華燭の城

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 豊かな木々と花々に囲まれ、蒼い芝が風に揺れる。
 大理石の噴水を持つ大きな池を取り囲むように白い彫像が立ち並び、美しく手入れの行き届いた広大な庭園。
 高い城壁も、堀さえも持たないそこは、城と言うより宮殿と呼ぶに相応しかった。


 今、その庭園の中央に設けられた舞台の上で、一人の青年が一奏の笛の音と共に舞っていた。
 着衣は純白。衿元には濃紺の刺繍。
 その上に薄桃から、蒼、紫へと段々に色調を連ねた薄いシルクの上衣を幾重にもはおっている。
 透かしに似た模様がふうわりと舞風に揺れる様は、まるで天女の羽衣を思わせた。

 だがそれは、ただたおやかに美しいだけの舞ではない。
 腰に携えた双剣を振るい、百鬼悪魔を討ち倒す如く激しく、そして、神に祈れば神聖に満ちていた。

 それが神国第一皇子、シュリの舞う神儀の舞。

 自身の躰を器として神をその身に移し、神々の化身として舞うその姿を一目見ようと集まった人々は、自国の民のみならず、近隣諸国からも多くの要人、首脳が集まり、その数はゆうに万人を超えた。


 澄み切った空の下、たった一人のその舞はもう数時間にも及ぼうとしている。
 だが、息一つ……全く乱れる事のないその凛とした神々しい姿に皆は押し黙り、誰もが息を呑んで見つめ続けていた。
 中には、せいある内にこの神に逢えた事に感謝し、涙を流し、ひざまずき、手を組み祈る者さえいる。
 
 そして天空へ吸い込まれるように笛の音が消え、シュリが舞台を降りると、会場は、ようやく呼吸することを思い出したかのように、拍手と感嘆、崇拝と溜息の波に深く包まれていった。

 その声を聞きながら、舞台裏でシュリは膝から崩れ落ちた。


「大丈夫ですか!
 シュリ様! お見事でございました!」

 下で待っていた侍従達が、その身体を支えながら宮殿へと運び入れる。



 宮殿の一室。
 広間のソファーに体を横たえ、ひとしきり喘いだあと、シュリはやっと口を開いた。

「ああ、大丈夫……今日は思いのほか気温が高い……」

 それだけ言うと、ぐったりと目を閉じる。
 だがその顔には満足の微笑が浮かんでいる。

「ええ、ええ。本当にご立派で」

 初老の侍従長も優しく微笑むと、水を差し出しながら、その熱い額の汗をぬぐった。

「ありがとう、ジル。
 でも、すぐに着替えないとな……。
 この衣は、今年、この国で生まれる赤ん坊の産着になるのだし、少し汗をかいてしまったけど……大丈夫かな……」

 そう言って起き上がろうとするシュリに、周りで少しでもこの美しき皇子の世話をしようと集まっていた侍女達が、待ってました! と言わんばかりに嬉しそうに次々と声を掛けた。


「まだ無理をなさらなくて大丈夫ですよ!
 それに汗など、ご心配なさらずとも良いのです!」

「そうですよ!
 シュリ様が神として舞われる神儀の舞。
 その衣を分けていただけるのですから、これほど幸せな事はございません。
 それに、シュリ様の汗でしたら……多少、付いているぐらいの方が喜ぶと言うもの……!」

「そうでございます!
 赤子と言わず、私達にも分けていただきたいぐらいです!
 シュリ様の御休暇はたったの10日間。
 来週にはまた寄宿学校へ戻ってしまわれるのでしょう?
 私は寂しくて夜も眠れませんわ」

「私など、シュリ様の身の回りのお世話に学校までお供したいと思っておりますよ! お声さえ頂ければ、すぐにでも!」

「おいおい……」

 ジルが額に乗せてくれた冷たい布を腕で押さえ、目を閉じたままのシュリが、楽しそうな、それでいてどんどんエスカレートしていく侍女達の声を聞きながら、呆れたように微笑んでみせる。

「学校では誰も皆、身分も地位も関係ないただのいち学生だ。
 侍女を連れている者など誰も居はしないぞ?」

「それは――わかっておりますぅー……」

 ぷうと頬を膨らませた侍女の赤い顔を皆で眺めながら、広間に和やかな笑い声が広がった。
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