華燭の城

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「……連れていけ」

 そのシュリの声で、ガルシアが盾に捕まえていた守衛兵の首を突き放すと、兵はよろめきながらも前に出て、両膝をついたヴェルメの腕を「来い!」と鷲掴む。

 数人の兵に腕を取られ、広間からヴェルメの姿が消えると、シュリはクルリと振り返った。
 そこにはラウが、シュリの前にうやうやしく跪いていた。

 シュリは無言のまま、ラウの前に剣を握った左手をスッと差し出す。
 ラウも黙って頭を下げると、跪いたまま、シュリの手から親書と剣を受け取った。
 正確には――握ったまま、すでに開く力さえ無くなったシュリの手から、剣を外し取った。

 そのままラウは立ち上がり、一礼するとシュリの腰の鞘も手に取る。
 奉剣を鞘に、親書を筒に収め直すと、それらを携えたまま、再びシュリの一歩後ろへと下がり片膝を付いた。

 蒼白の美しき気を纏う神の子と、それに寄り添う黒髪の従者。
 そこまでの一連の無言の行動は、何かの儀式のように、淀みなく美しく流れ、その場に居た人々は、神降臨の儀でも見るように、息を呑んで見つめていた。


「よくやった、シュリ」
 静まり返る人々の感嘆の息の中、ガルシアの声が響き、広間は氷が解けたように再び動き出す。

「おおー!」
「なんと美しい!!」
「今、まさに神が降臨されたぞ!」
 堰を切ったように人々から大きな歓声があがった。


「殿下、急にご無理を言いました。
 親書をお返しします」

 シュリがそう言うと、ラウは筒に収め直した親書を両手に乗せ、跪いたまま頭を下げて、それをナギに差し出した。

「いや、シュリ……。
 俺……、、私も色々言ったが、今ここでお前の覚悟、ハッキリと見せてもらった。
 お前がそこまでこの国の王となる事を望んでいるのなら、私は何も言うことはない。できる限り応援させてもらう。
 そして、その親書が少しでもお前の役に立つのなら、それはお前の物だ」

 ナギは小さく頷き、シュリの横にいたガルシアにも視線を移す。

「帝国皇帝閣下から預かった親書、確かに渡したぞ、ガルシア。
 これからはシュリと共に国の繁栄と安泰に力を尽くせ」

「有難きお言葉、肝に銘じます」

 ナギの前で、ラウから親書を受け取ったガルシアがこうべを垂れた。
 それに続きシュリも頭を下げると、広間に拍手の嵐が沸き起こる。
 ここぞとばかりに押す新聞記者のカメラのシャッター音と、フラッシュを焚く光が三人を眩く包み込んだ。


「さてと……。
 一仕事終わった事だし、私はそろそろ国へ帰るよ、シュリ。
 いろいろと世話になったな。
 今度はお前が遊びに来い、いつでも歓迎する」

「ありがとうございます……」

 シュリの方へ向き直ったナギが握手を求め右手を差し出したが、シュリはそれには全く気付かぬフリで、視界全てが床に覆われるまで深々と頭を下げた。
 
 そして頭を下げたまま、
「父上……私も少々身なりを整えて参ります。一度退出の許可を」
 そうガルシアに告げた。

「ああ、よかろう。 
 これでナギ殿下とシュリは退場するが、宴はこれからだ!
 皆、思う存分楽しんでくれ!」

 親書を手に入れ目的を達したガルシアは、未だにシュリ達から目を離さず、その一挙手一投足に心を奪われている会場に向かって、満足の声を上げた。


 “受書” という大任を終えた帝国皇太子と、騒乱の場を見事に収めてみせた美しき皇子に、惜しみない賞賛を送ろうと、広間に再び盛大な拍手が沸き起こる。
 その中でナギは、皆に軽く手を挙げながら、ヴィルを従え、正面の扉から広間の外へと出て行った。

 二人の後ろ姿を見届けると、
「……行くぞ、ラウム」
「はっ」
 ラウが立ち上がり、後ろに控えるのを見て、シュリは反対側にある王族専用の扉へと歩き出した。
 その後を、奉剣を持ったラウが静かに続く。


 再び楽団の奏でる音楽が鳴り響き始めた。

 人々は、まだ興奮冷めやらぬ様子で、部屋を出て行くシュリの姿に見入り、その背が扉の向こうに消えるまで、熱い眼差しで見つめ続けた。
 
 そして姿が見えなくなると、今度は満面の笑みで祝話に興じ、今、目の当たりにしたばかりの美しき皇子の勇敢さと強さ、そしてその行動を口々に褒め称え、ヴェルメの騒ぎなど何も無かったかのように、宴は再開された。
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