華燭の城

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 シュリの願い、想い……。
 それは何ひとつ自身の為ではなく、全てが世界の国の為、信仰の為。
 
 シュリの背負ってきた運命の重さを知って、
「そうなる事を私も祈ります」
 ラウはそう返すのがやっとだった。


 場の音が、冷たい風だけになる。

「それで……」
 重い沈黙を嫌うようにラウが口を開いた。

「それで、シュリ様はあれほどにお強いのですね」

「さっきの……あれか」

「はい。
 幼い頃より修練されたシュリ様に挑むなど、私が身の程知らずでした」

「確かに、あれは神儀の双剣術だ……。
 普段の戦さに使う物ではないが、百鬼と戦うために実戦的にできている。
 ……そしてあれは……。
 神儀以外で表に出すことも禁じられている神国の秘匿……」

 そのシュリの言葉に、ラウが驚いたように顔を上げる。

「でしたら……!
 それならば、あのような場で他者に見せるのは……」

「そうだな……。
 なぜ、あそこで双剣を握ったのか、と聞かれたら……。
 純粋な目で真摯しんしに剣術を学ぶ子供達に私の剣技が、何か少しでも役に立つならと思ったんだ……。
 ……とでも言えば聞こえが良いかもしれないな」

「……シュリ様?」

 ふっと自嘲の笑みを浮かべたシュリの顔を、ラウが心配そうに見つめた。

「なぜだろうな……。
 急にむなしくなった……。
 幼い頃から、血の滲む思いで修練してきた剣術がもう無用になった。
 私の存在その物が、無意味になった。
 私の行ってきた事、全てが……。
 そう思うと、最後に誰かに見て欲しいと……そう思ったのかもしれない。
 神の子としての、不可侵不犯の掟を破ってしまった私にはもう何一つゆるされないのだから……」

 そこまで言うと、シュリは再び笑みを浮かべた。
 それは全てに絶望した悲しい微笑みだった。

「そのような事は……!
 ……シュリ様ご自身の望みは何か無いのですか?」

 小さく息を吐くシュリの横顔に、ラウが慰めのように問いかける。
 国のためではなく、自身のための望みをと……。
 だがシュリは柔らかく笑んでラウに顔を向けた。

「私に何かを望むなど……もう許されはしないだろう?
 ここで、ガルシアの下で生きるしかないのだから……。
 だが、もしできると言うなら……。
 できれば、せめてもう一度神国へ戻り、皆の元気な顔を見たいと……そう思うだけだ……」

 ラウは言葉に詰まり、もう何も言い返せなかった。
 その場凌ぎの慰めで望みを聞いておきながら、そのささやかな願いさえ、自分は叶えてやることができないのだ。

「申し訳、ありません……」
 頭を下げる事しかできなかった。

「ラウが悪い訳じゃない。謝らなくていい。
 それに少し話し過ぎた。
 ……ごめん、今のは忘れて……」

「シュリ様は……。
 どんなお姿でもシュリ様です。
 私は神国の掟は存じませんが、この国においてのシュリ様が、皆の希望であることは間違いないのです。
 だから……」

「ありがとう、ラウ……」

 悲し気なその笑みに、ラウはそれ以上何も言わなかった。
 再び静寂が訪れ、冷たい風音が二人の間を走り抜けて行く。

「……寒くなったな、部屋へ戻ろう」

 そんな空気を払拭するように、シュリがラウの顔を覗き込み、棟の方へ小さく首を傾げながら微笑んで見せた。
 それはもう、いつもの穏やかなシュリのものだった。

「はい」
 ラウも顔を上げる。

「……そういえば……。
 諸外国から出されていたシュリ様への謁見の件ですが、陛下の許可が下りたそうです」

「えっ? もう? それは本当か?」

 話をしたのは今朝の事だ。
 その回答の早さと、何よりも、外の人間と交流を許された事に驚いていた。

「あれほど秘密が漏れるのを恐れていたのに……」

「はい。ですが勿論お一人では叶いません。
 必ず陛下付きの側近の方が三名以上、お側に居ること……というのが条件との事です。
 陛下としても外国からの来賓を、そう無下にお断りできないのでしょう」

「ガルシアの側近というのは、そんなに大勢いるのか?
 皆、公務に同行して行ったのでは?」

「側近の方は、は側近ですが、言わば陛下の私兵です。
 その人数、構成とも正確には公表されておりません。
 噂では、10人、20人……それ以上とも……」

「私兵か。確かにその方がピッタリだな」

 シュリの脳裏に、あの車で一緒だった黒服の、屈強なオーバストの姿が蘇っていた。
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