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 時間だけが過ぎていく――

 30分……40分……
 二人がいる地下6階の部屋は、まだ静かなままだ。
 
 銃を握り締めた腕が痺れていた。
 敵は全員、浅葱達のいる5階へ向ったのかもしれない。
 先程まで聞こえていた爆発音も、今は少し遠くなっていた。
 
 もう、ここには来ないのか……。
 そう思った時、後ろで匠が呻く小さな声がした。

「匠さん!? 大丈夫ですか……!?」
 
 振り向くと、匠が苦しそうに肩で息をしていた。
 その呼吸はひどく荒い。

 どうして……。
 さっき鎮静剤を打ったのに……。
 浅葱さんも、もう落ち着くと言ったはずなのに……。

 深月は握っていた銃を台の上に置くと、刺激しないように、そっと匠の額に指で触れてみた。
 ひどい高熱だった。

 ……!
 何か……何かできる事は……!

 慌てて室内を見回した。
 手術室らしき部屋の棚には、多くの薬品が並んでいる。
 おやっさんのケースの中には、浅葱が使った注射器もまだ残っている。
 だが、それには色違いのタグが付いていた。
 おやっさんと違って医学の知識がない自分には、その意味も、棚の薬品の使い方も全くわからない。

 いったいどうすれば……!
 そう思うと余計に気持ちが焦った。

 ……そうだ……!
 今のうちに、おやっさんに連絡をして指示を仰げば……。
 
 浅葱達の使っている同じインカムもあったが、タブレットなら直接映像が送れる。
 リアルタイムで匠さんの状態を、おやっさんに見てもらうのが一番良い。
 
 深月はその場に屈みこんでタブレットを操作し始めた。
 だが何度、通信を試してみても画像は映らない。

 なぜだ……! なぜ繋がらない…………!
 くそっ……こんな時に……!
 ……おやっさん! 早く出てくれ……!!!



「……ンッ……っ……!!!」

 タブレットを操作しながら焦る深月に、匠の呻く声が聞こえた。
 その声にハッとし、顔を上げる。

「匠さん……!! 大丈夫…………――」

 言いかけた深月が見たのは、横向きになったまま必死に体を支え、苦しげに唇を噛み締め……力の入らない腕を重ねて…………浅葱の銃を握る匠の姿だった。
 
 そしてその銃口は、自分……。
 深月に向けられていた。


「……!! ……な……なんで……!」

 深月の手からタブレットが、ガタンと音を立て床に落ちた。
 その時、深月は浅葱の言葉を思い出した。
 
 ……見えていない……。
 そうだ、自分と匠さんは面識が無い。
 初対面の自分を敵だと……混乱した意識で匠さんがそう思ったとしても、何の不思議もない……。



「……うご……くな……」
 浅葱の銃を向けたまま、匠は深月にそう言った。

「待って…………――!」
 深月が言いかけるのと同時だった。


 一発の銃声が響いた。
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