華燭の城

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「おい、ラウム、何をしている! さっさとあいつ等を殺ってしまえ!
 手加減するなと言ったはずだぞ!」

「……そうですね。
 いつまでこうしていても、心は鈍るばかり……」

 ラウは小さく息を吐き、独り言のように呟くと、握っていた剣をカチャリと眼前に捧げ上げた。

 対峙たいじする近衛隊が一斉に剣を握り直し、緊張の顔で身構える。
 ラウの剣の腕前は、近衛隊長ヴィルの大剣をはじき飛ばした事だけでも相当だと判っている。
 まして、罠があるというなら油断はできない。

 誰も言葉を発しない静寂の中、近衛隊がジリジリと慎重に間合いを詰めようとした刹那だった。
 一瞬の月灯りを受けてラウの剣が翻った。


「ウ”ッ……」

 そして――
 短い苦悶の声と共に体をったのは、ラウと体を密着させていたガルシアだった。

「陛下!?」
「陛下っー!」

 側近達が口々に叫び、一斉に走り寄ろうとするのを、無言のままのラウの冷たい目が睨み、制止させる。


「ングッ……! ……お……おまえ……」
 ガルシアが苦しそうに呻き、両手で押さえた脇腹には、深々とラウの握る剣が刺さっている。

「……な……に……を…………」

 ズルズルと倒れ込みそうになるガルシアを、ラウはしっかりと左腕で抱いたまま、ズッ――! と一気に剣を引き抜いた。

「……ンッっ……!」
 ガルシアの声と同時に、腹から血が吹き出し、見る見るうちに石の地面に溜まっていく。

「手加減するな……と言われたのは貴方あなたですよ」

 その冷然たる声に、ガルシアの目がラウを凝視する。

「裏切っ……たのか……ラウム……。
 ……ワシを……どう……して…………」

「“己以外信じるな” と言われたのも、貴方です」

「……グッ……」

 内腑から込み上げた血を、口から一気に吐き出すと、ガルシアはもう一度ラウを睨み付けた。
 だが、体に力は入らず、地面に膝をつきそうになるのを、ラウが再び抱き寄せる。

「まだ逝くのは早い。
 に謝ってからにしていただきたい」

 出血が増えすぎないよう、ラウがガルシアの体に回した腕で、容赦なく腹の傷口を押え付けると、その痛みにガルシアは呻き声をあげた。

「母……」
 目の前で繰り広げられる光景が信じられず、誰一人声さえ出せなかった中で、ようやくナギが呟いた。

 そう言われたガルシア自身さえも小刻みに首を振り、意味が判らぬという仕草で、ラウを睨み上げている。

「まだわかりませんか? どこまで愚かな人なのか……。
 私の本当の名は、シヴァ・アシュリー」

「アシュリー……」
 シュリがポツリと呟く。

「私の母は、貴方が最初に迎えた妻。黒髪の王妃を覚えてはいませんか?
 私は貴方と、その母との間に出来た子」

「そんな……。あの時の子は……死んだはずだ……。
 生まれてすぐに……死んだと……そう聞いて……」

「ええ、貴方への報告はそうらしいですね。
 でもそれは、貴方が『男子さえ生まれれば妃は用無し、葬ればよい』と、その時の城医に命じていたからです。
 その医師は迷った挙句、私も母も死んだと……そう報告して逃がしてくれたのですよ。
 どうして貴方がそこまで女性を忌み嫌うのか判りませんでしたが、先のナギ殿下の……貴方の生まれに纏わる話……。あれが当たっているのでしょうね」

「まさ……か……。あの時の子が……お前……」

「ええ、そのまさかです。
 この痣に見覚えは?」

 ラウは剣を握ったままの右手で、自分の左上腕にある痣を覗かせた。
 だが、ガルシアにはその意図も理解できず、小さく首を振る。

「でしょうね……。
 27年前、もし貴方が少しでも父親らしく、産まれた我が子を一度でもその腕に抱こうとしていたら……。
 あ、いや……。貴方にそこまで求めるのは無理ですね。
 産まれた子を、ひと目だけでも見ようという情があったなら、その子に、この特徴的な痣があったのは、すぐに判ったはず。
 だが、貴方は10歳の私の体を見た時も、何も言いはしなかった。
 あれから何十回……何百回と私を抱きながら、貴方は気付かなかった。
 当たり前です。貴方は生まれた私を一度も見た事がない。
 母と私の葬儀の日、棺が空だった事さえ知らないのですから……」

 ガルシアの口から再び血が溢れ出る。

「大丈夫ですか? 父上。
 まだ話は終わっていませんよ」
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