華燭の城

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 翌日の体調はやはり最悪だった。
 薬湯を飲んだ後は、必ず酷いだるさと息苦しさ、そして最悪の気分に襲われる。
 それでもラウに促され、用意された朝食をほんのわずかな量、無理矢理に飲み込んだ。

 それからまたしばらくの間、ソファーに倒れ込んだシュリだったが、ようやく動けるようになったのか、天井を見つめたままラウに声をかけた。

「今日は宴は無いのだろう……?
 だったら、また少し城内を歩きたい」

「ええ、今日から三日間、陛下は御公務で国外ですのでそれは構いませんが……お体は……?
 あまり無理をされず、今日はお休みになられた方がよろしいかと思いますが」

 その声にシュリは首を振った。

「この前のように、また皆に会いたいんだ。
 できるだけ多くの人に」

 ラウは小さく首を傾げ、シュリを見つめたが、
「わかりました。
 シュリ様個人への、国外からの謁見の申し込みも殺到していると聞いていますし、側近の方に、その辺りの事を聞いてみましょう。陛下と連絡が付くかもしれません。
 お返事が頂けるまではとりあえず……。
 今日は雨も上がっていますし、少しだけ散歩などはいかがですか?
 先日はダルクの所で時間をとってしまい、外には出られませんでしたから。
 城の敷地内だけですが、風に当たられては」


 
 城の造りは、部屋から見たよりも遥かに複雑な構造で、廊下で繋がった棟や館がいくつも連なった形になっており、その棟ごとに用途が決まっていた。

 ガルシアのいる、あの黒扉のある館は主棟と呼ばれるだけあって、城の中でも一番大きく高くそびえている。
 シュリの部屋は、その主棟に隣接した館にあった。

 初めてこの城に来た時、皆が出迎えたホールや、宴が行われた大広間は公用の館にあり、そこには役人達の執務室もあるらしかった。
 その公用の館の正面扉を開いて、二人は外に出た。



 広い庭だった。
 だが、庭と言っても美しい庭園があるわけではない。
 ただ石畳が敷き詰められただけの広場だ。
 そこをラウと並んでゆっくりと歩いた。
 少し冷たい風が、まだ熱っぽい身体に心地良い。

「緑は……木は一本も無いんだな」  
 何も無い、石だけの道を歩きながらシュリが呟いた。

「木、ですか?」
 ラウが不思議そうに返事をした時、広場の奥から快活な声が聞こえてくる。

「……あれは……?」
 何気なくそちらへ足を向けたシュリの後を、ラウもついて行く。


 通路を抜け、再び開けた場所に出ると、そこでは兵士達が一列に整列し、剣の稽古をしているところだった。

 兵士と言ってもまだ皆、年も若く、最年少と思われる小さな子供は、握る剣の方が大きく見える程だ。
 剣を振るうというより、振った剣の重さに自分が振り回されている。
 その横で士官らしき男が号令をかけていた。

「あんなに小さい子も兵士なのか?」
 足を止めたシュリが尋ねた。

「ええ、あれは訓練兵です。
 まだ実戦には出ませんが、毎日こうして訓練をしているようです。
 剣の他にも武道や、銃火器の取り扱いも学びます」

 ラウは、近くの石造りのベンチをシュリに勧めながら答えた。
 だがシュリは、ベンチに腰掛けようとはせず、立ったまま、掛け声とともに剣を振る兵士達をじっと見つめている。
「あれほど幼い時から……」

 しかし、心配そうなシュリの顔とは反対に、皆の顔はどれも生き生きとし楽しそうに見える。
 訓練といっても、小さい者は大きい者に負けじと、そして大きい者は小さい者の手本になろうと、互いに気遣い、思い遣っているのが見てとれる。

「笑顔が……。
 楽しそうにしていて……あれなら大丈夫そうだ。
 ……私も久しぶりにやりたくなったな。
 剣術、好きなんだ」

 安堵の表情を見せたシュリが、兵士達の方へ歩き始める。

「シュリ様、まだお体が……」
 
 驚いたラウが慌てて後を追った。
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