華燭の城

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「……証……拠……」

 蒼白のシュリの顔が、嗤っていた。

「……それを取るための……ゴホッ……お前の見張りだろ……。
 私の馬に……ついて来られないような……無能な見張りなど……何人居ても……無駄だ……。
 証拠が欲しければ……もっと……有能な諜報を張り付かせることだ…………」

「何だと……? 随分と生意気な口を利くではないか。
 帝国の後ろ盾を得て、気が大きくなったか?」


 ……フッ……。
 その言葉にシュリは、思わず嘲笑に似た苦笑いを零していた。
 今のこの自分に、後ろ盾などある訳も無く、そんなモノに何の意味もない。


「そもそも……あんな……外にも慣れぬような馬を与え……。
 殿下に何かあったらどうする気だ……。
 後ろ盾どころか……帝国に宣戦布告するような真似をするなど……。
 ……自滅したいのか……?」

「シュリ……! いけません!
 お止め下さい……!」
 ラウが動かない脚を押さえながら、必死に手を伸ばす。

 だかシュリの冷めた視線は、一度も外れる事なくガルシアを睨み続けた。

「……黙れ!」
 シュリの両手を押さえつけるガルシアの手に力が入る。

「ンッ!!」
 痛みで思わず顔を歪ませ、シュリは唇を噛んだ。

「最初からあんな小僧など居なくて良いのだ!
 帝国皇太子であろうと、なんだろうと、慣れぬ国、慣れぬ馬で馬駆けをしたいなどと言い出したのはヤツだ!
 城の外で、どんなが起ころうとも、ワシの知った事ではない!
 丁重に悔やみの言葉を贈るだけの事!」

「……まさか……本気で殿下を亡き者に……。
 ……馬鹿な……」

「そうだと言ったらどうする!
 あの小僧の命が惜しいなら、即刻! 親書を手に入れて来い!
 明日だ! 明日夜、もう一度、受書の宴を行う!
 これが最後のチャンスだ!
 それまでにお前が親書を手に入れられなければ、あの生意気な小僧は生きて国には帰れぬと思え!」

「なんという愚かな……。
 それがどういう結果になるか……お前には判らないのか!
 国中を巻き込んだ戦争になるんだぞ!
 帝国と戦さなど……。どれだけの犠牲が出ると思っているんだ!」

「……!
 利いた風な事を言うではない!
 誰がそんな口をきいてよいと言った!
 ワシを怒らせるとどうなるか……!」

 ガルシアの目に再び狂気が宿った。

 押さえつけたシュリの右手だけを、力任せにギリギリと鷲掴み、ひしぐ。
 ガルシアの手の中で、シュリの骨の軋む音がした。
 
 それでもガルシアは、本来、物質の持つ “体積” という大きさの概念を完全に無視し力を加え続ける。

「……ンっっッ……! やりたいなら……やればいい……!
 そうやって……ンッ……ラウの脚も……砕いたのだろ……!」

「ああ、そうだ! それがどうした!
 お前の脚が使えぬのは色々と不都合だ。
 まだ手だけで済む事に感謝するんだなっ……!!」

 そう言い終わると同時だった。
 ガルシアの拳の中で、グシャ――とシュリの右手の甲骨が砕ける鈍い破砕音がした。

「……ン”ッッーーっ!!」
 短い叫びと共に、シュリがグッとガルシアを睨み付ける。

「どうだ! 骨をし折られた気分は! 痛むか!?
 こちらもいくか?」

 ガルシアの手がシュリの左手を握った。


「まぁまぁ、陛下。
 外に傷を作っては後々困るでしょうに」

 不意にガルシアの巨体の後ろで声がした。
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