
理仁はなんだかご機嫌だ。ずっとにこにこしてる。
でも、それとこれとは話が違う。
「いや、こんな高級なもの貰えないだろ」
「クリスマスプレゼントだよ。持ってて困るものじゃないでしょ?」
「うぐ。それはそうだけど……」
言葉に詰まっている間に、きちんとセッティングされたテーブルに前菜が運ばれてくる。
とりあえず、この話はここまでだ。帰ってからきちんと話し合いをしなければ。そう思いつつ、言葉の代わりにため息をこぼした。
「クリスマス当日じゃない方が静かだしのんびりできそうだね。ふふ。それにこの方が礼旺と付き合ってるなって感じする」
「……それ嫌味?」
「ううん、褒めてる」
「褒められてる感じがしないんだけど」
恋人いない歴と年齢がイコールだったオレが、恋人たちのイベント事に疎いのは理仁も承知しているはずなのに、と、なんだか落ち込みたくなってくる。いや、だからこそオレらしいってことのか? よく分からない。
「じゃあ、礼旺と俺らしいクリスマスに乾杯しよう」
飲み物を注がれたシャンパングラスを持ち上げて理仁が言うから、オレもそれにならった。行儀が悪くならない程度にお互いに捧げるようにして乾杯する。
「! これ美味しい!」
グラスに口をつけて、ひとくち飲んだシャンパンに思わず声を上げてしまう。
口あたりが良くてフルーティーな、それでいてスッキリしている味わいは女性好みなのかもしれない。
正直、理仁に会うまでは酒なんてどれも同じだと思っていたけど、本当にそれぞれに個性があるのだと知ったオレは目からウロコ状態だった。まあつまり、それまでは安い酒しか飲んだことがなかったってことなんだけど。
「良かった。礼旺が好きそうだと思ったんだ」
「……うん、ありがと」
「食事も礼旺の好みに合うといいな」
「理仁が選んだ店なら大丈夫だと思うけど」
「ふふふ」
理仁のこういうエスコート慣れしている所は、前の恋人の存在とかを意識させられるからなんとなく悔しいんだけど、それもやっぱり言ってなんかやらないのだ。
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