イケメンの年下上司に同棲を迫られています。

七海さくら/浅海咲也(同一人物)

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04. そうなるような気がしてた

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 美味しい酒と食事を堪能するかたわら、先程の店で着替えた服は理仁の家に届けてもらうように手配済みだと聞かされた。

(あの目配せはそういうことか……)

 なんというか、あまりにも用意周到でため息が出そうになった。
 外堀から埋めるタイプと言おうか……。うーん、でも逃げ道を塞がれたという感じはしないと言うか、それはいつものパターンなので、外堀云々っていうのはちょっと違うのかな。あれ、オレもしかして理仁の手のひらで転がされてる?
 ふと、今までの恋人はどうだったんだろう、と思ったけど、すぐに考えるのをやめた。比較しても仕方がない。オレはオレでしかない。
 それに、せっかくの美味しいものを純粋に楽しめなくなる。たぶん、全人類に共通することだと思うけど、美味しいものを食べるのは幸せなことだと思う。もちろんオレ自身がそうなので、目の前の食事を全力で楽しむために思考を切り替えたのだった。
 ところで、美味しい食事は酒がすすむものだ。それが美味しい酒なら尚更である。
 つまりどういうことかといえば、うん。理仁オススメの美味しい食事と酒で、デザートまで完食する頃には、オレはいい具合に酔っていたのだった。

「礼旺、歩ける?」
「ん、平気」

 別に足元がふらつくわけでもないのに、理仁が腰を支えてくる。とにかくふわふわと気持ちがいい。
 エレベーターに誘導され、2人で小さな密室ともいえる箱に乗るとやがて独特の浮遊感に包まれた。支えられた腰を引き寄せられて、頬に吐息を感じる。

「礼旺……」
「あ……」

 ダメだと言う間もなく唇を奪われた。

「んっ、……ぅ……」

 うっかり開いていた口から舌が差し込まれ、口内を掻き回されて思わぬ声が漏れる。
 こんな所で、とか、誰か来るかもしれないのに、とか。いつもなら浮かぶ拒絶の言葉が、曖昧にかすんでいく。
 ああ、相当酔ってるな、オレ。

「んんぅ、……っ、あ」

 首筋から耳裏を指先で撫でられ、ゾクゾクと震えが走った。
 思考にもやがかかる一方で、理性が少しだけ戻ってくる。

「ふ……、あ……だめ、りひと……っ」

 キスで絡め取ろうとする理仁になんとか抵抗して訴えると、困ったように微笑まれた。

「残念、酔い醒めちゃった? ぽやっとした礼旺も可愛かったのに」
「え……?」

 聞き返した瞬間にエレベーターが目的階に到着した電子音が鳴り、オレは慌てて理仁から離れようとしたけれどそれは意外と力強い彼の腕に阻まれてしまう。

(誰かに見られたらどうする気だ……!)

 バイセクシャルである理仁は、そのことを隠してはいない。だけど、社会的な立場というものがある。一介の会社員であるオレとは違う。
 社内ではまだ大目に見てもらえるかもしれないが、こんな誰が見てるか分からないような公共の場所であからさまな行動はダメだ。
 そう考えるだけの理性が戻っているのに、身体はいうことをきかなかった。まるで力が入らない腕で、トンと理仁の胸を叩く。
 エレベーターのドアが静かに開く気配がして、ギクリと全身がこわばるけれど、エレベーターホールは静かでオレたちの他に人はいないようだった。
 だけれど、ホッとしている場合ではなかった。

「あ……れ?」

 着いた先はロビーではなく、宿泊用の客室フロアだった。
 若干の理性が戻ってきているクセにアルコールが抜けきっていない身体はふらついているし、上手く考えがまとまらない。

「おいで、礼旺」
「え」

 腰を抱かれるようにして促されるままエレベーターから降りる。そのまま理仁は、じゅうたんが敷かれる廊下を迷いなく進んで、ひとつのドアの前で立ち止まった。カードキーで簡単な操作をすると、カチャリとドアを開ける。それを見てぼんやりと思い出したことがあったけど、もう遅かった。
 と、いうのも。

「うわ!?」

 ふわり、と身体が浮いたと思ったら理仁に抱き上げられていたのだ。しかも、いわゆる『お姫様抱っこ』、というやつだ。反射的に理仁にしがみついたけど、きっとそれも良くなかった。
 理仁はオレの顔を見てニコリと微笑むと、よどみなく部屋の中へと足を踏み入れる。
 まずい、と思ったのは本能だろうか直感だろうか。

「あの……、理仁?」

 やたら豪華な部屋。ベッドルームの無駄にデカいベッドの上にゆっくりとおろされ、完全に逃げ道が無くなったことを認めたくないオレの顔は引きつっていたことだろう。

「ね、礼旺。男が服をプレゼントするのは、『その服を脱がせたい』って意味があること、知ってた?」

 理仁はオレにのしかかるように追い詰めつつ、優しげな微笑みで随分と物騒なことを言う。両足の間に割り込ませるように身体を進められたら、もうこれは……。

「しらな……、んぅ」

 知ってても知らなくても、どちらでも結局は変わらなかった気がする。
 知らない、と答えようとした口はキスで塞がれて、同時に潜り込んできた熱い舌に口腔を愛撫するようにくすぐられた。

「んぁ……、あ、……っ」

 抵抗する力も気力も奪われて甘い声と吐息をもらしながら、オレはベッドに沈められた。

(ああ、やられた……)

 オレに選んでくれたネクタイを自らの手でシュルリと解く理仁の表情は、嬉しさと愛しさが混ざったような笑みであるのに、明らかな欲情が滲んでいた。


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