華燭の城

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「ああ、そうだ! 見たいと言えば……シュリ!
 私がここに居る間に一緒に乗馬をしないか?
 学校で見られないなら、お前の馬を駆る姿を是非もう一度見ておきたい」

「……乗馬、ですか?」

 ナギのどんな話題にも、澱みなく話しを合わせていたシュリだったが、さすがにこれは自分の一存で返事をするわけにはいかなかった。

 城から出る事を許されていないのだ。
 まして昼食にまで同席するガルシアが許すかどうか……。

 困惑したまま、伺うようにガルシアへ視線を向ける。

「……良いではないか。
 シュリもで疲れているようだし、良い気晴らしになるだろう」

「あ……ありがとうございます」
 驚く程あっさりと許可が出たのには、シュリも驚きを隠せなかった。

「だが、まだ体調も優れぬのだろう?
 まだ慣れぬ国、慣れぬ城外は何かと危険も多い。
 護衛にワシの側近を何人か連れて行くがいい」

 ガルシアの後ろに立つオーバストが “承知” の意を込めて小さく頭を下げる。

「お心遣いありがとうございます。
 ではそのように……」

 シュリが言い掛けるのをナギの掌が軽く上がり、ガルシアの腹の内を制した。

「ああ、それなら心配無用。護衛はヴィルひとり居れば十分だ。
 1人でそこらの兵、10人、20人分ぐらいは優に働く。
 それに大勢でぞろぞろと連れ立つのは余計に目立つだろう?
 そういうのは、あまり好きじゃないんだ、我ら三人でいい」

「しかしそれでは! 殿下!」
 ガルシアが、あからさまに悔しそうな表情を見せ唇を歪める。
 
「では殿下、ラウムだけでも同行させていただけませんか?
 私もまだこの国に不慣れ。ラウムに道案内をさせましょう」
 形勢不利となったガルシアを助太刀するように、シュリが申し出た。

「道案内か……。確かにそれは必要かもな。
 しかし……こう言っては申し訳ないが、使用人に乗馬ができるのか?
 それに見た所、脚が悪そうだしな……」

 ナギがシュリの後ろ、杖を持って控えるラウに目を向ける。

「……ラウ? どうだ?」
 シュリも振り返り、脚を気遣った。

「上手くはございませんが、私でよろしければ御供致します」

 その答えにシュリの顔がパッと明るくなる。

「陛下もよろしいですか?」
 その笑顔を一瞬で元に戻し、冷静な顔で正面へ向き直ったシュリが、ガルシアに尋ねた。

「ああ……ラウムも一緒ならば……いいだろう。
 しかし、やはりここはワシの側近を三名。
 皆の邪魔にならぬよう、遠巻きにつけさせる。それが条件だ。
 ラウム、シュリの事、頼んだぞ」

 ガルシアの “くれぐれも” が強調されていたのは “秘密は絶対に知られるな、死守しろ” という意味だ。
 ガルシアとしては、自分の居ない所で交わされるこの二人の会話を、一言も漏らさず聞きたいのが本心。
 だが、今はこの条件で許可を出すしかない。
 あまり渋っては余計に怪しまれる。
 側近三人でも、居ないよりはマシだ。

「承知致しました」
 頭を下げるラウに、シュリはもう一度振り返り嬉しそうに微笑んだ。

「遠巻きに三名……。
 邪魔にならないようにするなら、まぁいいか……」
 ナギもそれで同意する。

「しかしーー……」
 ガルシアが、幾杯目かもわからなくなったワインに手を伸ばしていた。

「今は雨の時期、乗馬りができる程晴れるのは、いつになるか……。
 残念ながら、無理かもしれませんなぁ」

 あくまでも独り言を装って、残念至極と言う口調で、ガルシアがナギの方をチラと見る。
 あっさりと許可を出した思惑は、それもあっての事のようだった。
 現に、ここ数日は毎日雨ばかりだ。

「ああ、それなら心配に及ばない。
 学校も長期の休みを取ったし、皇太子と言っても、私はシュリ程忙しくない。
 ちょうどいい機会だから、ここでしばらく羽を伸ばさせてもらうよ。
 そのうち晴れる日もあるだろう」
 ナギは事も無げに笑みを浮かべ、ガルシアの独り言をサラリとかわす。

 ことごとひるがえされる自分の意見。
 ガルシアの表情がハッキリと変わり始めていた。

「しかし殿下。
 学校が同じと言うなら、すでにシュリの事は御存知でしょうに。
 現に昨夜も親し気なご様子。
 それなのに今更『シュリの人柄を見てから書を渡すかどうかを決める』などと……。
 いったいどういう了見なのか、全く理解できませんな」

 厭味いやみたっぷりなガルシアの言葉に、そろそろヴィルの我慢が限界に達しようとしていた。
 だが背中で感じるヴィルの怒気さえも、ナギは笑って制した。

「だから『ここで羽を伸ばしたい』と言っているだろう?
 聞こえなかったか?
 国では立場上、なかなか遊べなくてな。
 人柄を見ると言ったのは、あれは方便、皆への体裁だ。
 ああ言えばゆっくり遊べる」

 クスクスと笑うようなナギの返事に、
 
「……クッ……!
 ならば好きにされるがよい!」

 ガルシアは唇を噛み、その後、一度も口を開く事はなかった。
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