115 / 232
-114
しおりを挟む
「あ、これ……片付けて来ますね」
深月は慌てて二つの銃を持って立ち上がり、笑顔を見せて部屋を出た。
ずっとおやっさんに見られていては、いつ涙が零れ出すか、わからなかったからだ。
途中、匠の部屋の前まで来ると、いつものようにドアが開けられている。
匠さん……。
そっと中を覗くと、ベッドの横に座り、心配そうに匠を見つめる浅葱の姿があった。
その姿はもう何度も目にした光景だった。
そういえば、浅葱さんはいつもああやって匠さんを……。
「深月……」
部屋の入口にいる深月に気が付き、浅葱が声を掛けた。
「あ、はい……」
匠を起こさないように浅葱の側まで行く。
「……あの……匠さんの様子は……」
「……」
じっと匠を見つめるだけで浅葱の返事はない。
眠っている匠。
それは “静かに眠っている” とは決して言えなかった。
浅く早い呼吸、苦しそうに息をしながら、呻いて腕を押さえ、体を捩る姿……。
少し体が動くようになった分、痛みに耐える姿は余計に痛々しかった。
「匠さん……」
深月は思わず浅葱の横に跪いた。
「深月、さっきは悪かった」
浅葱が深月に謝るのは初めてだった。
「いえ……。おやっさんが少し話してくれました……」
「オヤジが……。そうか……」
「匠さん……ここまでしなくてもいいのに……」
深月が苦しそうな匠を見つめたまま呟いた。
「1つずつだ……」
「えっ……」
「1つずつでしか、消化できない……。
初めは痛みと苦しさ。
次は傷が消えない事への絶望。
そして今は……思うように体が動かないことへの焦り……。
それでも1つずつ、匠は消化してここまできた。
もちろん納得のいく物なんて1つもないだろうが、我慢し、耐えて……諦めて……。
そうしなければ生きて行けない……」
「耐えて……諦めて……。
傷が残る事も……。
……だからこの前、あんな風に笑ったんですね。匠さん……」
深月は、タグを掛けてもらった日の、あの悲しそうな笑顔が忘れられずにいた。
そしてきっと、それを乗り越えるために、浅葱さんは自分の知らない所でも、ずっと匠さんを支えてきたんだ……。
「浅葱さん……。
さっき……匠さんじゃなくて、僕が浅葱さんを撃ってたかも……しれませんよ?」
「構わん。そう言ったはずだ」
浅葱はそれが、まるで普通の事のように平然と応えた。
「構わんって……! 違うでしょ!
そこは普通、構うでしょ……!
匠さんじゃなくて、僕が殺してたかもしれないんですよ!」
「いいんだ、深月……それでも……。
それにお前は緊張に弱いだけだ。
確かに最初はかなり動揺して銃口が揺れていたが、一度、自分ですべきことがわかれば、お前は失敗しない」
「いいって……そんな……」
浅葱に少しでも認められた事は素直に嬉しい。
だが、その浅葱の潔過ぎる言動に、深月は言いようの無い不安を覚えていた。
浅葱さんって……。
自分が死ぬことを何とも思ってないのかもしれない……。
じゃあ、そんな浅葱さんの生きる支えも匠さん……?
お互いに……支え合って…………。
考えれば考えるほど、胸が締めつけられ苦しくなった。
匠さん……。
「匠さん……もう大丈夫ですよね……?
体だって、少しずつでも良くなってきてるし……。
これからはだんだんと元気になっていって……もう、こんなに苦しまなくていいですよね……」
匠の体にそっと指で触れながら、深月が祈るように呟いた。
「……まだ……越えなきゃいけない大きな壁がある……」
その声に深月が驚いて顔を上げる。
「……まだ……? まだ……って……?」
応えを待ち横顔を見つめたが、浅葱はそれ以上、何も話そうとはしなかった。
ただじっと匠を見る目がひどく辛そうで、深月は何も言えなくなった。
深月は慌てて二つの銃を持って立ち上がり、笑顔を見せて部屋を出た。
ずっとおやっさんに見られていては、いつ涙が零れ出すか、わからなかったからだ。
途中、匠の部屋の前まで来ると、いつものようにドアが開けられている。
匠さん……。
そっと中を覗くと、ベッドの横に座り、心配そうに匠を見つめる浅葱の姿があった。
その姿はもう何度も目にした光景だった。
そういえば、浅葱さんはいつもああやって匠さんを……。
「深月……」
部屋の入口にいる深月に気が付き、浅葱が声を掛けた。
「あ、はい……」
匠を起こさないように浅葱の側まで行く。
「……あの……匠さんの様子は……」
「……」
じっと匠を見つめるだけで浅葱の返事はない。
眠っている匠。
それは “静かに眠っている” とは決して言えなかった。
浅く早い呼吸、苦しそうに息をしながら、呻いて腕を押さえ、体を捩る姿……。
少し体が動くようになった分、痛みに耐える姿は余計に痛々しかった。
「匠さん……」
深月は思わず浅葱の横に跪いた。
「深月、さっきは悪かった」
浅葱が深月に謝るのは初めてだった。
「いえ……。おやっさんが少し話してくれました……」
「オヤジが……。そうか……」
「匠さん……ここまでしなくてもいいのに……」
深月が苦しそうな匠を見つめたまま呟いた。
「1つずつだ……」
「えっ……」
「1つずつでしか、消化できない……。
初めは痛みと苦しさ。
次は傷が消えない事への絶望。
そして今は……思うように体が動かないことへの焦り……。
それでも1つずつ、匠は消化してここまできた。
もちろん納得のいく物なんて1つもないだろうが、我慢し、耐えて……諦めて……。
そうしなければ生きて行けない……」
「耐えて……諦めて……。
傷が残る事も……。
……だからこの前、あんな風に笑ったんですね。匠さん……」
深月は、タグを掛けてもらった日の、あの悲しそうな笑顔が忘れられずにいた。
そしてきっと、それを乗り越えるために、浅葱さんは自分の知らない所でも、ずっと匠さんを支えてきたんだ……。
「浅葱さん……。
さっき……匠さんじゃなくて、僕が浅葱さんを撃ってたかも……しれませんよ?」
「構わん。そう言ったはずだ」
浅葱はそれが、まるで普通の事のように平然と応えた。
「構わんって……! 違うでしょ!
そこは普通、構うでしょ……!
匠さんじゃなくて、僕が殺してたかもしれないんですよ!」
「いいんだ、深月……それでも……。
それにお前は緊張に弱いだけだ。
確かに最初はかなり動揺して銃口が揺れていたが、一度、自分ですべきことがわかれば、お前は失敗しない」
「いいって……そんな……」
浅葱に少しでも認められた事は素直に嬉しい。
だが、その浅葱の潔過ぎる言動に、深月は言いようの無い不安を覚えていた。
浅葱さんって……。
自分が死ぬことを何とも思ってないのかもしれない……。
じゃあ、そんな浅葱さんの生きる支えも匠さん……?
お互いに……支え合って…………。
考えれば考えるほど、胸が締めつけられ苦しくなった。
匠さん……。
「匠さん……もう大丈夫ですよね……?
体だって、少しずつでも良くなってきてるし……。
これからはだんだんと元気になっていって……もう、こんなに苦しまなくていいですよね……」
匠の体にそっと指で触れながら、深月が祈るように呟いた。
「……まだ……越えなきゃいけない大きな壁がある……」
その声に深月が驚いて顔を上げる。
「……まだ……? まだ……って……?」
応えを待ち横顔を見つめたが、浅葱はそれ以上、何も話そうとはしなかった。
ただじっと匠を見る目がひどく辛そうで、深月は何も言えなくなった。
1
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる