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「深月も、今まで俺が教えた通りにやれ。
 ターゲットが俺だからって遠慮はするな。
 気に入らない事があれば、本当に撃ってもいいぞ」
 浅葱はそう冗談のように言うとフッと微笑んだ。

 浅葱が二人の正面に立つ。

「始めろ」

 深月は戸惑っていた。
 こんな事をしていいわけがない……。
 ……どうしたら……。
 判断が付かず、困り果ててオヤジの方を見た。
 オヤジは黙ったまま腕を組み、じっと自分達を見つめていたが、深月の視線に気が付くと……小さく頷いた……。

 ……おやっさんっ……!?
 なんでっ……!!
 助けを求めたはずのオヤジにGOゴーサインを出され、深月はオヤジの方を向いたまま、仕方なくゆっくりと腕を上げ銃を構えた。


 二つのポインターの赤い印が同時に浅葱の額を狙った。
 深月は両手で銃を握り、浅葱に対し真っ直ぐに正対する。
 匠は右手だけで横に向いて構えていた。

「二人共、安全装置を外してトリガーに指を掛けろ、実戦と同じだ。匠はもう少し右上だ」
「おい!! 恭介…………!!」
 オヤジは咄嗟に何かを言いかけ立ち上がったが、そのまま拳を握って、ドサリと体を元に戻した。

 背の高い浅葱の額を狙うと、少し上向きに構えなければならない。
 それは匠よりも背が低い深月の方が不利だ。

 深月は緊張していた。
 もし少しでも指が震えたら……。
 引き金を引いてしまったら……。
 落ち着け……落ち着け…………落ち着け…………。
 必死に自分に言い聞かせる。

 横には匠が立っていた。
 匠はずっと浅葱を睨んでいるように見える。
 実際にその視界には何も見えていないのだろうが、その視線は迷う事無く真っ直ぐだった。


 5分―― 10分――
 音の無い部屋にゆっくりと時間だけが刻まれていく。

「深月、銃口が揺れてる、安定させろ。匠、下がってるぞ、もう少し上だ」
 時折、浅葱の声がする。

 30分が経つ頃、深月のポインターは安定してきていた。
 最初は焦りと緊張で震えた手が、今は落ち着きを取り戻し、ピタリと浅葱の額を狙ったまま動かなくなっていた。
 
 だが匠のポインターは逆だった。
 わずかに震え始めていた。
 
 ……真っ直ぐに腕をあげているだけなのに……。
 どうしてこんなに震える……。
 いつも握っていたはずの銃がひどく重く感じた。
 指一本、トリガーに掛けているだけでも腕への負担が大きかった。

 ハァ……ハァ……
 少しずつ息が上がる。

 40分を過ぎた頃には、背中がひどく痛み始めていた。
 右腕は痺れ、要らない力が入ると余計に背中が痛む。
 見えない標的を睨む目も、必死で呼吸を整えようとする胸も痛んでいた。
 ポインターの赤いマークもフラフラと揺れて浅葱の顔にかかる。

「匠、どうした、下がってるぞ。もっと上だ」
 冷たい浅葱の声に歯を食いしばり、グッと銃を握り直した。
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